Vacaciones
仕事で休暇が取れた君、何処で何して過ごすか?
おそらく、近辺のテーマパークやショッピングモールで友人や恋人と遊びに行くのが大多数だろう。
そしてそれ以外は実家に帰ったり、旅行に行ったりと計画するわけだ。
しかし、ここで"とある"問題が発生する。
【旅行先で犯罪に巻き込まれたらどうしよう?】
多くはこの考えを思い付かず、意識しないで海外に行ってしまうだろう。(これは私が持つ単なる偏見である。過剰に反応する方が馬鹿だと思うね。)
例えば、何処かの世界遺産のある国に行ったとする。(ここに記載すると「差別するな!」と言ってくるキチガイが現れるので書かない。)
まあ、楽しく施設や遺産を廻って、夜はゆっくり何処かのレストランで乾杯でもしようと考える。
そんな時に"血眼で銃を持った人狼"が数人入って来る。彼らは母国語で「手を挙げろ!」だの「この中に○○人が居たら殺す!」だの、自分達を脅迫してくる。
たまったもんじゃない。せっかくの休みを潰しやがって。そう思わない?
しかも、そいつらは下手したら問答無用で殺してくる。そいつらの私情で自分の命が犠牲となる。
馬鹿げた話じゃないかい?
ならお前はどうするのかって?良い質問してくれたなあ?
私なら【休日を潰してくれたエテ公に、ささやかな恩を返す】よ。
ささやかな恩って何のこと?言わなくても分かるはずだ。サスペンスドラマを見ている輩ならね。それか、【眼には眼を歯には歯を】って言った方が良いかな?
何にせよ、休日は誰にも邪魔されない方が嬉しいよね。
マール・オリエンタル村からマニャーナ村に戻って来たキャメロン達は、早速宿を取って休憩していた。
「今回こそは旅行に行きますからね!!」
「はいはい、分かった分かった。」
「僕………海行きたい…………!!」
「海か?泊まれる宿があれば行くが。」
「ありますわよ!!この大陸の極東に大きな橋があって、その先に娯楽施設や宿泊施設、広いビーチがありますのよ!!」
「貴様………好きなことだけは詳しいのだな………」
「むっ、失礼ですわね!!違いますわよ!!ちゃんと本は読んでいますわよ!!」
「それで何だ、その極東までは何時間かかるんだ?」
「そうですわね………馬車だと五時間ぐらいですわね。朝から行きませんとゆっくり楽しめないですわね。」
「明日行くのか?」
「いいえ!?明日は服を買いに行きますわよ!!」
「服………?何で…………?」
「あの地域では、オシャレな服を着た沢山の種族が来るんですのよ!!変な服装で歩いたらからかわれますわよ!!」
「大袈裟だな。なら何を着たら良いのか。」
「キャメロンはスーツに決まってますわ!!私はドレスですわね!!えっと、花菜は…………」
「………?」
「えっと………」(そのままで良いって言えないですわね………)
「何………?」
「あ、後で決めますわね!!」
「それで買うお金はどうするつもりだ。」
「あっ、そうですわね。依頼で稼いだお金を使いましょう!!」
「しかし、何処からその金が出てくる?」
「受付嬢に聞くしかないですわね………」
組合が閉まるまでまだ時間があるので、花菜はオハナと宿でお留守番をしてもらい、二人で支部の方に向かった。もちろん花菜には鍵を閉めろと言っておいた。
建物を覗いてみると、ほとんど組合員は居ない。おそらく何処かの宿を取っているだろう。
「おー、久しぶりですね!!キャメロンさん!!今回の依頼は長かったですねー。」
受付嬢が玄関先に彼らを迎えに来た。手には書類の山。
「あっ!!手伝いますわよ!!」
「ありがとうございます!!それで………今日はどのような件で?」
「どうしたら依頼で貰った金を引き出せる?」
「ふっふっふ……………その質問、待ってましたよ!!」
と、彼女は受付のタブレット端末を再起動させて、画面に表示されている文字を彼らに見せた。
「【組合ではキャッシュレス制度を導入しており、証明書に付属されたチップでお支払いできます】だと………?」
「へえー!!便利ですのね!!」
「現金では面倒臭いですからね!皆さんが気持ちよく使えるように数年前から実施しているんですよ!!」
「じゃあ、どうすれば入金されていると分かる。」
「そりゃあもちろん、私達が組合員のID番号で調べるので、言っていただければ確認できますよ。」
「ならお願いする。」
受付嬢は早速、キャメロンのIDを入れて【預金検索】をかけた。すると───
「嘘でしょ………どれだけ稼いでいるの………?」
表示された金額に驚いた彼女は、タブレット端末の画面に指差して彼らに見せた。
「300万円ですよ!!入ってからここまで稼げるとは舐めてましたね………」
「俺達を何だと思っていたのだ。」
「まあまあ………これだけあれば旅行も行けるし、衣装も買えますわね!!」
「おやぁ?今回は依頼を受けないんですか?」
「ええ、そうですのよ!少しでも休みたくて………初任給で行く旅行を楽しみたいですわ!!」
「おおー!!いいですねぇ!!"お二人で"ですか………?w」
受付嬢はニヤニヤしながらそう質問した。すると水蓮は顔を真っ赤にして、
「ち、ちちち、違いますわ!?勘違いしないでください!!」
「おっと、そうでした。あの少年も引き連れているんでしたね。」
受付嬢はクスクスと笑い、「失敬、失敬。」と場の空気を戻した。
「それで、何処に行くんですか?」
「貴様が気にすることなのか。」
「そりゃあ気になりますよー!」
「水蓮が言うには、この大陸の極東にある場所らしいが。」
「ああ!あの人気の観光地ですね!!毎年人が多くて、予約も取れない年もあるんですよー!!」
「ほう………」(俺の知らない場所ばかりだな。)
「羨ましいですねー!どうぞ楽しんで来てください!!」
証明書の使い方を確認して宿に戻った。外に薄く月が現れており、夜空はゆっくりと町を包む。
泊まっている宿の中に小さなバイキングがあり、そこで四人は好きな食べ物を取って食事をした。
「そういえば、服装はどうするつもりだ。あの観光地では豪華な恰好をした人々が来るのだろう?」
「あっ!そうですわね………ここから少し離れた場所に買い物ができる専門店街がありますわよ!!行ってみません?」
「そうしようじゃないか。花菜達はどうするのだ?」
「置いて行くのは心配ですわね。連れて行くとしても、事件に巻き込まれたら怖いですし………」
「預けられる施設はそうそう周辺には見つからんだろう。」
「うーん………あっ!そうですわ!!」
彼女の表情が急に明るくなった。どうやら思い当たる節があるようで。
「あの受付嬢に預けてみません!?」
「はあ?」
流石にキャメロンは水蓮の予想外な意見に呆れるしかなかった。
忙しいであろう組合の受付嬢に何故花菜を預けなければいけないのか。託児所じゃあるまい。
「だって他に何処にあるんですのよ!!あの方は面倒見が良さそうですし!!」
「絶対に前者が本音だろう………」
ため息を吐きつつも、自分はこの大陸自体を把握していないから仕方ないという気持ちがあった。
「それ以外の方法は考えていますの!?」
「いや、もちろん無い。」
「なら決まりですわね!!」
そんな彼らをよそに花菜はディナーに食い付いていた。育ち盛りはすぐ平らげるので、おかわりに行ってしまうのである。
次の日、花菜を組合の受付嬢に預けてもらった。その時の花菜の顔は何とも言えない表情だった。(正確に言うと、少し寂しそうな顔をしていた。)
水蓮の言っていた専門店街は馬車で二十分かかる。もちろん私用での馬車は一回の利用で1000円固定である。要するに"また"水蓮の奢りと言うことだ。
とはいっても、証明書でキャッシュレス決済できるので支払いたいところだが、無駄遣いはしたくないとキャメロンがうるさいのである。
自分が支払わずに水蓮ばかりで良いのだろうか?(これに関しては作者の主張が介入しかねない。)
今回の馬車の運転手は褐色の女性。かなり若く、雰囲気が爽やかだ。
「こんにちは!今日は何処まででしょうか?」
「周辺の専門店街でお願いしますわ!!」
「かしこまりました!!」
彼女は紐を強く揺らせ、馬は走り始めた。
「ところでお二人さんは恋人ですか?お似合いですよ!!」
「えっ、えっ、違いますわよ!?」
「あれっ、そうなんですか?てっきりそうだと。」
「俺達がそう見えるのか。」
「ええ、何だか仲良さそうに見えます!!」
彼女はハキハキした声音でそう答える。当の水蓮は紅潮し、キャメロンはくだらなそうな顔を見せた。
窓から見えるのはバラバラに植えられている木々やアブラナの花畑。この大陸自体は気候変動が激しいのだろうか。村から出る度に季節が見えるように変わる気がする。
「そういえば、お客さん!!知っていますか?」
「ん?何がだ?」
「お客さんの行く村には白いペストマスクを被ったフードの人が現れますよ!」
「何だそれは。意味が分からないのだが。」
「説明するとですねぇ、牛車を引いている人が現れるんですよ!しかも一週間滞在して、その後はランダムに何処かの村や街、都市に現れる………怪しいと思いません?面白い話題でもあるでしょ!!」
「いや、そのペストマスクの人って何者ですの………」
「知らないですけど、何か商品でも売っているんじゃないんですかね?私は話しかけたことないので。」
「ほう、気になるな。見かけたら話しかけるとするか。」
「えぇ………趣味悪いですわね………」
「やっぱり気になりますか!!もしその人に話しかけたら、私にその話の内容を教えてくださいね!!」
この女性はオカルトが好きなのか、その謎の人物に対しての興味が絶えない。
キャメロンも"あの"神隠し事件以降は、都市伝説(らしい出来事)の真相が気になるのである。
単なる興味本位ではなく、完全に刑事のごとく調査するために聞いているのだ。
約十分後、白い建物群が見えてきた。小さな丘まで建物が並んでいる。
本当にこの大陸には色々な種族が住んでいると実感するキャメロン。
「もうそろそろ着きますわね!!何を買いましょうか!!」
「早とちりだな………」
その時、窓にあのペストマスクの人が牛車を引く姿が見えた。気のせいだったのだろうか、いつの間にか何処かに行ってしまった。
(………本当にいるのか?)
街の入り口前に着き、運転手は街の近くで待機すると言った。これでゆっくりと買い物ができる。おそらく運転手も出かけるかもしれない。
街はまるでイタリアの世界遺産の町に似ており、商店街もあれば住宅街もある総合型街道。
綺麗な正方形の石が道に舗装されていて、溝もあるので下手に走ったら転けそうだ。
「会場用の服を売っている店は何処だ?」
「そうですわね………あっ!!ここに地図の載っている看板がありますわ!!」
看板には綺麗な絵が書かれている。手描きの地図だ。美術家に頼んだのだろう。
丘周辺の建物群は住宅地で、今キャメロン達が居る周辺の大半は商店街である。
正装専門店はどうやら現在地から2km先にあるようだ。
「食事はどうするのだ?」
「買い物の後にしましょうか!」
目的地に着き、扉を開けると、煌びやかな服類がマネキンに飾られていた。アクセサリーはショーケースに厳重に保管されている。その中の一番高いネックレスのダイヤは小さいにも関わらず透明度が高く、プリズムがはっきりと見えて更に美しく魅せる。
店はよくある洋服屋とは違い、某国の首都圏に存在する正装専門店と同じく二階もある広さであった。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?」
レジの奥から白髪の年配男性が出て来た。とても紳士な雰囲気が伺える。
「今日はリゾート用のワンピースとスーツを買いに来ましたわ!!」
「おやおや、最近は若者が行くことが多くなりましたな。あのリゾート施設は昔は大富豪だけが集まっていたそうだが、時代は変わりましたな。さあさあ、お好きな洋服を選んでくださいませ。」
見回ってもいいということなので、キャメロンはスーツ類が展示されている二階へと向かった。
スーツを選ぶにも、自分にはどの色が似合うのか分からない。そもそもコーデなど考えたことないのだ。
「黒色か藍色か………」
いつも着ている服は寒色系ばかりだが、このようなイベントの場合は派手な色合いの方が良いのだろうか?
そんな派手な格好をしている自分を想像してみる。
黒の帽子に派手な柄物スーツ、黒のサングラス。
(気持ち悪いな………鳥肌が立ったぞ。)
すると後ろから、
「キャメロン!!どのドレスが私に似合いますの!!」
二着のドレスを持って、キャメロンに見せつける水蓮が居た。片方は赤色で、もう片方は紫である。
女性の好みなど全く知らないキャメロンには選べと言われても分からないのである。
「どちらでも良いじゃないのか?」
「どちらでもって!どちらか選ぶんですのよ!?」
「それならば、赤色でどうだ?色相環図上では青と赤の組み合わせは良いのだが。」
「論理的ですわね………まあ、良いですわ!!」
「適当な奴だな。」
「ところでキャメロンはもう決めましたの?」
「決められないからお前が決めてくれ。俺ではどうにもできん。」
「なら黒色の方が似合いますわ!!ネクタイを付けるのもどうでしょう?」
「いや、要らないだろう。首が苦しくなるだけだ。」
他にも水蓮は彼のズボンを決めていたり、自分の髪飾りを選んでいた。もはや完全に恋人の買い物に見えてしまう。そりゃあ周りの人は勘違いしてしまうだろう。
今回はもちろん水蓮………ではなく、キャメロンが珍しく気を使って全額一括払いしてくれた。
「これでやっと安心して昼食を摂れますわ!!」
「買いすぎたな。イベント後はきっちりと依頼をこなしてもらうからな。」
「ええ!!もちろん頑張りますわ!!」
(絶対に文句言うだろうな。)
すると、店の外では人々が大声で騒いでいた。扉を開けて様子を見ると、獣人や鬼人、人間が何かを見るために街の出入り口に集まっている。キャメロン達も見に行こうとする。
「何が起きたんだ?」
「【傀儡政府】のメサがやって来たんだよ!!」
「【傀儡政府】、だと?何処かで聞いたことがあるのだが、確か水蓮が言っていた………」
水蓮の方に振り向くと、彼女の顔が真っ青になっていた。そうだった。彼女が【傀儡政府】という言葉を神隠し事件の時に発していた。
「水蓮、お前どうした?気分が悪いのか?」
「いっ、いえっ!!大丈夫ですわ………」
「おい、人間・鬼人・獣ども!!オレサマに殺されたくねえんなら、この街の所有権をこちらに渡せ!!」
メサは何か装置のような物を背負っている。中に入っている液体が泡立てている。
「さもなくば………塩酸をばら撒くぞ!!」
装置から噴射機らしきホースが四本出てくる。
「ひぃいいいいい!!」
「それだけは止めてくれ!!お願いだ!!」
(公の野郎と作った装置は頑丈だぜ!!塩酸でさえ溶けねえ金属でできているんだからな!!)
クスクスと気持ち悪い笑みを浮かべて、自分は無敵だとしたり顔を見せる。
そんな彼の前にあのペストマスクの人が通りかかる。牛車を自分で引いている。その牛車には布が被されており、盛り上がっている部分には何があるのか分からない。
「おい!そこの白カラス!!悪魔であるオレサマの前を横切るな!!」
「……………」
「聞いているのか!!」
すると、牛車を引くのを止めたペストマスクの人が布を被せた荷台の中から─────大剣と苦無を取り出した。しかも片手で。
「あのペストマスクの人が武器を取り出したぞ!」
「まさか剣使いだったとは………」
群衆が盛り上がり始めた。キャメロンはそのペストマスクの人が何を仕掛けるのか"期待"し、水蓮はただ怯えたままだった。
白カラスはメサの方へ振り向いた瞬間、苦無をホースに向けて投げた。
百発百中。見事にホースを引きちぎった。
「ふーっ………ペストマスクが邪魔だな。前が少ししか見えぬ。」
「チッ!!貴様ァ!!」
白カラスの男はメサに近付いて来る。大剣を軽々と右手に持ちながら。
「おまえみたいな悪魔が私に勝てるとでも思っているのか?」
「何だとッ………!?」
「おまえの異能力は把握済みだ。禁索体・メサ=ディアブロ。おまえら党員もな。」
「嘘を吐くな!!貴様がオレサマ達を全部知っているわけg」
「子犬がほざいたことを言うな。嘘吐きは何処の誰だと思っている。」
白カラスの低く重たい声がメサに刺さる。メサが顔を下げてスイッチを押そうとした瞬間、彼の背負っていた装置の紐が斬られた。
そう、いつの間にか白カラスがメサの背後で装置を持っていた。
「ちょっ!!」
「隙を見せたのが馬鹿だったな!!悪いがこの装置はいただく!!」
彼はメサの背中に強く蹴りを入れて、牛車を引いて狭い路地に逃げて行った。
「待てやクソ野郎が!!」
メサは羽を広げ、その目をカッと見開かせて、白カラスを追いかけて行った。
「所有権が奪われなくって良かったぜ………」
「本当に傀儡政府って無礼な政治家が多いのね!!」
「ペストマスクの人のおかげで命拾いになったな!!」
人々が文句や安堵の声をあげて各々の場所に戻る中、キャメロンと水蓮は立ち止まったままだった。
「あの男、誰かと声が似ているような気がするが。」
「キャメロンじゃないですの?声が似ていますわね!!」
「………まさか、【もう一人の自分】(ドッペルゲンガー)じゃないだろうな。」
「こ、ここ、怖いことは言わないでくださいな!!見ると死にますわよ!!」
「たとえもう一人の自分であっても、偽物だから怯えずに殺せばいい話だ。さあ、昼食を摂りに行くぞ。」
食事を摂っている間に水蓮は政党について、キャメロンは白カラスについて考えていた。
(水蓮はあの男の声は俺に似ていると言っていたが、俺は自分の声について実感がない。そんなに似ていたのか?)
(傀儡政府が動き始めていますわね………確かそろそろ議会選挙で、その後に議会の中で首相を決める。誰がこの大陸の上に立つのでしょうか………?)
両者は黙々と食事を進める。沈黙を破ったのはキャメロンだった。
「この後はどこか行きたい場所はあるか?とは言っても、丘の上しかないのだが。」
「へ?あ、えっと、花菜達が心配なので帰りましょうか。」
「それもそうだな。」
街の出入り口付近を出ると、運転手は馬車で居眠りしながら待っていた。叩き起こして、やっとの出発。
「お客さん、ペストマスクの人とお話しましたか!!」
「いや、していないな。政治家と戦っていたのは見たが。」
「まさかの傀儡政府の党員と戦闘ですか!!」
「何故戦った相手が傀儡政府の者だと分かるのだ。」
「だって傀儡政府は"力でねじ伏せて町を支配する"組織ですよ!!誰でも普通の人なら分かっていますとも!!」
(それくらい傀儡政府は悪名高いのか。覚えておこう。)
「社会主義は悪い文明ですよ!!全く!」
「他の政治家はそんなことはしないのか?」
「私の知る限りでは彼ら以外はしていないとは思いますがねえ。時々、共産主義や資本主義の政治家が口論するのを見かけることはありますよ。どうせ選挙絡みでしょうけど。」
(この世界の現状が複雑すぎるな。何度も糸が絡んで解けない。)
疑問がまた疑問を生み出す。
(そういえば悪名高い理由に賛同できるのは、あの神隠し事件の発電所だな。発電所自体の建設は傀儡政府が運営する会社であった。更に気になってきたぞ。個人的に調査したいものだ。)
キャメロンは村に戻るまでは自己の探究心で頭がいっぱいだった。その横では水蓮が深刻そうな顔で下を向いていた。
村に戻って花菜達を迎えに行くと、受付嬢が言うには「いや〜彼が進んで手伝ってくれたんですよ!!一日受付係って感じで!!」………だったらしい。
その後は夕食を共に摂り、明日のリゾート施設観光のために早く寝た。
キャメロンは目を覚ました。彼は気が付くと、小さな小屋で懐中電灯を持っていた。
服装はこの前と同じ長シャツにズボンである。だが問題だったのは───
(俺の手袋がない!!何処で無くしたんだ!?)
"人様に見せてはいけない部分"が丸見えである。
(あっ、ズボンのポケットの中に入ってた………)
懐中電灯を地面に置いて、早速手袋を嵌めると─────地面から急に水が出てきた。
(どういうことだ!?)
小屋の出口を開けようとするが、全く扉が動じない。いくらドアノブをひねって引っ張っても開かない。
(クソ!!何で俺がこんな目に遭わないといけないんだ!!)
扉を強く叩いて、悔しく歯ぎしりする。
水が腰の上まで来た。水圧のせいで身体が押されていく。
数十秒後には頭が水没していた。彼は半ば諦めた顔で口を開いていた。
天井まで水が到達した瞬間、水は地面にすぐ染み込んでいった。
『はあぁ!!………ゲホッ!ゲホッ!!………ふーっ………ふーっ……ふーっ…………』
口に入った水を吐き出し深呼吸した。肺にも水が入ったのだろうか、痰も絡まった唾液らしき体液も出てきた。
(一体何だったんだ………何が起きている!?)
すると、誰かが彼の背中を叩いた。後ろを振り向くと、フードを被った老人男性が杖を持って佇んでいた。
『ちょっと君、こちらに来なさい。』
老人に腕を引っ張られ、小屋の奥まで連れて来られた。周りの部屋は水のせいで内装や家具が崩壊し、ドアも傾いていた。
そして彼の目の前の扉は他の物よりも頑丈で、元々あった状態であった。
『これが何なのか分かるかね、君?』
この狭そうな部屋の中のことを指しているのだろうか。キャメロンは恐る恐るドアノブをひねり、ゆっくりと扉を引いた。
その中には─────無数のひよこの死体が無造作に散らばっていた。
彼らの産毛には泥水で汚れ、目も半開きだった。
『う、うわあああああああ!!』
壊れた懐中電灯を放り投げて、小屋から逃げ出した。
と思っていたが、外ではこの前見かけた顔が黒塗りの少女に待ち伏せされていた。
『ひっ!?』
『お兄さん、これあげる。』
手渡されたのは数本のブルースター。何処で拾ってきた花なのかは分からないが、彼女の膝の泥を見れば、必死に探していたのが分かる。
『貴方の見ている夢は現実だけど現実じゃない。貴方を愛してくれている人の昔からの気持ち。』
その言葉と共にキャメロンは別の場所に飛ばされた。
彼は何処かでビルの入口で雨宿りしていた。外では土砂降りの雨の音がうるさい。
彼の手にはあのブルースターが握られており、服と髪は雨水で濡れていた。
(俺は………誰かを待っている?)
遠くからカツンカツンという誰かが走る音が聞こえる。
『***!!何処だ!!***!!』
男の声が聞こえてくる。誰かを探しているようだ。
(まさか俺を探して………)
すると、男性が彼の目の前に現れ、ほっとした表情(何よりも顔がぼやけているために分かりにくい)でキャメロンを見つめた。
『良かった………心配したぞ!!さあ、帰るぞ!!』
男は彼に手を差し伸べたが─────
『お前は、誰なんだ。』
キャメロンは涙を流しながら、そう答えるだけだった。
ゆっくりと目を開け、キャメロンは照明近くに置いた眼鏡をかけた。
この頃、変な夢ばかり見る。正直に言うと、心臓に悪い悪夢でも見たら死ぬかもしれない。
窓を開けて外の風景を眺める。まだ夜が明けていない。
それでも目が覚めてしまったので、ただただ日の出が上がるのを待つしかなかった。