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Bruja agil

【傀儡政府】共々が後ろを振り向くと、そこには青色のとんがり帽と雪の結晶がボタンになっているローブを着た小さな少女がいた。
彼女のウェーブのかかった長髪は氷のように水色で、目の色は青空を思わせる綺麗なセルリアンブルーだ。右手にターコイズ製の杖を持っており、それには最高カラットのサファイアがブリリアントカットで装飾されている。

「何だ、お前は?生き残りの子供か?ならば容赦なく燃やしてやろう!!」

アブラハムの右手から黒炎が散発される───のだが。

「【防御】(プロテクション)!!!!」

少女は杖を前にかざして、雪の結晶のような形の壁が現れる。その壁は黒炎がぶつかるとともに破壊される。

「相殺、だと!?」

「アタイを………舐めないで欲しいね!!」

少女はふんすと左手を腰に置いて、このように言った。

「アタイは─────



【民衆中核会】幹部のチルディア=コレル=ラピドだ!!」

その会派の名前を聞いた瞬間、彼らの場は凍りついた。

「まさかそんなわけが!?こんなガキが【民衆中核会】の手先など………!!」

と、ウルフが獣のように本能的に口悪く言うが、アブラハムは彼女の肩を持ってなだめようとする。

「待て。焦るな、ウルフ。お前は興奮しているだけだ。」

「………すみません、アブラハム様。」

そして彼女は再度チルディアの方に立ち直って、右手親指の爪を顎にトントンと付けた。

「少女チルディアよ。お前は【民衆中核会】の幹部だと名乗っているが、その証拠がなければお前を"ただの子供"と見なして、すぐさま斬首を実行するが?」

「名刺ならいくらでもくれてやるぜッ!!」

と、チルディアは所持していた斜め掛けの大きな鞄から名刺を取り出し、それをアブラハムの方へ"苦無を扱うかのように"投げつけた。
彼女はそれを、右手の中指と人差し指の間で受け取った。その名刺にはこう書かれていた。



民主主義会派【民衆中核会】所属・チルディア=コレル=ラピド(Name: Childia Corer Rapido)
《担当職務》:庶務

しかも、てへぺろと言わんばかりの表情で写真に映っている。



「ほう………なるほど。」

アブラハムが満足げにそう呟く。もらった名刺を胸の谷間にしまい、口角をあげてこう言った。

「庶務担当が偵察とはこれ如何に?」

「休憩中の散歩と兼ねてだとしたらどうだ?」

お互い一歩も意見を引かず、見つめ合っている。しばらくの静寂の後、最初に口を開けたのはアブラハムの方だった。

「イズミル!お前はこの"仇敵の手下"を"饗応"せよ!!手加減はするなッ!!」

「承知しました、我が母よ。イズミルが必ず"もてなし"てみせます。」

アブラハムの命令に応えて、イズミルは帽子を脱いで彼女の前で跪く。
そして、イズミル以外の幹部は彼女が作った転送装置で本部へと帰還しようとする。

「待てっ!!」

チルディアが追いかけようとすると、いつの間にか"何かに持ち上げられて"空中に浮いていた。

「な、何だ!?」

「お相手はアブラハム様ではなくて私ですよ、チルディアさん。」

イズミルが右手人差し指をチルディアに向けており、その指からは翠色のエフェクトが漏れている。
その時、チルディアは察した。

「分かったから!!街の外で戦闘するぞ!!」

「なるほど、市民の保護を確保するのですか。何とも馬鹿馬鹿しい………!!」

その発言で腹が立ったのか、イズミルはチルディアを地面に"強く叩き落とした"。

「いってえな!!場所も広けりゃあ、お前も満足して"重力を操れる"だろうが!!」

「……………以外と"策士"ですね、貴方は。ならば要望に応えてあげましょう。貴方は"お客様"ですからね。」

「上等だ!!」





街を一歩外に出れば、舗装されかけている道と無作為に生えている木々が風景として現れる。
もちろん、周りには人影一つも見当たらない。彼女ら二人だけである。
誰も彼女らの戦闘に口出すことはない。彼女ら勝手気ままに"接待"し合うのだから。
まるで人の感情を読み取っているかのように、冷たい風が強く吹いている。

「………"マフラークソ眼鏡"はお元気でしょうか?あの時の演説以来、外には一歩も出ていないと聞いていますが?」

「アタイらの党首のことか?そりゃまあ、元気さ。"少し怪我を負っている"けどな。」

「そうですか、なら良かったです。」

「何でアタイらの党首の心配をするんだ?別にオマエには関係ない話だろ?」

「念の為です。気にしないでください。」

会話が続かない。何故ならば彼女達の目的はお互いの"接待"、要するに"能力を持つ者同士の戦い"である。
………いや、それは間違った表現なのかもしれない。
正しく暗喩を用いるとすれば、"政治家(いのうしゃ)同士で互いの理念(いのうりょく)をぶつけ合う"と言ったらいいのか。
"人民を悪の束縛から解放する氷の魔女"か"利益を優先したいがために人民を駆り出す戦狂師"か。
最初に戦いの火蓋を切ったのは………



「【禁索概念詠唱】:─────」



地面に翠色のエフェクトが広がっていく。そして、



「【鮮血による弾圧】(サングレ・フレスカ・レプレシヴァ)!!!!」



地ならしとともにチルディアの周りの地面が一瞬にして割れた。だが彼女は素早く反応して、杖に乗っかって攻撃を免れた。

「おっと!!それは当たらないぜ!!」

チルディアが余裕の表情で鼻を指で擦る………のだが、

「それはどうでしょうか?」

「はっ?」

自分は空中で杖に乗っているから、後ろに人がいるはずがないと思っていた。下の方へ目を向けるとイズミルがいない。

(まさか………!?)

気づいた時には遅かった。すぐさま後ろに振り返ろうとする。スローモーションで見えた光景は、イズミルがエフェクトを纏いながら足を後ろに引っ込め、"獲物を捉えた"目と鋭い眼光がこちらに向けられていた。

「嘘っ!?」

そう言った瞬間、チルディアは鳩尾をブーツの先で強く蹴られて、遠くの地面へと落とされた。
粉塵が彼女の周りを深く立ち込めており、それに加えて杖をどこかに手放してしまった。

「ゔっ………がっ……は……………」

蹴られた衝撃で口から、少しベタっとした血を吐いてしまう。鳩尾に強い痛みがあるためにあまり立つことができない。お腹に手を伸ばし、蹴られたところを撫でる。

「貴方、言ったじゃないですか。"広い場所であれば重力操作を満足して扱える"と。私は人の話を絶対に聞き逃しませんので。」

イズミルは粉塵の中にいるチルディアを睨みつけながら、冷静かつ大声でそう言った。
やがて彼女の両手にエフェクトが強く光り、両手を下から上へと瞬時に挙げる。

「押し潰されてくださいッ!!」

チルディア周辺の地面が二つに割れて、轟音を出しながら折りたたむ。
ふふっと彼女は"その遺体"を期待して、ゆっくりと土を崩し始めた。

「さぞかし、良い血しぶきの形が見えてくるでしょうね………ゾクゾクします!!」

だが、崩した大量の土にはチルディアの身体、その血が一滴も見つからない。

「そんな………!!」

強く蹴り飛ばして立てなくさせたはずが"いない"。遅くても"重力操作された土"で怪我をしているはずだ。イズミルが必死にチルディアの策を考え、林の中へと入って行く。

「どこに隠れても逃がしませんよ!!」

鼻息を荒くしながら、彼女は躊躇いなく奥へと進んで行く。だが、いくら地面を見ても"足跡が一つも残っていない"のだ。

(一体どうやって痕跡を………?これが彼女の異能力だと言うの?)

周囲をこまなく探すが、やはり見つからない。

(隠密が異能力であれば手こずりますね………)

するとその時、

「どこ見てんだ?」

右側からあの声が聞こえ、振り向いた瞬間─────目の前に数発の"鋭利な氷の結晶"が。

「ふっ!!」

身体を地面までに反って、その"凶器"を避ける。

「よそ見してっと痛い目に遭うぜ?」

立ち直ろうとする間に、目の前にニヤニヤと笑うチルディアが。

「はっ!?」

瞬時に首を掴まれる。

「ぐっ………うぅ……………」

自分よりも身体が小さいチルディアが、自分の息の根を止めようとするほど握力が強い。その強さに圧倒され、息ができなくなる。

「う………はっ…………」

「アタイの異能力【敏捷の妖精】(ラ・アダ・アヒル)を侮ってたみたいだな!!」

チルディアはもっと強くイズミルの首を締め、イズミルの顔が酸欠で赤くなる。意識が遠のいたり、目の挙動がおかしくなってくる。白目を剥きそうになるが、「このクソガキには殺されたくはない」という願望が彼女の本能を覚醒させる。
朦朧とした中で、彼女の右手がエフェクトに包まれて激しく光り、歯を食いしばってチルディアの"胸板"に手を出す。

「ん"ぐ!!」

すると、チルディアが奥の林に吹き飛んでどこかにぶつかる。

「ぁ"あっ!!」

「っはあ………はぁ……はぁ…………はあ"………!!」

イズミルはやっと解放され、脳に運搬されなかった分の酸素を必死に吸い込む。徐々に顔が元通りの白い肌に戻り、意識もはっきりとしていく。それでも首にはチルディアが締めた跡が赤く残っている。

「はぁ………はぁ…………はあ゛ぁあ……………!!」

(我ながらにしては………少々………手荒い……方法を…取りまし、たが…………どう、や、ら………成功、し、たよう、です………)

「ぅ"えぇ………ゔぅ……ぇ……」

酸欠から回復して今度は嘔吐(えず)きそうになってしまうが、心臓近くを掌で軽く撫でる。

「はあぁ……………さて、あの女の怪我具合を見に行きましょうか。あのような強い衝撃を受けるとすれば、気絶しないわけがないでしょう。」

左手を地面に着け、右手をすぐ傍にある木で身体を支える。立つ時には少しフラフラするが、それはすぐに治ってしまう。
チルディアを突き飛ばした方の林の奥に向かい、草むらの音で気づかれないように忍んで歩いて行く。時々、木の陰から周りの様子を見て、足跡を残していないかを確認する。

(いませんね………どこで倒れているのでしょうか?)

首を左右に振ってじっと目を凝らす。すると、奥の木の表面に少し血の跡が付いている。

「これは………頭の傷から出た血、なのでしょうか?それにしても、あれだけ突き飛ばしたというのにすぐに逃げるとは……有り得ませんね。」

取り出したハンカチで木に付着した血を拭いていたその時、奥の方で草が揺れる音が聞こえる。

「戦法には賢くとも、隠密に行動することは苦手みたいですねッ!!」

ちょうど音が鳴った奥の地面を重力操作で大きく抉る。だがそこには一つの身体も見当たらなかった。

「!?」

そう、イズミルの後ろには既に─────チルディアが杖を構えていた。

「【氷結】(エラール)!!!!」

魔法への防御が間に合わず、イズミルの足と手が氷で瞬時に凍ってしまう。

「ぐっ………ぬ……ぬ…………」

「馬鹿だよな!オマエ!!あまりアタイの異能力を舐めるなよって言ったはずなのにな!!魔法と異能力を応用すれば、簡単に敵を騙せるんだぜ!!」

「………よくもそんなに私を馬鹿にできますね。余裕を見せるのも今のうちですよ!!」

翠色のエフェクトが彼女の足元と拳を中心にして集まってくる。その瞬間にエフェクトが爆発し、氷が粉々に散らばる。

「本気を出させていただきます。容赦も妥協も致しません!!」

イズミルは右足を前に出して力を入れる。本気を出す分、10本以上の木々が彼女の後ろに倒れていく。それも根元から吹っ飛ぶ。
そして彼女はチルディアに襲いかかって来た。粉塵が噴水のように飛び散っていく。

「うわっ!?」

チルディアが横へ避けて、イズミルが傍にあった木を一瞬にして粉砕する。彼女の右手からは蒸気が発生する。

「あっぶねえぜ………下手したらひとたまりもねえ……」

すると、イズミルがゆっくりとこちらの方に向いて、鋭い眼光で彼女を睨みつける。

「何を勝手に避けているんですかね?」

「こっちは党首を残して死ぬわけにはいかねえんだ!!」

「こちらも同意見なのですが?」

イズミルは粉砕時の木くずを払い除けて彼女に近づいてくる。そして刹那───軍人の姿が消える。

「そうはいかないぜ!!」

「とでも思っていたのですか?」

「!!」

いつの間にか目の前のイズミルに顔面を鷲掴みにされる。いくら彼女の手を退こうとしても、その腕力に押し負けてしまう。

「む"っ………ん"ぐ……ぬ"!!」

そして、彼女はチルディアの顔を掴みながら大きく腕を振って、ほぼ平行で遠くへ投げる。
彼女の投げる力が想像を絶するほど強くなっていた。投げ飛ばされたチルディアが木々にぶつかり、それがなぎ倒されていく。

「あ゛!!ぅ"!!ぅ"ゔ………」

ぶつかった衝撃でどこかの臓器の内皮が破れたのか、か細い声と少量の飛沫状の赤黒い血が出る。
また、枝の先端が袖を破ったり皮膚に刺さり、痛いこの上ない。地面に彼女の身体がめり込んで、服も顔も土だらけになる。

「相手を過度に煽った結果がこのザマですよ。お分かりですか?」

エフェクトが強風のごとく、イズミルの手から漏れ出ていく。

「最後に言い残すことはありませんか?」

「………ねえな。」

「なるほど、それはどうして?」

「それはな………」

その刹那───チルディアがイズミルの方に人差し指を向ける。

「逆に"オマエに死んでもらうからだ"!!」

指から出てくる絶対零度の氷が放射線状・散弾状に散らばって、イズミルを襲う。
彼女はそれを難なく避けようとするが、氷がまるで命が吹き込まれたように"イズミルの方へと引き返す"。

「ああ!!避けても避けてもしつこいですね!!」

その氷を蹴り壊したり殴り壊したりと奮起するが、なかなか砕けず、鈍い音がなるだけである。
頬や丸出しの太腿に氷が掠めて血が出てくる。

(連続小攻撃を作戦に?そう来ましたか!!ならば!!)

周りの地面を持ち上げて、それを壁にする。すると土壁に氷が刺さり、それが動かなくなる。
流石にもう攻撃できないだろうと土壁を粉々にしたが、彼女の正面にはチルディアがいない。

「音もなく消えた!?」

「どこ見てんだ!馬鹿!!」

声の聞こえる方角に耳を澄ます。イズミルは顔を青くした。彼女のいる方向に顔を向ける。そう、チルディアは既に─────

「アタイはここだぜ!!」

イズミルには届かない上空までいたから。
チルディアの上には水色の極大魔法陣が展開されており、すぐにでも魔力を放出しそうである。

「残念だったな!この勝負はアタイがもらう!!」

彼女は挙げた右手を素早く下に振った。魔法陣からは打製石器のような巨大な氷の塊が現れ、イズミルの方へと落ちていく。透明で鏡のような鋭く尖った氷塊がまるで─────隕石のように。いや、戦争史上であれば"あの兵器"のように。映るは"死に際の醜い顔"。戦狂師の最後か。



しかし、別の方角から"具現化された"金色の音符がその氷塊を破壊する。その音符は金属光沢がなされており、符頭部分はスペードの先端のように鋭い。だが、それは地面に刺さった瞬間に"原子化"する。まるで最初から"そんな攻撃はなかった"かのように。

「なっ!?」

「はぁ!?」

二人は当然、唖然とする。この"政治家の口論"に介入する輩がいるとは思わなかったからだ。
その場の空気が凍りつく。得体の知れない何かがこの近くにいる。しかも、姿が見当たらない。

(ここは撤退するしかないですね………第三者に邪魔されると勝負にはなりません。)

イズミルはボールペン型の転送装置を取り出し、円を描いてこっそり本部へ戻った。

(ちっ!!逃がしてしまったぜ!!だけどまあ………)

「報告しねえとな………"アイツ"が現れたって。」

音符が来た方向を見つめる。
少しだが、何かがふわりと通るような感じがする。その何かがニヤニヤと笑っているようにも見える。綺麗な歯を見せてくるような。

『ふふふっ………』

"少女のような"少年の声が聞こえた気がした。

しおり