バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

タクラ家の新たな光景 その2

 どうやらスアのお腹の中にいるのが双子らしいということがわかり、思わず嬉しくなっている、ど~も僕です。
 と、まぁ、そこまでわかったわけですから性別に関しても聞いてみたわけです。
「……あのね、女の子2人、よ」
 スアは、嬉しそうに微笑みながらそう教えてくれました。
 僕には今、養女で長女のパラナミオと、長男のリョータの2人の子供がいるわけですが、これで4人の子持ちになるわけです、はい。
 なんと言いますか……元いた世界では、コンビニおもてなしの経営が切羽詰まってて子供どころか彼女を作る余裕すらなかった僕が、まさかこんな可愛い奥さんをもらうことが出来て、しかも4人もの子供に囲まれる事が出来るなんて……なんといいますか、本当に感無量なわけです、はい。
 
 と、いうわけで、気合い満々な僕は今日も夜明前に目を覚まして本店の厨房へ移動。
 今日も朝からコンビニおもてなしで販売する弁当の作成を開始しました。
 コンビニおもてなしで調理作業を行っているのは現在4人。
 僕と、バイトの魔王ビナスさんが弁当や惣菜を作成。
 蝸牛人のテンテンコウ♂がパンやサンドイッチを、
 そして新婚ほやほやの蛙人ヤルメキスがスイーツを作成しています。
 弁当やスイーツを入れるための箱類は、コンビニおもてなし本店の向かいにある猫人のルア工房がすべて作成してくれています。
 僕が元いた世界でいうところのアルミみたいな素材を利用して作成してくれているのですが、このアルミモドキな素材って、この世界では「武具や農具にするには柔らかすぎる」という理由でほとんど利用価値が見出されていないもんですから、タダ同然で入手することが可能なんですよね。
 おかげで、ルア工房での作業賃程度でアルミモドキを使った容器類作成をしてもらえているもんですから、元いた世界で購入していた容器の代金よりも実質的に安く済ませることが出来ている次第です。
 厨房には、業務用の電子レンジやオーブンレンジなんかもありますが、これらの器具は当然電気で動いています。
 で、この世界には当然電気なんてありません。
 ですが、このコンビニおもてなしってば、太陽光発電を導入してオール電化にしてたんですよね。
 そのおかげでこれらの調理器具を使用出来るばかりか、パソコンや電気自動車まで使用可能なわけです。
 さすがにインターネットはつながっていませんので、パソコンの用途といえばもっぱらコンビニおもてなしの営業管理とポスターやポップ類の作成になっています。
 営業管理に関しては、スアがレジを改良して作成した魔道レジを導入しているおかげで、全店舗の売り上げが本店にあるメインマシンに一度にデータ送信されてくる仕組みが出来上がっていますので、僕はそのデータを定期的に取り出しては、パソコンに入力しています。
 それによって、各店の売り上げの動向をチェックしつつ新製品をあれこれ模索しているわけです。
 ポップやポスターも、元いた世界で営業していた頃から自分で作成していたので、まぁ作業は手慣れたもんなんですよね……もっとも、お金がなくて外注出来なかったから、仕方なく自分でやってただけなんですけどね……ははは。
 で、そうやって作成したデータを元にして見本を作成すると、それをすぐに魔女魔法出版の営業ダンダリンダにお願いして印刷してもらっています。
 この魔女魔法出版って、すごく作業が早いもんですからホント助かってるんですよね。
 当然、紙代や印刷代はかかりますけど、スアママのリテールさんが社長の会社ですから、すごく安くしてもらっている次第です。

 市場や、商会なんかを相手に品物を売買するのは、別会社として立ち上げたおもてなし商会で一手に引き受けてもらっています。
 おもてなし商会は、形としてはコンビニおもてなしの系列店になります。
 で、そのトップはティーケー海岸店のファラさんです。
 ファラさんは、アルリズドグ商会から購入している魚介類と、そのアルリズドグ商会に卸売りしているガラス製品や武具類の売買、おもてなし商会のもう一店舗であるテトテ集落店に持ち込まれる野菜類の買い付けなどの管理を一手に引き受けてくれています。
 月に一度本店にやってくるドンタコスゥコ商会の相手もすべてしてくれているわけなんですけど、常に安く買い、少しでも高く売ってくれているファラさんの手腕のおかげでおもてなし商会は単独で黒字化することに成功しています。
 そのおかげで、コンビニおもてなしで使用する食材なども安く手に入っているわけでして、ホント助かっているんですよね。

 ただ、良いことばかりではありません。

 新婚のヤルメキスがもし妊娠したらですね、やはりしばらくはお休みするしかなくなるだろうな、と思うわけです。
 なので、ヤルメキスの弟子といいますか、その下で働けるスイーツ職人を募集する準備を始めています。
 で、これは魔王ビナスさんにも同じ事がいえるわけなんですよね……内縁の旦那さんがいらっしゃるとのことですから。
 ……ぶっちゃけ、魔王ビナスさんほど全てをこなせる人材の代わりなんてありえないわけですよ……なので、妊娠・出産することになったとしてもなるべく早く復帰してもらえたら嬉しいなぁ……なんて僕が思っていましたら、
「大丈夫ですよ店長さん。私、長女を出産したときも1日で魔王業に復帰していましたので」
 魔王ビナスさんはそう言ってニッコリ笑いました。
 スア並みに小柄な魔王ビナスさんですけど、この世界とは別の世界で魔王をしていた方ですからね、一応……なんか内縁の旦那さんに命を助けられたとかで、その旦那さんにくっついてこの世界にやってきたっていってましたけど……僕的には「旦那さんグッジョブ!」と言わざるをえないわけです、はい。
 しかし、魔王ビナスさんの命を助けた旦那さんて、何者なんでしょうね?

 で、そんな面々と今日も朝の業務を終わらせた僕は、厨房のイスに座って一息ついていました。

 そんな僕の横では、ウルムナギ又のルービアスが、僕達が作成した大量の弁当類やパン類を魔法袋につめています。
 もうじき、この魔法袋をコンビニおもてなしの各店舗に届けにいくハニワ馬のヴィヴィランテスがやってくるでしょう。

 そんなルービアスの作業を一息つきながら見つめていた僕はですね、
「ルービアス、手伝おうか?」
 そう声を掛けていったのですが、

 まさにその時でした。

 厨房に、パラナミオがすごい勢いで駆け込んできました。
「パパ、大変です! 産まれます!」
 パラナミオってば、真顔でそう言います。
 で、主語のないパラナミオのこの言葉ですけど、それが指し示している意味はすぐにわかりました。

 スアが出産しそうってことなんでしょう。

 ……っていうか、前回よりも少し早い気がしないでもないんですけど、これに関してはスアが言っていたのですが、
『……厄災の龍から精製した粉薬のね、効能すごいの……お腹の赤ちゃん達、すごく元気に育ってるの、よ』
 どうもそういうことらしいんですよね。
 なので、少し出産が早くなるかも、とスアも言っていましたけど……にしてもいきなりだな……

 とにかく、僕は慌てて立ち上がるとパラナミオを連れて巨木の家の方へ駆け出しました。
 廊下を走り、巨木の家に入った僕はパラナミオと一緒に寝室へと駆け込みました。
 すると、
「おぎゃあ」
 と、元気な女の子の泣き声が聞こえてきました。
 で、寝室にはすでにスアの使い魔のタルトス爺や、乳母としても有能な使い魔のキキキリンリン達が駆けつけていましてですね、産まれたばかりの赤ちゃんを産湯につけてくれていました。
「おぉ、スア様の旦那様、元気な双子の女の子ですぞ」
 タルトス爺が笑顔で教えてくれました。
 で、その横にいるダンダリンダが産湯に付けている赤ちゃんも気持ちよさそう……なんですが、
「あれ?」
 その光景に、僕は一瞬目が点になりました。

 いえね……赤ちゃんのうちの1人はですね、普通の赤ちゃんらしく泣きながらキキキリンリンに抱っこされているんですよ。
 ……ですが、もう1人の赤ちゃんなんですが……僕の目がおかしくなければですね、その子は産湯につかりながら自分で自分の体を洗っている……そんな感じなんですよ……
 しかも、キキキリンリンが抱っこしている赤ちゃんよりも一回りくらい大きいですし……
 で、その女の子は、僕に気がついたらしく僕に向かって嬉しそうに微笑みました。
 で、同時にですね、僕の脳内に
『お父様、やっとお会い出来ましたわね』
 ってな言葉が流れこんで来たんですけど……

しおり