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第二十八話 ヤスへの説明?お願い?


 セバスが、サンドラとクラウスを連れて会議室に入ってきた。クラウスが疲れた表情をしているのを見て、ディトリッヒは可愛そうな人を見る目でクラウス辺境伯を見ている。実際に自分たちが通ってきた道である。

 クラウスに衝撃を与えた、ヤスはセバスから飲み物を受け取って喉を潤していた。

「お!サンドラ。ありがとう。クラウス殿。お手間をとらせてもうしわけありません」

「ヤス殿。感想は、娘に伝えてあります。本題に入りますが問題はありませんか?」

「わかりました。お願いします」

 クラウスは、ヤスに交渉の内容を伝える。
 まずは、塩と砂糖と胡椒は大変喜ばれた。『継続的な購入は可能なのか?』と質問されたそうだ。セバスも答えていたが、ヤスも問題ないと伝えた。ただし、100キロが一回で渡せる限界だと伝えた。辺境伯の取り分を含めてだ。神殿が安定すれば増やせるが、今はそれぞれ100キロが限界だとヤスは説明した。限界と言われてしまったのなら、100キロで手を打つのが得策とクラウスは納得した。

 次に土産物も喜ばれたらしいが、追加で購入は出来ないかと言われたそうだ。セバスは、『旦那様にしかわからない』と言って即答は避けていた。土産物は、自転車なのだが物珍しい人力で動かす乗り物なので、受けたようだ。サンドラが実演したのも良かった。ヤスは、アーティファクトなので約束は出来ないと言葉を濁した。神殿の中だけなら問題はないが外部に持ち出す物には制約を付けるのが難しい。数台だけならいいが、100台とか言われると面倒だと考えたのだ。自転車は、要相談となった。

 神殿の独立性は、ヤスが頼んだ内容ではなかったが、認められた。すでに、アラニスの生き残りを匿っている状態なので、独立を認める方が王国としては良かったのだ。そして、領土の話になり、元々神殿の領域として定義されていた場所は、そのままヤスが貰い受ける。

「え?それでは、関所の村だけではなく、関所の森や帝国に繋がる街道も神殿の領地なのですか?」

「そういう認識でお願いします。あと、ユーラットも神殿に属します。明日。私がユーラットに行って説明しますが、ヤス殿には住民で残りたい者の受け入れをお願いしたい。また退去すると考えた者への配慮を頼みたい」

「ユーラットに住み続けるのですよね?問題はありません。退去も問題はありません。必要なら、セバスとカスパルを出します荷物を運べるでしょう」

「ありがとうございます。それで、関所の森に関しては、受けて頂けますか?」

「うーん。条件が2つあります」

「必ず、受けられると約束は出来ませんが、お聞きいたします」

「ありがとうございます。まずは、森を神殿の領域だと解るように、石壁で囲みたいのですが問題はないですか?もし、森の恵みで生活している村や街があるようなら配慮します」

「ヤス殿。石壁はこちらかもお願いしようとしていたので問題はない。森の恵みに関しては、即答できないが、大掛かりな採取は行っていない。むしろ、魔物や獣対策の費用が必要だった」

「わかりました。あっ関所の村からユーラットに向かう石壁よりも高くしますがいいですか?」

「どのくらいを想定している?」

「そうですね。最低でも、関所の村と同じ程度にはしたいと思います」

「問題ない。私が、隣接する者たちを説得する」

「ありがとうございます。あと、アーティファクトと馬車が通れる道を作りますがよろしいですか?休憩所も設置します」

「ありがたい!頼めるか?」

「はい。そこで、2つ目の条件ですが、関所の森に隣接する村を作りたいのですが問題はありませんか?」

「それは、森を切り開いて作るという事でいいのか?」

「はい。人は、村の規模ですが、荷物の集積所。街道のハブを作りたいので、かなり広く作るつもりです」

「ヤス殿。集積所や街道のハブとはどういった場所なのだ?言葉から、何かを集める場所にするのか?」

「簡単に説明すると、荷物を集めて保管する場所です」

「そのような場所が必要なのか?」

 ヤスは、簡単に説得するのは難しいと思っていた。
 そもそも、馬車で運ぶ程度の荷物でなんとか生活が成り立ってしまっている。基本が、自給自足なのだろう。生命維持に絶対的に必要なる物資以外は、住む場所の近くでなんとかするのだろう。実際には、特殊な場所(鉱山や塩湖や塩山)以外は、自給自足が出来なければ住めないのだ。そして、物資の輸送能力を考えて、人口が決まってくる。爆発的に、人口が増えない理由でもある。その上、魔物や獣だけではなく盗賊などが跋扈しているので、物資の損耗を考慮しなければならない。

 その世界で、集積所(ハブ)の概念を説明するのは難しい。

 まず、ヤスはアーティファクトでの輸送を考えていると素直に辺境伯に告げる。
 それなら、アーティファクトを・・・。と、前のめりになる辺境伯だったが、ヤスは片手をあげて先に説明すると告げる。

 アーティファクトには『連続で動ける時間がありる。その時間を過ぎてしまうと、神殿に戻さなければならない』と多少の嘘を含めた説明をする。そして、エルスドルフの様に狭い場所でアーティファクトが動かなくなってしまったら撤去に数ヶ月かかってしまって、村の存亡をかける自体になってしまう。
 そこで、各村から集積所には今までのように馬車で運んで、荷物がまとまったら、アーティファクトで大きめの街に運ぶ方法を考えている。
 そのための必要になるのが、集積所だと説明したのだ。

「ふむぅ・・・。その時の、商品の代金などはどうするのだ?」

 ヤスは、輸送料だけ貰って、代金は商人同士で出来ないかと考えていた。

「それは、難しい。ヤス殿。商人は、少しでも安く購入したい。少しでも高く売却したい。そう考える人種だ」

「そうか、割符(サイフ)を作ってもダメか?」

「”さいふ”とは?」

 ヤスは、簡単に考えていた。
 割符なら問題にはならないと思っていた。日本でも江戸時代には普通に運用が出来ていたのだ、ギルドがある状態なら運用も問題にはならないだろう。ヤスは、そこで物流を担当すればいいと考えていた。

「ふむ。面白い方法だな。それなら、商人ギルドが仲介すれば問題はなさそうだな。サンドラ?」

「そうですね。実験的に、王都とレッチュヴェルトとユーラットと神殿の都(テンプルシュテット)でやってみて問題点の洗い出しをしてみてはどうでしょうか?」

「そうだな。ヤス殿。問題はありますか?」

「大丈夫です。サンドラ嬢には、ギルドへの指示をお願いしたい」

「承りました」

「俺は、関所の森に石壁を作る」

「あっもう一つ報告があります。あまりいい話ではありませんが、リップル子爵家が」「先程、ディトリッヒ殿から聞きました。神殿としては、攻められれば反撃します。問題はありますか?」

「・・・。いえ、ありません。私個人の感傷に由来しますが、できるだけ兵を殺さないでいただけると・・・」

「善処しますが、神殿の民や私の眷属に、相手を殺すなとは言えません。なるべく殺さないで済む方法を考えます。主に、心を折る方向で良いですか?」

「ありがとうございます」

「そう言えば、帝国に繋がる街道も神殿の領域になったのですよね?具体的には、どの辺りですか?」

 ヤスの言葉を受けて、セバスが操作をした(ように見えて、マルスが操作をしている)。会議室に置かれているモニターに、関所の森と帝国への街道の簡易的な地図が表示される。クラウスがサンドラに耳打ちをして返答を聞いて絶望した表情に変わった。

 ヤスは、地図を指差しながら、神殿の山脈の先端部分から関所の森にかかる部分は神殿の領域とすると宣言した。
 クラウスが絶望したのは、ヤスにとっては簡易的な地図でしかないが、クラウスが見てこれほど精密な地図は存在していないのだ。地図は戦略的な価値が高い情報だ。森の位置だけではなく、街道の存在や幅まで書かれている。
 サンドラからの提案で、領都に向かう街道と帝国に向かう街道とユーラットに向かう街道がぶつかる場所まで神殿の領域と考えても問題にはならないといわれたので、ヤスは地図を表示して、街道に敷設する石壁や新たな関所を書き込む。
 本格的に、リップル子爵家が攻めてきた時のための作戦案を提示したのだ。

 ヤスとしては、情勢の不安を取り除けば、物流が開始出来ると思っていたのだ。真剣に考えた・・・。戦略ゲームの知識を利用してだが、あまりにも的確な計略だったので、クラウスとサンドラとディトリッヒは顔を引きつらせながらヤスの作戦を聞いて、了承したのだ。

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