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力の通り道

 それから更に時が流れ、新しい世界もかなり増え、指導のシステムも安定して機能し始めてきた頃。管理者は緊急用として通話による連絡手段を構築していた。
 最初の頃は緊急時のみ使用可能な場所を創ろうかとも考えたが、緊急時にわざわざ来るというのも時間の無駄、というか暇がないかと考え、通話出来るようにしておいた。通話先は管理者の分身。この辺りの相談先を管理者以外にも増やせればいいが、今は体制を構築するのが先だろう。
 そういった交流の場、相談の場を固めていき、指導のシステムも安定させていく事に努めていると、気づけばかなりの数の世界が創られていた。
 それは同様に外の世界も膨脹し続けているという事であり、新しいペット候補も生まれやすくなっているということでもあった。
 未だに二匹しかペットが居ないというのは、それだけ力から何かが発生するのが難しいからである。むしろ、そこまで間を置かずに二匹目が手に入ったのは奇跡に近い。
 最近は外の世界が拡がったおかげで確率が若干上がりはしたが、それでも奇跡と言えるぐらいのとても低い確率だろう。ただ、管理者は気づいていた。創造主が創造した世界が増えた影響で、必然的にその分だけ外の世界に開いた穴から力が流出する量が増えているが、そのせいで限界近くまで力を蓄えてしまった外の世界がなんとかその力を消費しようとしてか、新しい存在が誕生しそうな兆しの観測数がかなり増えた事を。
 なので、管理者はそろそろ新しいペットが生まれるのではないかと若干期待していた。
 新しく生まれた存在を相手出来るのは、管理者かそのペット達ぐらいだろう。その中で全く被害を出さずに収める事が出来るのは管理者のみ。結果として管理者が対処する事になるので、その際は向こうにその気があれば飼おうと色々準備もしている。
 ペットの飼育。それは色々と雑事の多い管理者にとっての唯一の趣味のような楽しみだった。誕生の性質上、飼育しているペットが成長する事はないけれど、それでも懐いてきたり、楽しそうに野山を駆け回っている姿を見るのが好きなのであった。
 なので、新しいペット候補の誕生は歓迎すべき事だし、それに対処するのはむしろ望むところ。
 そういった期待を抱きながらも、諸々の事をこなしながら管理者が時を過ごしていると、ある日管理者は自身が創造した世界の周辺が変化したのを察知する。その少し後に、創造主から通達があった。
 それによると、現在創造主が創造した世界からの力の流出の影響で、外の世界の容量が限界ギリギリになってしまったらしい。そして、このままでは外の世界が破裂してしまい、それでは内部がどうなるか分からないという事で、創造主はそれをどうにかしようと決めたらしい。
 そこまでは良かった。管理者としても、それについては常々危惧していて、そろそろ何かしらの手を打った方がいいかと考えていたのだから。だがその後に、外の世界の流れに手を加えて、全ての流れを一度管理者が創造した世界を通るようにしたと続けば話が変わってくる。
 つまり創造主は、外の世界に流れた力を管理者が創造した世界に流すと言っているのだ。外の世界に元から存在している力に関しては、最初から力でしかないので、ほとんど素通りしてしまうからいいのだが、何処かの世界で創造された力であると、それは外の世界に完全に溶けない限りは世界の中に入ったところで元の状態に戻ってしまうのだ。
 例えば、何処かの世界から山が外の世界に流出したとする。そうなると、山は山としての記憶が残った力として外の世界を漂う事になる。これがこのまま外の世界に馴染むと、それの記憶が溶けて、力はただの力と化して外の世界の一部なる。
 しかし、完全に外の世界に馴染む前に何処かの世界にその力が流れ着いてしまうと、力に残っている記憶を再現してしまうのだ。これは、世界そのものに物質化する機能が備わっているから。でなければ、能力の低い管理者までもが創造など出来ようはずもないし、物質を維持するのに結構なコストが掛かってしまう。
 そういう訳で、創造主の言葉を簡潔に表すならば、ここを流出した力の倉庫にしろという事だ。この世界は管理者の好きなように拡張出来るので、実質無限に受け入れる事は可能ではあるが、それにしても勝手が過ぎた。しかも、流れを変えた後での事後報告。
 それに管理者は思うところがあったけれど、創造主はいつも通りに言うだけ言って連絡を切ってしまったので、管理者は呆れすぎて諦める事にした。連絡が終わると同時に、最初の漂着物が到着したのも管理者が諦めた原因だろう。

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