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プロローグ

窓からは光が差し込み、灯のともされていない部屋を照らしている。窓際に置かれた少し年季の入った机は案外スッキリと片付けられているが、整理整頓された棚の中は書類でいっぱいだ。
向かい合っておかれた椅子もこれまた年季が入って立派なもので、座面と背もたれには布でカバーが掛けられている。
「こんな椅子では尻が痛くなる」とギルドマスターが用意した簡易なクッション代わりである。
ギルドと呼ばれる街の中枢を担う機関はこの街の中心にドンと立派な建物を構えている。そしてその2階に位置するこの部屋には、大国プロトの小さな街「ヒドラ」の全てが詰まっている。
冒険者たち向けのクエストや管轄内の商売、税金、軍、教育など。並べていけば数えきれないが、この街を動かすための全てが集結している。
とは言っても、この椅子に座る人が全てを操作するわけではない。
機能ごとに担当が分割され、その最終的な意思決定を行っているのである。ほんの少し独裁的な立ち位置ではあるが、他の街に比べればまだまだ健全なのである。
「……いや、それはやはりこっちの案が……なに?あぁそれは午後に……」
コツコツという複数の足音とともに人が近づいてくる。
声も足音もドンドン近くなり、部屋の前についたかと思うと、扉は勢いよく開け放たれた。
そこに立っていたのは書類をじーっと眺めるアクアのショートヘアの女と、横で書類を抱える茶髪の男、そしてメガネをかけた黒髪の男の3人だ。
反動で締まらぬよう、メガネをかけた男がさっと扉にストッパーをかける。
窓際の机に近づき、茶髪の男は書類をどさっと置いた。
「ギルマス~……、毎日こんな量でよく疲れないっすよね」
向かい合う椅子にどさっと座った女は先ほどまで見つめていた書類を机に置き、サインを書く。
「こんなんで疲れていたら、ギルドに職はないけど。まぁあなたならいつでも辞めてもらっていいよ?」
サインを書き終わり書類をしまった女は茶髪の男ににっこり満面の笑顔で話しかける。
「冗談きついっすよ~……じゃあ俺もう行ってきますね」
「うむ、頑張りたまえ」
茶髪の男が扉を抜け姿が見えなくなり、部屋にはまた静寂が戻ってきた。
メガネの男は対談用の椅子に座り、書類を裁いている。女はまた別の書類を引き出してはサインをししまうを繰り返している。
1階はいつでも盛況だが、2階はしんと静まり返っている。しかしその静寂も少し間をもてばすぐになくなる。
ダダダッという階段を駆け上がる音が聞こえたかと思ったら、開け放たれた扉から勢いよく人がかけこみ息がきれながらも話をしだす。
「エウリュ様!ぜぇぜぇ……手配していた、窃盗団が、捕まったとのことです……ふぅふぅ……」
「おっ、冒険者か?騎士団か?」
「ふぅふぅ……騎士団です」
「今回は騎士団に旗が上がったか」
口角をニッと上げ少し微笑む。目つきが鋭いので睨むような視線になる。
「どうせ捕まるのに本当に必死だね~……生活困窮者への対策も施さないといけないか……」
ヒドラの街のギルドは、今日も忙しくなりそうです。

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