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短編

俺の名前は、猫鍋 猫。

小さな、会社でプログラマーをやっている。

俺は、今。
衝撃の展開を迎えようとしている。
舞台は、会社の屋上。
そこに、女の子と二人きり。
俺のハートは爆発寸前。
女の子は、頬を赤らめながら俺にチョコを渡した。

「猫鍋さん。
 好きです。」

「え?」

「これ、受け取ってください!」

どうして、こんな事になっているかは、わからない。
なにせ、俺は今まで、女の子に好かれた事なんて一度も無い。
そんな俺が、どうしてこんな事になっているのかって?
それは、これから順に話そう。

彼女の名前は、春雨はるか。
俺と同じ24歳で、スタイル抜群。
容姿端麗。

はるかと出会ったのは入社式だった。

「はじめまして。」

はるかは、とびっきりのスマイルで俺に挨拶をした。
女の子に免疫がない俺は、少しびびりながら答えた。

「はじめまして……」

「貴方も、IT部?」

「そうです。」

「じゃ、私と一緒だね♪♪」

はるかは、そう言うとニッコリと笑った。
俺には、その笑顔が眩しかった。

「顔、真っ赤だよ?」

「あはは……
 女の子と話すのに慣れて無くて……」

「学生時代は?」

「ずっと男子校で……」

「そうなんだ?」

「うん」

ジーーーー!

ブザーが鳴り、入社式が始まった。

入社式は、一時間のスピーチの後、会場を変えて立食パーティ。

「そうだ。
 自己紹介がまだったね。
 私の名前は、はるか。
 春雨はるか。
 気軽にはるかって呼んでね♪♪」

「俺の名前は、猫鍋 猫」

「じゃ、猫さんだね♪」

「変わった名前だろ?」

「可愛い名前だね!」

はるかは、そう言うと楽しそうに笑った。

「あ、何か食べ物持ってこようか?」

こういう時、男はリードするモノだ。
そうでなくちゃ男はモテない。
と、思っていたが……

「あ、自分で持ってくるからいいよ。
 一緒に並ぼ!」

はるかは、そう言って俺の手を握り締めた。
女の子の手を握ったのは、幼稚園以来で……
俺の体が、ゆっくりと熱くなった。

「猫君、また顔が真っ赤だよ?」

「……ごめん」

「謝らなくていいよ。
 ご飯食べよう♪♪」

はるかは、そう言って俺の手を引っ張った。

話して見ると、何とかなるもので……
緊張しながらも、俺は、はるかと話すことは出来た。

はるかは、楽しそうに俺と話をしてくれた。

俺は、それだけで、幸せだった。
はるかの性格は、明るく誰とでも訳隔てなく接する事が出来る娘だ。
だから、俺とも話をしてくれるんだろうな……
うん。

俺は、コップに入ったビールをぐいぐいと飲み干した。

「お?
 良い飲みっぷりだねぇー
 もう一杯行っとく?」

はるかが、笑顔でそう言うもので、俺はビールをぐいぐいと飲み干して行った。
そして、気づいたときには……

ふら……

……バタン

俺は、その場で倒れた。
会場がざわめつく。

でも、そんな事お構い無しに俺は意識を失った。

気がつくと、俺は控え室のソファーに横になっていた。
俺は、体を起こすと額からタオルがぽとりと落ちた。

「あ、起きた?」

はるかが、落ちたタオルを拾いながら俺に微笑んだ。

「俺……」

「お酒を飲み過ぎちゃったみたいだね。」

「もしかして、倒れちゃった?」

「うん」

はるかは、苦笑いを浮べた。

「入社式から、とんだミスをしてしまった……」

「大丈夫だよ。
 皆、笑っていたから。」

「それって、結構大きなミスのような気がする……」

「あは♪♪
 まぁ、気にしない気にしない
 猫君が心配するほど、みんな気にしていないって♪♪」

「そうだと良いけど……」

「さ、元気出して、帰りましょ♪」

「え?」

俺は、ゆっくりと時計の針を見た。
時計の針は、8時を指していた。

「もうこんな時間!?」

「時間が過ぎるのはあっと言う間だよねー」

「ってか、ずっと待っていてくれたの?」

「うん
 そうだよー」

はるかは、ニッコリと笑った。

「なんか、ごめん……」

「私、お腹空いちゃった。」

「え?」

「ラーメン食べたいな。」

「あはは……
 奢るよ」

「えー?
 本当に?やったー」

はるかは、そう言って俺の体に抱きついた。

「え?え?え?」

慣れない女の子の行動に、俺は頬を赤らめた。

「猫君可愛い♪♪」

はるかは、そう言って体を放し、俺の手を握り締めた。

会社を出ると、はるかは、スキップを始めた。

「ラーメン♪ラーメン♪
 猫君、美味しい店知ってる?」

「うんん……」

「そうなの?
 じゃ、私のお勧めの店紹介するね」

「うん」

「じゃねー
 こっちー」

はるかは、指を指すとその方向にスキップして進んだ。
もちろん、俺の手を繋いだままで……
女の子と手を繋いだ事は、これが初めてだけど。
思った事が一つある。

手を繋いでいるときにスキップされると歩きにくい。

そして、俺が案内された場所は、小さなラーメン屋だった。
よかった。
給料も入っていないのに、高いラーメン屋にでも案内されたらどうしようかと思っていた。

「ここ、安くて美味しいんだよ」

「そっか。
 よかった。」

「高い所紹介すると思った?」

「少し……」

「あはは。
 いくら私でも初対面の人に、高い所紹介したりしないよー」

はるかは、そう言って楽しそうに笑った。

初対面……
その言葉に胸がちくりと痛む。

「顔色悪いけど、大丈夫?」

「ああ。
 大丈夫。」

俺は、軽く頷いた。

「さぁ、中に入ろう」

はるかは、俺の手を引っ張った。
中に入ると、店主がこちらを睨んだ。

「ここの店主の熊さん」

「ね、猫です……」

俺は、熊さんに自己紹介した。
熊さんは、目のしわを細くさせるとニッコリと笑った。

「いらっしゃい
 はるかちゃんの彼氏かい?」

「彼氏じゃないです。」

はるかは、きっぱりと否定した。
何故だろう。
胸がちくりと痛む。
もしかして、これが恋ってやつか?

「さ、猫君は、何食べる?」

「何がお勧め?」

「えっとね。
 味噌ラーメンも美味しいよ」

「じゃ、俺は、味噌ラーメンでお願いします。」

「私も、味噌ラーメン♪」

「あいよ」

熊さんは、慣れた手つきでラーメンを作ってくれた。

「あいよ」

ラーメンは、5分も経たないうちに出てきた。

「早いね……」

「この店は、旨い安い早いが売りなの!」

「へぇ……」

俺は、頷きながらラーメンを口に運んだ。
こ、これは……

「美味しい……」

「でしょ!」

俺とはるかは、わいわいと賑わいながらラーメンを食べた。

「美味しかったね?」

俺は、帰り道はるかに訪ねて見た。

「あったぼうよ!
 なにせ、私のお勧めのお店だもん♪」

「そうだね。」

俺は、クスリと笑った。

「猫さんは、家何処?」

「ん。枚方。」

「あ、あたしも枚方だよ
 一緒だね。」

「うん」

「じゃ、今夜は私の家に泊まる?」

「えぇ!?」

「同じ枚方市民だし、泊まっても問題ないっしょ♪」

「狼になるよ?」

「いいわよ?
 襲って見る?」

はるかは、そう言うとクスクスと笑った。

結局俺は、その日、はるかの家で泊まる事になった。
胸の谷間を見せたり軽くからかわれたりしたけど、襲うことは出来なかった。
情けない男だと思う。
でも、初めて会った人と、肌を重ねるのもねぇ……

俺達は、朝、一緒に出社した。

はるかとは、同じ職場で同じ部署。

仲良くなるのはあっと言う間だった。

一年が過ぎ、二年が過ぎる。

そして、三年が過ぎた今……

俺は、はるかに呼び出され会社の屋上にいる。

「猫鍋さん」

はるかは、頬を赤らめて俺の目を見つめた。
あれ?ちょっとおかしいな……
いつもは、猫君って呼ぶのに……
今日は、猫鍋さんって……

「好きです」

好きって……?

「え?」

「これ、受け取ってください!」

どうして、こんな事になっているかは、わからない。
なにせ、俺は今まで、女の子に好かれた事なんて一度も無い。

はるかは、強引に俺にチョコを渡した。

「なによ!
 私じゃ不満だと言うの?」

「不満じゃない……」

「じゃ、私と付き合いなさい!」

はるかは、目に涙を浮べて怒鳴った。

「うん」

「え?」

「いいよ。
 俺、はるかと付き合う!」

「え?私なんかでいいの?」

「何言ってるんだよ
 自分から告白しておいて」

「だって、私だよ?
 辛口だし、可愛くないし、がさつだし、料理できないし」

「そんな事ないよ。
 はるかは、綺麗だよ」

「うそつき……」

はるかは、俺の胸の中で涙を流した。

こうして俺は、生まれて初めてバレンタインにチョコを貰える事になった。

これで、俺も晴れてバレンタイン一年生である。

さてさて、この物語は、ここで終わりを迎える。
俺の中では、バレンタインデーに本命チョコを貰えただけでも、ハッピーなんだ。

だけど、困った事が一つだけある。
それは……


ホワイトディーのお返し、何を返していいのかわかんねぇー!!


………おわり。

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