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新たなペットとそれぞれの名付け

 管理者は自身が創造した世界まで持ち帰った新たなペット候補を地面に置く。そうすると、元々飼っていたペットがやってきた。
 駆けてきたペットを管理者が撫でると、ペットは嬉しそうに喉を鳴らす。しかし、直ぐにまだ気絶したままの存在に顔を向けた。
 新顔が気になってしょうがないといった様子に、管理者は現状について説明していく。
 管理者の説明が終わると、ペットは管理者に甘えるように頬を擦り付けてくる。
 その仕草の意図を察して、管理者は安心するように伝える。新しいペットが来たからといって元々居た方を捨てるつもりは全くないし、ペットの数が増えたからといっても、まだ二匹なので接する時間はそこまで変わらない。
 そう伝えたところで、管理者ははたと気がつく。今まではペットは一匹だったから特に不便はなかったが、これから二匹になった場合は、どちらに用事があるのか分かるようにしなければならないと。つまりは名前を付けようかと思ったのだ。
 しかしそれは、今なお気絶している存在を飼育することになったらの話ではあるが。
 まぁそれはそれとして、まだ目を覚ましそうにもないので、このまま問題なく飼育する流れになった場合に直ぐに名付けが出来るように、今の内に二匹の名前を考えておこうと管理者は思った。
 だが困った事に、管理者はこれまで名前を必要だとは思っていなかったし、付けようなどと考えた事もなかった。
 今までは創造主とも教え子の管理者とも余人を交えず話をしていたし、管理補佐は一人一人に対して命令したぐらい。教え子の創造した管理補佐は、自身達の創造主よりも上位者である管理者を畏れて声を掛けてくる事はなかったし、管理者も他所の管理補佐に何か言う立場でもなかったので、結局今まで話す機会もなかった。
 なので、名前が必要な場面が管理者には今まで一度たりとも訪れなかったのだ。教え子の中には管理補佐にすぐさま名前を付ける者も居たし、自身に名を付けている者も居はしたが。
 名前という存在自体は管理者も知っている。自身が創造した者達が様々なモノに名前を付けていた。空とか海とかの大きな枠組みや、個別の細かなモノまで色々と。
 存在の独立、他者との区分け。名付けはそれを識別しやすくする手軽な方法だ。今までは呼べば一匹しか来なかったペットも、二匹になれば、どちらかを指定しなければ二匹とも来てしまうだろう。なので、やはり存在を分けるのは必要だろう。
 そこまで考えたところで、管理者は今後他の管理者も集めて交流を深めようとするのならば、自身も名前を付けた方がいいのだろうかと考える。
 他の管理者の世界でも、創造した者達は誰もが名前を付けていた。これは全ての世界に共通している出来事のようだった。やはり三人以上で交流する場合は名前は必要なのかもしれない。
 とりあえず直ぐには思い浮かばないし、急ぎで必要という訳でもないので、自分の名前は後回しにする。それよりも、ペット達の名前を先に決める方がいいだろう。
 ペットとまだ気絶している相手を交互に眺めながら、管理者は何がいいだろうかと思案する。今までにない悩みに、ちょっと新鮮さを覚えた。
 そうして、しばらくの間考える。
 ペットはこれぞ猛き獣といった立派な風格の持ち主だが、風格がありすぎて管理者以外は近づきにくいかもしれない。なので、せめて名前ぐらいは親しみやすい方がいいのかもしれない。そう考えた管理者は、猛々しさと親しみやすさが同居したような名前はないだろうかと考えてみる。
 そうしていると、そろそろ気絶から目を覚ましそうな気配を感じて、管理者は少し焦るようにしてペットの名前を決めた。その名前は¨ラオーネ¨。管理者の管理している世界にラオルと名付けられている獰猛な獣が居るのだが、それから名を取り、しかし親しみやすいようにと願いを込めて、名前の最後の方を丸い感じの語感に変えて考えてみた。
 考えたその名を伝えると、ラオーネは嬉しそうに一声鳴いた。普段は意思を伝えるだけで声を発さないのだが、よほど嬉しかったらしい。
 管理者はラオーネをひと撫でした後、気絶している方の名前を考える。そろそろ目覚めそうなので、少々急ぎながら。
 気絶している存在は、とにかく大きい。山と見紛うほどの立派な体躯に、愛嬌を感じさせる短い手足。顔は凶暴ではあるが、大きな身体の上なので、そこまで目立ちはしないだろう。
 そんな存在である。こちらも少しは親しみやすい感じが良いだろうと思いながら、管理者は名前を考える。
 しかし、そうしている内に目が覚めたらしく、それの凶暴そうな顔が動く。おそらく現状を把握するために周囲を確認しているのだろう。
 そこに管理者は声を掛ける。それだけで相手は跳ね起き、途轍もない巨体とは思えないほどの素早さで管理者から距離を取った。
 管理者はそんな相手を気にせず、ここに連れてくる前に尋ねた問いを今一度行う。つまりは、飼われるか消滅するか。というやつである。
 相手は管理者にあっさりとやられたのは覚えているらしく、怯むように首を竦める。それからしばらく逡巡していると、ラオーネが焦れたように大きく吠えた。
 管理者相手に弱っていたからだろう、両者は同格であるはずなのに、それに相手は怯んだように見えた。それに気づいたらしく、それは諦めて管理者に首を垂れて服従を誓う。
 そんな相手に管理者は満足そうに頷くも、その頭の中では名前を急いで思案しているところであった。
 とりあえず管理者は相手を受け入れ、ラオーネと今居る世界についての説明をして時間を稼ぐ。
 その説明が終わったところで、管理者はそれの名前を決める。その名前は¨ヴァーシャル¨。こちらは管理者が管理している世界に存在している山の名前だ。
 名前の由来であるヴァーシャル山はかなり標高が高い山ではあるが、それよりも形が奇麗という事で親しまれている山。
 ペットのヴァーシャルもそれにあやかり、見た目で恐れられずに親しまれたらという願いからその名を付けたのだった。
 それに対して相手は管理者に了承の意思を伝え、ヴァーシャルを自身の名として受け入れる。
 そうしてペットが二匹になったところで、各自に好きにさせた。
 とはいえ、勿論飼育場の世界から逃げだす事は禁止だし、ペット同士で喧嘩するのも禁止。それと管理者達を招待する区画へも立ち入り禁止にした。しっかりと隔離しているとはいえ、この二匹ならやろうと思えば壁を越えて侵入するぐらいは出来るだろうから。
 そういった注意点を伝えた後、禁則事項を破った時には罰を与えると続けて、今日のところは解散となった。

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