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新しい存在

 管理者が到着した場所には、大きな存在が居た。
 山と同じぐらいの大きな身体にゴツゴツとした表皮。それだけでも威圧感が凄い。
 顔は身体に比べれば大きくはないが、それでも顔だけで管理者よりも圧倒的に大きいだろう。前に突き出るように伸びた口元には鋭い歯がズラリと並び、見るからに獰猛な捕食者といった面立ちだ。
 目も鋭く、正面に立つ管理者をしっかりと捉えている。ただ、手足は身体に比べて異様に短い。その分太くてとても頑丈そうであるので、どっしりとした感じはするが。
 管理者が飼っているペットが戦いを具現化したような獰猛さと形容するならば、こちらは威厳を具現化したような威圧感がある。もっとも、管理者には全く効いていない。それどころか、どういう風にして飼おうかと思案しているところであった。
 相手はそんな管理者を威圧するように咆哮する。前回と違い、管理者に臆していないようだ。しかし、残念ながら管理者は微塵も脅威を感じていない。
 無造作に歩き出した管理者に、相手は炎を吐き出す。それは奇妙な炎だった。見た目は赤白く輝く普通の炎のようなのだが、どうも中身というよりも性質が違うようで、それに触れた者を焼くのではなく溶かしてしまう炎らしい。差し詰め腐蝕の炎とでも言えばいいか。
 ただ、残念ながらそれは管理者には通用しない。
 何事もなく腐蝕の炎の中を通過して近づいてくる管理者に相手は僅かに驚くが、更に炎の威力を上げる。
 管理者は気にせず近づくと、少し手前で立ち止まり、観察するように相手に目を向けた。
 相手は腐蝕の炎では効果が無いと判断すると、その巨体を動かして管理者を踏みつぶそうと接近してくる。だが、その程度でどうこう出来る相手な訳もなく、何事もなく乗り上げるだけという結果に終わる。
 無傷の管理者から離れると、次は大口開けて噛みついてきた。驚く事に相手の首は伸縮自在らしく、相手は立ったまま管理者の許へと口を届ける。
「………………」
 しかし、ガキンという音と共に噛みついてきた歯が砕け散る。管理者の身体が想像以上に硬かったようで、噛みついてきた相手は無様に鳴きながら顔を元の場所に戻した。
 管理者はそろそろ満足しただろうかという意志を相手に伝えると、相手はビクリと一瞬驚いた後に逡巡する。
 そのまま少し待ち、未だ何かを悩んでいる相手へと管理者は今後について伝えていく。つまりはペットとして飼われるか、ここで滅せられるかという二択。そもそも相手に管理者が飼う以外の生き残る道はないのだ。
 それでも悩む相手に、管理者は少し考え、最初の出来事を思い出す。それは相手が管理者を威圧した時の事。いや、あれは威圧というよりも威嚇……いや、虚勢の方が適当か。種の割れた弱者の威圧など滑稽でしかないのだから。
 まぁそれはそれとして、もう少し彼我の力量差というモノを明確に示した方がいいのではないだろうか。一連のやり取りで何となく管理者はそう思った。悩むという事は余裕があるという事だろうし。
 そういう訳で、普段周囲に影響が無いようにと極限まで抑えている力を開放してみる。それでも流石に全開はまずいだろうと思い、最初の相手の虚勢を参考にして、ある程度抑えはしたが。
 しかし、先程の攻撃で大分消耗してしまっていたのか、相手の虚勢を参考にしたにも関わらず、思った以上に力の差が開いてしまっていたようで、それだけで相手は気絶してしまった。どうやら最初の虚勢は結構全力だったらしい。もしかしたら、最初から何処かで管理者の強さを理解していたのかもしれない。
 管理者は少し悩んだが、折角なのでとりあえずお持ち帰りする事にした。暮らす環境をみればもう少し判断材料になるだろうと考えて。

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