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自分のための世界

 まだ世界間の移動が安定していないようなので、管理者は新しい管理者達の分身体を、創造主が創ったばかりの世界へと、指導のために一体ずつに送り届けた後、管理者も残りの二つの世界にそれぞれ自身の分身体を送った。
 新しい世界自体は変わらず真っ白な世界だ。そこに居るこの地の管理者も、見た目こそ違うがやはり管理者である事には違いない。
 能力的な部分だとまず世界だが、こちらは前回とそれほど変化はない様子。では、この世界の管理者はというと、前回の管理者よりも能力が少し低いようだった。それでも管理するだけであれば問題はないだろう。
 世界とその世界の管理者。前回と比べて変化が小さい事を鑑みれば、この二つはそろそろ調整が完了するのかもしれない。
 管理者が新しい管理者に指導するのはこれで二度目である。一度経験しているので、二度目はもう少し分かりやすく指導できるだろう。
 最後の試験を与えた教え子の方も気になるが、指導と言っても基本的にはたまに助言するだけで見守るだけなので難しくはないだろう。もしかしたら独自の方法で指導しているのかもしれないが、それはそれで興味深い。
 まず管理者は自分の領分をこなすために、新しい教え子に創造と管理の仕方を教えていく。今のところどの管理者も物覚えが良いので、指導に苦労はほとんど無い。
 そうして管理者が指導をしてから大分経ち、指導先の新しい世界の環境も落ち着いてきた頃、管理者は創造主から呼び出しを受ける。何でも新たに創造主と同格の存在が生まれたらしい。それも戦闘に特化した存在。
 管理者はとりあえず分身を一体増やし、創造主の下に向かわせる。分身体では無理そうであったのなら、現在出している分身体を消して一つに戻して対処する予定であった。既に管理者は能力的に創造主を遥かに超えた存在にまで成長していたので、管理者と同格であれば、いくら戦闘に特化した存在であろうとも、管理者が全力で当たれば対処は可能だろう。
 そういう訳で、指導や管理などの自身に割り振られた役割をこなしながら、管理者は創造主の下に急行する。
 管理者が到着した時には、創造主と新たな存在は戦いになっていたようで、創造主が急造の創造物を囮にしたり、何とか攻撃を躱しながら逃げているところであった。
 創造主は創造に特化した存在なので、それを除いた戦闘能力は然程高くない。それでも二代目以降の管理者では束になっても戦いにならないぐらいには強いのだが。
 ただ、同格なうえに戦闘に特化した相手では分が悪すぎる。どれぐらいの間追いかけっこをしていたのかは知らないが、むしろよく保てているものだと感心するほどだろう。
 では、援軍としてやってきた管理者ではどうかといえば、管理者は相手を見て、このままでも問題ないと判断する。
 創造主の近くに管理者がやって来ると、創造主を必要に追いかけていた相手は、ばっと退いて距離を取る。戦闘に特化しているだけに勘が鋭いのかもしれない。
 創造主はその隙に、管理者の影に隠れるようにして相手と距離を取る。両者の間に挟まれた管理者だが、それを一切気にせず相手に目を向けた。
 相手は立派な鬣を生やした四足の獣で、威厳と威圧を兼ねたような獰猛な顔をしている。管理者を警戒しながら、威嚇するように低く唸っている。
 それを見て管理者は僅かに考えた後、創造主にそれの捕縛の許可を願い出た。
 管理者の捕縛許可に、創造主は可能であるのならばという条件付きで許可する。それを受けて、管理者は捕縛後に何処で飼うかを考え、創造主に飼うために新しい世界を創ってもいいかと要請する。そこらの世界で飼うには、相手があまりにも強大過ぎた。
 創造主は僅かに考え、一つならばと許可した。それに礼を言った管理者は、早速捕獲するために相手に近づいていく。
 力の化身のような相手ではあるが、管理者が近づくと威嚇がより一層激しくなる。その必死な様は、小動物のようにしか見えない。
 管理者が目の前まで近づくと、相手は前脚で払ってくる。それは攻撃というよりは、恐怖のあまりに思わず出てしまったといった動作。
 振り払うかのようなその前脚だが、それでも喰らえばただでは済まないだろう。しかし、管理者はそれを事もなげに片手で受け止めると、立ち止まってジッと相手を見上げた。
 しばらく見つめ合った両者だが、視線に耐え切れなくなった相手は、管理者の前でごろんとひっくり返って腹を見せる。
 その降伏の合図に、管理者は相手をひと撫でして受け入れた後、創造主に挨拶をしてから降伏した相手と共にその場を去った。
 それからやってきたのは、既存の全ての世界からかなり離れた場所。ペットを飼うにも、そのペットが強大な力の持ち主であるが故に、何らかの形で周辺へと影響を及ぼしてしまう恐れがあったからだ。
 それを考慮して、かなり離れた場所に飼育場所を構築する事にした管理者は、ペットを傍に置いたまま世界の構築に入る。
 その世界の構築は直ぐに終わった。管理者は自らが管理を行うので創造する必要はない。
 管理者は新たに構築した世界にペットと共に下り立つと、出来を確かめるように周囲に視線を向ける。
 そこは創造主が構築する世界とは違い、最初からある程度の環境が整備されていた。緑の芽吹く大地に、何処までも続くような蒼穹。
 世界の大きさもそれなりにあるので、大きなペットでも安心だった。ペットが放つ力は世界に吸収され、世界の維持に使用される。余剰分が出た時は、世界を拡げるなどして管理者が対処すればいい。
 管理者はペットに、この世界の中であれば好きにしていいと告げる。管理者とペットの間には、今までの世界で創造した住民のように言葉は存在しないが、意思を伝える事は問題なく出来るので不便はない。
 今後も何かしらを創造するなりして世界を豊かにしていく予定の管理者は、その時々によってはペットの行動に多少の規制を設ける事もあるかもしれないと一応伝えておく。
 それに対してペットは、管理者に服従した身故にそこは管理者に従うという事だった。
 今はまだあまり予定も無いので、後はこの世界で好きにさせる事にして世界に放つ。そうすると、ペットは喜んで世界を駆けだした。
 その様子を見た管理者は、満足そうに頷く。何かを飼うというのは意外と面白い事かもしれない。思いつきではあったが、管理者はそう思ったのだった。

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