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指導

 到着した世界は、何処もまだ白い世界であった。管理者は自分が最初に見た景色と同じ景色のその世界へぐるっと視線を回すと、遠くに目的の相手を見つけて近づいていく。
 既にある程度の創造は行われているようで、近づいてみると小さな森やら平原やらが出来ていた。この辺りは創造主が知恵を与えたのだろう。
 管理者は指導する相手である新しい管理者の近くまで移動する。相手も事前に創造主から話は聞いていたのだろう。管理者がやってきても驚く素振りもない。
 軽く挨拶を交わす。新しい管理者は見た目も様々だ。背が高かったり低かったり。幼かったり成熟していたり。男っぽかったり女っぽかったりと。管理者に老いや性別はないので、それは見た目だけの話ではあるが。
 創造主がしっかりと最初に創造した世界とその管理者を参考にして創ったようで、新たな管理者の能力は控えめ。それでもまだ十分過ぎるほどだが。
 世界も最初に創造した世界よりは遥かに大きいが、どうやらそれ以上の成長はしないようだ。最初から内包している力相応の大きさらしいので、この辺りも控えめだろう。ただ、調べてみれば若干内包している力が大きさよりも多めではある。この辺りは何かあった時の保険という意味合いが強そうだ。
 世界の欠陥部分についてどうなっているのかまでは本格的に調べなければ分からないが、創造主もしっかりと最初の世界を参考にしているようなので、その辺りも含めて問題はないだろう。そう、管理者は思った。
 新しい管理者から簡単に現状を聞き出した後、管理者は指導の為に助言をしていく。まずは現在作業中の部分からだろう。
 その次は環境の整備から入るとやりやすいという事を教えていく。何かを育てるには、それを育てる環境づくりが大事なのだ。
 そういった話を一通りした後は、基本的には新しい管理者に任せて、管理者は見守る事にする。というのも、何もかもを管理者が指導して、画一的な世界ばかりではつまらないと思ったからだ。それに、こういった部分で個性というモノは表れるもの。管理者が来る前に着手していたモノでもその辺りが出ていた。
 そういう訳で、基本的には管理者は新しい管理者が世界を構築していくのを見守るだけ。時折口を出しても、明らかに創造の匙加減を間違えていたり、新しい創造で世界のバランスが崩れそうになっている時などの看過できない時に助言する程度。後は新しい管理者から問われた時か。
 まずは環境から。管理者のその言葉に従って新しい管理者は様々な創造を行っていく。
 管理者が辿った道に近い方法で創造を行う者や、奇抜と言えばいいのか、管理者では思いつかないような世界を創造する者など、それぞれ個性が見て取れる。
 環境の整備が終わったところで、各々が思い描く世界を目指して次の段階に進んでいく。
 管理者はそれを見守りながら、新しい管理者の成長が嬉しくなってくる。段々と形作られていく世界も楽しく、もしかしたら創造主もこんな気持ちだったのかとふと思った。しかし、管理者は自身の考えを直ぐに否定した。
 創造主は基本的に世界を創造する事しか頭に無い。一応こうして管理者に指導を要請するだけマシではあるが、創造主は管理者の能力以外は見ていない。管理者達はただ次の創造の為の資料でしかないのだから。
 自身の創造主ながらに困ったものだと思いはするが、管理者は自力で大抵のことは出来るので、創造主に対してはその程度で済む。これが何かしら助けを必要とするほどに弱ければ、また話は変わったのかもしれない。
 そう思ったところで、これから先も創造主は新しい管理者の能力を調整していく事だろう。もしも現在よりも更に次代の管理者を弱体化させるのであれば、困った時に誰かしらに助けを求められる仕組みを予め構築していた方がいいかもしれないと、管理者は考えた。
 現在で言えば、新しい管理者達は何かしら困った事があれば、そのまま指導している管理者に相談する事ができる。これから世界の数は徐々に増えていく事だろうから、それに合わせてこういった仕組みを何かしらの形で構築していく方が望ましい。
 管理者は指導をしながら、その事についても思案していく。
 そうして時を過ごし、それなりに見栄えが良くなったところで、そろそろ新しい管理者達に補佐の創造をさせた方がいいかと考える。
 新しい世界は世界の大きさが一定であるので、管理者同様に環境の構築にある程度目処がついたところで創造、としなくとも何ら問題はなかったのだ。
 しかし、新しい管理者の能力的にもそろそろ補佐が必要という判断を下した管理者は、新しい管理者達にまだ余裕がある内にそう助言した。一人だけ管理者が助言する前には補佐を創造していたが。
 創造する管理補佐の人数は、新しい管理者達の自由。必要になった都度創造してもいいし、はじめから一気に創造していても問題はない。
 能力的には、一人ずつ時間を置いて創造していく方が力が分散しないので高い。その分創造主たる管理者との能力差が近いので、制御が大変な場合もあるが。
 とはいえ、元々新しい管理者は世界に対して能力が高いので、補佐であれば数体同時でも十分な能力を備えているであろう。
 そういった説明も行った後、各々が管理者の助言に従い補佐を創造した。その補佐もまた、それぞれの個性が反映されていて面白い。
 それからは創造した管理者が補佐を教育しながら、世界を管理していく。
 そこまで行けば世界が安定してきたので、創造主は次なる世界の創造に行ったようだ。それを察した管理者だが、自分はもう少し指導しておくかとその場に残る。一つ気になる部分を見つけてしまったから。
 それは小さな穴。小さなと言っても、管理者の世界に最初に開いていた穴と比べればというだけで、大きさ的には小山程度なら入るかもしれないほどには大きい。世界によって大きさは多少異なるが、大体どこもそれぐらいの大きさ。
 新しい管理者もそれに気づき、右往左往している。管理者は流石に全て任せるのは難しいと判断して、新しい管理者に対して助言を行っていく。
 これに関しては、管理者が居たからこそ問題が起きずに対処出来た。もしも管理者が指導に来ていなければ、解決法を見つける前に世界は終わっていただろう。
 今後の対処法も含めて管理者は新しい管理者に丁寧に教えていく。
 それを行いながら、管理者は世界の欠陥がまだ直っていなかった事に驚いていた。少しは改善されていたが、その程度。一応学習の跡は確認出来たが。
 新しい管理者達に対策や対処法を伝え終えると、少しの間様子を見る。今後を考えて新しい管理者でも世界の修正が可能かも試してみたので、その成果も確認しなければならない。
 そうして見守り続け、穴の発生頻度や規模は管理者が直々に修正した世界ほどではないにせよ、落ち着いたものになっているのを確認して、その対処も新しい管理者がちゃんと出来るというのも判断したところで、管理者に創造主から次の指導が言い渡された。次は八つらしい。
 管理者は穴の事を創造主に伝えようとしたが、創造主は一方的に用件を伝えただけであった。
「……………………」
 管理者側からどうにか創造主へと連絡がつかないかと試してみたが、何処かで遮断しているのか、創造主には繋がりそうになかった。
 それにしょうがないと思い、指導に向かう事にする。今回の事で、指導者が居る事の重要性が少しは判明したのだから。
 しかしそこで、管理者は少し考える。また指導するのはいいが、このままではいつまで経っても自分が指導しなければならなくなるだろう。
 ではどうすればいいか。そう思案した管理者は、今指導している新しい管理者達に後進の育成を一部任せてみる事にした。つまり、今回の復習も兼ねて、一人一つずつ新人の指導を任せるという事だ。この試みが上手くいけば、今後にも活きていく事だろう。
 幸い、新しい管理者達が管理している世界も安定しているし、直接赴かなくとも分身を一体創るだけで済むのだから楽なものだろう。
 そういう訳で、管理者は最後の試験という訳でそれをやらせてみる事にした。自身は二人分身を増やす。初めての試みという事で、念の為にそれぞれの世界に分身を残しておく事にした。これで何かあった時は分身経由で手助けが出来るだろう。分けた身体は情報や感覚を共有できるのだから。

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