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第七話 魔物たちの仕事


 ヤスはセバスとマルスに魔物の住処を一任すると決めたが方向性だけは伝えておこうと考えた。細かいことまで指示を出すつもりは無いしわからないので、ヤスとしては方向性だけ伝えれば十分と考えたのだ、あとはマルスがうまく処理してくれるだろうと丸投げの姿勢だ。

『マルス。階層を増やして、魔の森と同じような環境を作ることはできるか?』

『可能です』

『セバスとの相談にはなると思うが、方向性は新しい階層を増やすことを考えてくれ、餌も必要だろう?』

『了』

 ヤスがマルスと会話しているのを感じ取ったツバキは黙って会話が終了するのを待っていた。

「マスター。少しお時間を頂戴したいのですが、よろしいですか?」

「大丈夫だけど、なんだ?」

「はい。セバスから引き継ぎを行いました。本当に、私が、マスターのお世話係でいいのですか?」

「頼む。それに、セバスはこれから魔物たちのことや暫くしたらやってくるユーラットから来る者たちの対応がある。俺のことを気にかけるよりも、セバスには外で神殿の為になることをして欲しい」

「わかりました。それから、魔物たちのことですが・・・」

「ん?あぁセバスは神殿に向かったのだな」

 さっきまで姿が見えていたセバスがすでに神殿に向かっていることを把握していた。

「今、マルスに話をして魔物たちが住む場所は神殿の中に新しい階層を作って環境を整えてもらうつもりだ」

「わかりました」

「どうした?何か心配事か?」

「そういうわけではありませんが・・・」

「何かあるのなら話をしよう。”できること”と”できないこと”があるけど話してくれないと理解もできないからな」

「はい。それでは・・・」

 ツバキはやすに魔物たちのことを説明し始めた。
 全部で6種類の魔物が居た。ヤスは、魔物の名前がわからなかったので、狼?・猫?・羊?・栗鼠?・兎?・鷲?と認識した。それぞれが魔の森では上位種に違いはないが、中位の冒険者なら問題なく戦える程度の魔物だ。
 ゴブリンやコボルトが相手なら1対1で戦える。しかし、上位種や変異種が産まれてしまうと対応が難しくなってしまうのだ。
 それだけではなく、魔の森では見られないがオーガ種には全滅を覚悟しなければならない程度なのだ。オーク種なら多大な犠牲を出して撃退に成功する可能性がある程度だと思えば良い。

 ツバキは、魔物たちが”弱い”ことを心配していたのだ。
 神殿に設定した魔物は、最深部に居る魔物を除くとオークやオーガなら問題なく倒せる魔物たちが神殿には多く存在する。神殿の魔物を弱く設定することも可能なのだが、神殿のコアを守る意味もあるので弱めにはしていない。
 神殿内部の魔物は増えすぎない程度に間引きすればいいので最悪の場合はディアナで自動駆除を考えている。

「ツバキ。魔物たちには無理をさせるつもりはないから安心して欲しい。それに仕事ならいろいろ考えるから大丈夫だ」

「仕事ですか?」

「そうだな。神殿の中での行動が難しければ、魔の森にセバスたちが行く時に道案内ができるだろう」

「良かったです」

 ヤスの見立てではツバキは魔物の一部(もふもふ)のことが心配だったようだ。

『マスター。ご報告したいことがあります』

『わかった。戻ったほうがいいか?』

『お願い致します』

 緊急ではないがマルスがヤスに報告を上げるのは珍しい。ヤスはツバキと急いで神殿に戻った。
 自室ではなくリビングで報告を聞くことにしたのだ。ツバキだけではなくセバスも呼ばれている。

『マスター。ディスプレイを御覧ください』

 リビングにかけられているディスプレイに何やら一覧が表示される。

「マルス。これは?」

『魔通信機の端末一覧です』

 マルスが簡単に済ませたようにエルフ族(正確にはアフネス)から貸し出されている魔通信機の一覧が表示されている。ヤスが預かってきた交換機にアクセスする端末が表示されているのだ。

『マスター。交換機が持っている機能の確認が進みまして、交換機同士を繋げることができることがわかりました』

「どういうことだ?」

『交換機はお預かりしている一台では無いはずです。現在は接続していませんが、端末から魔素の届かない範囲に届かせようとした場合には、交換機同士を接続して繋げる必要があります』

「そうか、だから限定的な範囲での運用になっているのだな?詳細は、アフネスに聞かないと判明しないだろうけど・・・。わかった、交換機の件はアフネスに確認する。それだけか?」

『マスター。通話記録を確認してください』

「ん?どれだ?」

 ヤスは、一覧の中からマルスが示した”魔通信機”を選択して通話履歴を表示させる。
 通話履歴の中から、スタンピードが発生した頃の履歴を選択する。

「マルス。この通話記録は元々存在していたのか?」

『マスター。交換機の中に保存されていました。件数で500件が保存対象のようです』

「ん?今までも同じ様にしていたのか?」

『不明です。ただし、履歴を参照していたと考えられます』

「そうか、わかった。アフネスに聞いてみる」

『お願い致します』

 ヤスは、マルスからの報告を聞いてから指定された通話履歴を再生した。

 地球の携帯電話サービスを知っているヤスにとっては聞きにくい再生だが聞き取れるギリギリなのだろう。
 一度聞いてからヤスは近くに居たセバスに指示を出す。

「セバス。もう一度再生するから文字に起こせるか?」

「かしこまりました」

 優秀なセバスはツバキにも手伝ってもらうことを条件に出したが一度で録音の内容を文章にした。

「マスター。これで大丈夫ですか?」

 セバスから渡された物を読んでみて問題が無いことを告げる。
 内容は問題だらけだが、文章にできたことでアフネスやダーホスに渡して確認できるだろうと考えた。

「マルス。他には?」

『些末なことですが・・・』

 マルスがヤスに説明したのは領都から辺境伯の娘がユーラットに謝罪に向かうということだった。
 辺境伯が王都に連絡をしているのを傍聴できたようだ。魔通信機が復活したことで、伝令を飛ばす手間がなくなったと言っているようだが、通話がクリアになったと喜んでいるのも聞かされた。マルス曰く『効率を向上させてアンテナを高くしたのが要因』だということだ。

 辺境伯の娘が何の目的でユーラットに来るのかまでは語られていなかったが、ユーラットが王家直属の領地であることから、辺境伯から王家に報告が上がったと言うことだ。辺境伯の家族の状況も通話の中に残されていた。

「そうか、末っ子がユーラットに来るってことだな。跡継ぎになる長男は王都に居て、長女はすでに嫁いでいる。次男が馬鹿なのは何かを勘違いしているのだろう」

 ヤスがボソッと呟いた言葉が通話の内容を過不足なく表現していた。
 実は通話は10分にも及んでいた。王都の情勢といいながら長男からの愚痴が辺境伯に伝えられた。代わりに次男の行いを嘆く領主の話しが続いた。ヤスとして聞き逃がせなかったのが、ユーラットに向かっているサンドラが神殿の主に会って王都からユーラットへの物資の輸送を頼みたいと考えているらしいことだ。

「どうなさいますか?」

 セバスが気を利かせて話をつないだ。
 神殿としての方向性を決める必要があることは間違い無い状況だ。

「そうだな。セバスは、魔物たちを頼む。神殿の中の間引きができる程度まで強化ができるか調べてくれ、5人衆はしばらくの間は魔の森と神殿の両方を担当。魔物たちをパーティーに入れて調整しながら駆除を行ってくれ」

「はっ」

 セバスが頭を下げる。

「ツバキは、リーゼたちの到着までセバスに付いていろいろ引き継いでくれ」

「かしこまりました」

「セバス。魔物たちの処遇が決まったらツバキに移管。その後は、俺の筆頭執事として神殿の外向きの業務を頼む」

「外向きとは?」

「どんなことが発生するかわからないけど、まずは俺の補佐。ギルドの出張所もできるようだから、ギルドとの折衝を頼むことになる。辺境伯の娘が到着したら最初の対応を頼む。家や建物はマルスとツバキに聞いてくれ。リーザ以外の割当も頼む」

「はっ。かしこまりました」

「マルスも頼むな」

『了』

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