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第二十九話 実際問題?


「わかった。ラナ。でも、ユーラットに・・・。エルフ族が何人いるのかわからないけど入る事ができるのか?入れたとして、生活できるのか?」

 ヤスの懸念も当然なのだ。
 ユーラットは王国の辺境伯の領地から更に辺境に移動した場所にある。辺境の町だ。村と呼んでもいいレベルだ。
 土地は有るのだが問題は食料となる物が、漁業が中心になってしまう事だ。肉は魔の森が近くになるので供給する事はできるだろう。

 問題は、穀物や野菜や水だ。
 狭い土地を切り開いて作った町なので、畑を作る余裕が無い。ユーラット単体ではどうあがいても限界が来てしまう。
 塩はリーゼの父親が指南した方法で確保できているので問題は少ない。

 今までは、領都から商隊が運んできていたのだが、それも今後は規制される可能性だってある。
 辺境伯が、規制するとは思えないが”魔通信機”の復活を条件にしてくる可能性だってある。

 ラナも、リーゼの事があって頭に血が登っていた事は認めつつもやはり譲れなかった・・・。と、小さい声で説明するしることしかできなかった。

「俺に言われても困るけど・・・な。やっちゃった物はしょうがないだろう?今は”これから”を考える必要があるだろう?」

「ヤス殿?」「リーゼ様と私はユーラットに戻る予定だが、ヤスはどうする?」

 ラナもミーシャもヤスに聞きたい事が有るようだ。
 ミーシャがラナの質問を打ち切るようにヤスの予定を聞いてきた。

「そうだな。領都もきな臭くなってきたから、神殿に帰ろうかと思っている。その後は、アフネスとリーゼとミーシャとラナが神殿を訪ねてきてから考えるかな?」

 ヤスとしては、領都にとどまってもやることも無いしできる事も無い。
 ユーラットに帰って、神殿に籠もったほうが有意義な事ができるかもしれないと考えているのだ。討伐ポイントも貯まっている。それに、トラクターの整備も気になっている。かなり無理をしたという自覚もある。

「わかった。姉さんにも言われているから、リーゼ様を守って移動する。街道の魔物・・・」

 ミーシャはここでヤスを見る。
 何か、ヤスが魔物を倒してきている事は確定だと考えている。全ての魔物が倒されているとは思っていない。したがって、ユーラットまでリーゼを安全に届ける方法を考える必要があると思っているのだ。護衛はリーゼを慕う者たちから募れば集まるだろう。ユーラットまで移動する事を考えれば多少の犠牲は出るかもしれないが突破は可能だと考えていた。スタンピードで出現した魔物たちも一箇所に集まっているわけではない。突破できる隙間くらいはあるだろうと考えていた。

 ラナもほぼ考えはミーシャと同じだった。
 違ったのは、もう少しだけ現実的だった事だ。領都の情報を得る機会を失うのはまずいと考えていたのだ。

「なぁラナ。少しだけ疑問が有るのだけどいいか?」

「はい?」

 ヤスは感じていた疑問をラナに聞く事にした。
 本来なら、リーゼに聞くのが筋だろうがリーゼではポンコツ過ぎて答えられないと考えていた。そこで、アフネスに聞いても良かったのだが答えてくれるとは思えなかった。答えてくれたとしても絶対に何か条件が付けられる。それなら、現状で優位に立っているラナに聞くのがベストだろうと思ったのだ。

「ラナ。”魔通信機”を見る事はできるか?」

 ヤスはある程度は予想ができていた。
 物を見たわけではないが、”電話”だと思っている。それも、固定電話だと予想している。ダイヤル式ならロマンを感じるが再現が意外と面倒なのでボタン式では無いかと思っている。

「なぜ?」

 ラナは少しだけ警戒した声を出す。
 ヤスが気になるのは解るのだが見てみたいと言い出すとは思っていなかったのだ。

「リーゼの父親が作ったのだよな?」

「はい」

 ラナにとっては当然の事だが、ヤスは敢えて聞いた。人非人であるリーゼの父親なら自分と同じ考えを持っても不思議ではないと考えた。
 そして、複雑な機構にはしないはずだと考えたのだ。ヤスは、前世?で悪友だったシステムエンジニア(本人はプログラマと呼称)から聞いていたことを思い出していた。”複雑にすればいいと思っているシステム屋は素人だ。本当に優れている奴は誰でも解るシンプルな作りで複雑な状況を解決する”そう言い切っていた事を・・・。

「さっきのラナの説明では、遠隔で機能を止められるようなことを言っていたけど可能なのか?」

「可能です。”魔通信機”の原理は知っていますか?」

「うーん。わからない。見たこと無いからな」

「そうですか・・・。”魔通信機”には11個のボタンが付いています」

「0から9の番号ともう一個か?」

 ヤスは自分の予想が当たっていた事で考えが確信に変わる。

「え?やはりご存知なのですか?」

「いや、11個って言っていたからな。すまん。それで?どうやって使う?」

「・・・。はい。領都のギルドに通信しようとしたら、008010とボタンを押して最後に”改行”を押します」

「・・・・。それで?」

 ”改行”と聞いたときに奴らと同じ人種が来ていたのかと思った。
 悪友から聞いていた話では、あの業界では”人が居なくなる事”はよくある事で心配はするが”逃げた”と考える異常者の集まりだと・・・。消えた人がこっちの世界に来ていたのかもしれない程度に考えたのだ。

「そうすると、相手に繋がります」

「・・・。直接・・・。そうか、交換機か?どこかに、繋げる場所があるのだな。そして、繋がらなくする事で使えなくするのだな?」

 ヤスはこの時点で確信した。
 交換機を作って魔通信機からの通信を繋げて、番号に合致した相手に繋げる。

 解約の方法もしっかりと考えていることを考える。ヤスは二人の悪友を思い浮かべる。そして

(やつらと同類だな。話をしてみたかったな)

「!!」「!!ヤス!どこでそれを!」

 ミーシャが答えを言ってしまった。
 ラナはミーシャを睨むが後の祭りだ。ラナとしては、ヤスに”魔通信機”の秘密か設置を餌に領都にいる同朋を神殿で受け入れてくれないかと頼むつもりで居たのだ。都合がいい取引である事はわかっているのだが、ヤスにすがるしか無い状況になっていると理解していたのだ。

「ミーシャ。せっかく、ラナが俺との駆け引きをして何かの取引材料にしようとしていたのにお前がそれを言っちゃぁ駄目だろう?」

「え?ラナ?」

 ミーシャがラナの顔を見るが、ラナは苦笑するだけにとどめた。

「ヤス殿・・・。まぁいいですよ。そこまでわかっていたのですね」

 ヤスが言った事が本当の事だと認めたような物だったが、ミーシャもラナもそれどころではなかった。

「いや、知らなかった。よく知った物を使った事があっただけだ」

「わかりました。そういう事にしておきましょう。それで、何を知りたかったのですか?」

 ”魔通信機”の秘密はアフネスたちにとっては”秘中の秘”、外部にばれてしまうわけには行かないのだ。
 だが、ラナはこれ以上のことを説明したらヤスに全部がばれてしまうかもしれないと思ってしまったのだ。

「ん?俺の知り合いにもそういうのを作るのが好きな奴が居て、そういう奴なら必ず仕掛けを作っていると思っただけだ」

「仕掛けですか?」

「そうだな。例えば、通信の内容を盗み聞きできたりする機能だな」

「え?」

「無いのか?」

「申し訳ない。私は知らない。もしかしたら、アフネス様なら知っているかもしれない」

 ヤスはこの時点で交換機があるのならユーラットだと思っていた。
 それでなければ、アフネスがユーラットを離れない理由がない。

「そうか、そうなると”交換機”はユーラットだな」

「!!」

「その顔だけで十分だ。アフネスと交渉する。そうだな・・・俺が出せる事は、領都からユーラットに移動する奴らの住処くらいかな?」

 ヤスが出した条件こそラナが今一番に欲しかった事だ。

「ヤス殿」「ヤス!」

 ラナはヤスの名前を呼ぶことしかできなかった。
 まだ何も安心できる要素はなかった。スタンピードの魔物たちがいる街道をユーラットまで行かなければならない。しかし、ヤスの言い切った顔を見て安心してしまった。もしかしたらなんとかなるのかもしれないと・・・。

「リーゼと一緒に神殿の敷地内に住む事を許すくらいしかできないな」

 ヤスはそう言ってニヤリと笑った。

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