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第二十二話 強行


『マスター。トラクターの準備が整いました』

「ありがとう」

 ヤスは残っていたパンを口に押し込んで、ジュースで流し込んだ。

「マルス。トラクターを正面まで移動しておいてくれ」

『了』

「エミリア。山下りのルートは算出できるか?」

『可能です』

「スマートグラスに表示してくれ」

『了』

 5分ほど経過した。
 ヤスは準備を整えていた。死ぬつもりはない。運転には自信を持っている。無茶な事ではないと考えているのだ。

「マルス。行ってくる」

『マスター。お気をつけて』

 マルスに声をかけてから正面に停められているトラクターに向かう。

 ヤスは今から乱暴な運転をする認識があったので、余計な荷物は全部降ろすつもりで居た。

「セバス!」

「はい」

「荷物を降ろすから手伝ってくれ」

「かしこまりました。眷属を呼んでもよろしいですか?」

「構わない。言っていた、手伝いをさせる奴らか?」

「はい」

 セバスが、5人の執事服を着た者と、5人のメイド服を着た者を呼び寄せた。

「ん?あぁ眷属には人数の制限はなかったな」

「はい。駄目でしょうか?」

「ん?セバスに任せる。分体は地下二階で待機だったよな?」

「はい。神殿に潜る準備を行っております」

「わかった」

 ヤスは少しだけ考えてエミリアを取り出す。
 セバスにはトラクターの中から動きそうな物を全部運び出すように指示をする。
 その間にも、セバスに指示を受けた眷属達が荷物を神殿の地下一階に運び込んでいく。
 そこで初めて商品サンプルがトラクターの中にあったのを思い出したヤスだったが、日本に置いてこなくてよかったのかと思ったのだが、そもそも自分が何故来たのかわからないことを思い出して忘れる事にしたようだ。

「エミリア」

『はい。マスター』

「セバスの眷属は、地下一階にしか入る事ができないのか?」

『はい。マスターの眷属ではないので地上部には入る事はできません』

「眷属化すればいいのか?」

『すでに個体名セバス・セバスチャンの眷属の為にマスターの眷属になる事はできません』

「わかった。ありがとう」

 ヤスは、セバスの眷属達も地上での活動が可能なら1階のスペースをもう少し変更しようと考えていた。しかし、現状セバスだけしかヤスの世話ができないのなら拡張の必要は無いだろうと考えたのだ。

「セバス」

「はい!」

「眷属は増やせるのだよな?種族は、エントだけなのか?」

「男性型になっているのがエントで、女性型はドリュアスです。眷属は人型になる事ができませんが、スライム種やマタンゴ種は眷属として呼び出す事ができます」

「基本が、植物系の魔物だな?」

「はい」

「例えば、神殿内に新しい魔物を俺が配置したら、セバスが認識して眷属にする事はできるか?」

「わかりません。しかし、植物系の魔物だけになる事は間違いありません」

「そうか・・・。そうなると、安全を考えると人型になれる魔物で動物系の上位種を眷属にするのが良いのか?」

「それがよろしいかと思います。動物系の魔物ですと、種族特性が残ってしまう事を考慮して、獣人族だと言えるような者がよろしいかと思います」

「わかった。俺は、これから仕事で領都に行くけど、2-3日で戻ってくる予定だ。その間に、マルスを交えてどんな魔物がいいか検討してくれ」

「かしこまりました。何体くらいをお考えですか?」

「そうだな。最終ボスは、セバスになってもらっているからだな。3階と4階の責任者って事で2体と、神殿の・・・。違うな・・・。広場に作る門の門番にむいた魔物を3体・・・。合計で五体を選んで欲しい」

「魔物に何か制限はありますか?」

「うーん。今から、討伐ポイントが多少はいると思うから・・・。あぁ魔物は魔力だったな。魔力なら別に問題ないかな?セバスと同等で考えてくれ」

「かしこまりました」

 ヤスはもうひとつセバスにして欲しかったことを思い出した。

「あ!」

 下がろうとしたセバスを呼び止める為に声を出す。

「はい」

「セバス。あと、マルスと相談して、セバスの眷属達が住む場所を作ってくれ」

「え?」

「ん?」

「マスター。眷属たちは、最下層に魔物として存在させます」

「あ!そうか、それなら必要ないか?マルスと相談して、環境を整えてくれていいからな。多少なら討伐ポイントが入ると思う」

「大丈夫です。マルス様にお願いして自分たちで討伐ポイントを稼ぐことに致します」

「ん?わかった。セバスたちが大丈夫ならいいよ」

「はい。ありがとうございます」

 セバスの眷属たちが荷物を全部運び終わったようだ。一度にもっと持っていけるだろうとヤスは思ったのだが、セバスの眷属から見たらヤスは至高の存在なのだ。その存在から荷物運びを頼まれたのだから、丁寧に運ぶのは当然だし、丁寧なだけではなく一品一品を丁重に扱うのが当然の事なのだ。
 そのために時間がかかってしまったのだ。

 ヤスは、生まれたばかりで”まだ”無理ができないのでは無いかと思っていたのだが、事情は全く違っていた。

 セバスと眷属達がトラクターの横に一列に並ぶ。
 マスターであるヤスを見送るためだ。

 荷物を降ろしてスッキリした所で、ヤスはエンジンをスタートする。

(やはり愛機だな。しっくり来る。こいつとなら多少無謀な山下りも大丈夫だろう)

 ヤスはスマートグラスをかけた。

「エミリア。ナビを頼む。山下りだ!事前に次のカーブを教えてくれ」

『了』

「山下りをして、領都からユーラットに移動した街道にぶつかるまでの時間を表示」

『了』

 スマートグラスにはナビが表示される。到達時間が表示される。

「エミリア。トラクターの損傷率を出せるか?」

『可能です』

「魔力の残量から計算する稼働が可能な時間を表示する事はできるか?」

『可能です』

「魔力の残量を風魔法に変換した時に可能な残数は出せるか?」

『稼働の時間との兼ね合いで完璧には計算できません』

「それはいい。俺が計算する。残数の表示は可能か?」

『可能です』

「あと、結界は壊れるまで、壊れた事がわからないのか?」

『質問の意図がわかりません』

「結界を張って移動している時に結界が何かに接触して損傷する事があるよな?」

『はい』

「その時に、後何回程度なら耐える事ができるのかを表示する事は可能か?」

『結界の損傷を出す事はできますが回数の表示は不可能です』

「わかった。トラクターの稼働が可能な時間の表示。風魔法での残数表示。結界の損傷をバーで表示」

『了。結界は物理結界と魔法結界の両方を別々に表示。稼働が可能な時間から、結界分の魔力は除外。風魔法に関しても同様の処置を行う』

「頼む」

『はい』

 ヤスのスマートグラスには指示した通りの情報が表示される。
 ニヤリと笑いそうになる気持ちを抑えながら、神殿の広場を移動してエミリアが指示した場所まで移動した。

”到着まで:57分”

 1時間後には魔物と遭遇している。
 息を大きく吸い込んで、アクセルを踏み込む。大きなタイヤは盛大にホイルスピンする。

「ディアナ。駆動制御と姿勢制御を行え!」

『了』

 ナビの画面に制御が開始された事が解る表示が出る。

 エンジンの大きな音を響かせながら斜面を下っていく。
 ヤスの気分的には、走らせているというよりも落ちていくと言ったほうが的確だろう。

 それでも、タイヤが路面を噛んでいれば制御ができる。
 ブレーキはよほどでなければかけない。アクセルワークとギヤチェンジで山道を下っていく。

”到着まで:33分”

 時間がいきなり半分になった。速度が出ているので計算が変わったのだろう。路面を考慮しながらだが徐々に速度を上げていく。
 ヤスには到着時間を気にする余裕はない。木々の間を縫うように走って岩を避けるだけで精一杯だ。実際に奇跡の連発だ。ナビが出せるのは”道”の情報だけだ。マルスの支配領域だが、トラクターが通る事ができる道は探せるが、道端に転がっている岩まではナビする事はできない。
 ヤスは岩を避けながら山を下っていく。

”ゴブリンと思われる。魔物の群れ発見”

 多少ではなく無茶をしたヤス。
 第一章は無事クリアしたのだが、これからすぐに第二章が始まろうとしていた。本番と言っても間違いではないだろう。

 ヤスは決めていたセリフをエミリアに告げる。
 エミリアの表示から神殿の支配領域から離れた事がわかった。これからは神殿(マルス)の手助けは期待できない。己の腕と魔力で乗り切るしか無い。

「全力で周りを索敵。大きな群れから潰していく!」

『了』

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