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蝸牛人のサンバ ~結婚するって本当でごじゃりますよ その2

 この世界の結婚式って、僕が元いた世界の結婚式と似ていました。
 花嫁さんの横を父親が腕を貸して歩き、長いヴェールの裾を子供が持って歩きます。
 そんなヴェールガール・ヴェールボーイをパラナミオとリョータが務めます。
 最近、歩けるようになりまして、家の中などを元気に歩き回っているリョータですが、まだまだヨチヨチ歩き状態のリョータにそんな大役大丈夫かな、と思っていると、
「パパ、大丈夫です!パラナミオがリョータをしっかりフォローしてみせます」
 そう言って、白いワンピース姿のパラナミオが胸をドンと叩いていました。
 で、そんな姉の行動を見たリョータはですね、その横に立って同じように胸を張って、同じように胸を叩いていました。
 僕は、そんな2人の頭を優しく撫でまして
「じゃ、パラナミオよろしく頼むよ。リョータはお姉ちゃんの言うことをよく聞いてね」
 そう言葉をかけました。
 そんな僕に、パラナミオは満面の笑顔で
「わかりました!」
 と答え、リョータもまた笑顔で右手をあげていました。

 ……そんな2人の後方で、スアが『いざって時はまかせて』とばかりに右手の親指をグッと立てていました。

 ほどなくして、僕達はヴェールをまとい準備の整ったヤルメキスの元へと移動していき配置につきました。
 僕は、ヤルメキスの横に立ちました。
 ヤルメキスは
「あ、あ、あ、あの……ほ、ほ、ほ、本日はお日柄もよく……」
 と、完全にテンパっています。
 僕はそんなヤルメキスの肩に手を置くと、
「大丈夫だって、僕だけじゃなくて、パラナミオもリョータも、それにスアも一緒についてんだから」
 そう言ってニカッと笑いました。
 そんな僕の顔を見たおかげなのか、ヤルメキスは少し落ち着きを取り戻したようです……あくまでも、少しですけどね。
 で、そんな僕達は、教会のシスターに促され、いよいよ会場内へと入っていきました。

 ちなみに、この教会は表向きはボブルバム教の教会なのですが、実際には無派閥とでも言った方がいいような教会です。
 何しろ、このガタコンベって都市は、都市民の9割近くが亜人ですので、人種至上主義とかとってるボブルバム教ではやっていけませんからね。

 で、すでに会場の中、神父の前にはパラランサとオルモーリのおばちゃまが待っています。
 そんな2人の元に、僕達は歩き出していきました。
 ちなみに、ヤルメキスは何もないところで5回すっころびそうになっていたのですが、その都度スアが魔法でヤルメキスの体を固定し、転倒を防いでくれていました……そのウチの2回では僕まで巻き添えになって倒れそうになっていたんですよね……相変わらずのヤルメキスといいますか。
 でも、そんな新婦のずっこけぶりもですね、会場内の皆さんは暖かく見守ってくれていました。
 コンビニおもてなしでも『土下座でおじゃりますの姉ちゃん』として、皆に好かれているヤルメキスですからね。
 で、どうにかパラランサの横に到着したヤルメキス。
 その後ろをパラナミオが、ヴェールの端っこを持って笑顔で歩いていました。
 リョータは、そんなパラナミオの腰のあたりに手をあてて一緒に歩いていました。
 そんな2人に対して
「まぁ、可愛いこと」
「ここにも可愛い新郎新婦さんがいるわね」
 そんな声も聞こえていました。
 ……まぁ、相手がリョータなら許しましょうか、うん。

 で、おきまりの
「病めるときも……」
 的な台詞を神父が話していき、それに対して、パラランサとヤルメキスが
「誓います」
「誓うでおじゃります」
 と答えていきまして、そして指輪の交換へ……
 ヤルメキスってば、
「あわわ……」
 と、この後におよんでさらに真っ赤になってガクガク震えていたのですが、パラランサはそんなヤルメキスの左手をガッシと掴むと、その薬指に指輪をはめていきました。
 さすがルア工房で鍛えられているだけあります。その一挙動でヤルメキスの震えを止めてしまいましたから。

 で、指輪交換を終えた2人は
「では誓いの口づけを……」
 そう神父に言われ、向き合っていきました。
 ヤルメキスってば、ヴェール越しでもわかるくらい真っ赤になっています……っていうか、肩まで真っ赤になっていました。
 パラランサは、そんなヤルメキスのヴェールを上げると、
「大事にするから」
 そう言いながら口づけていきました。
 完全にテンパっているヤルメキスってば、目を見開いたままでした……おいおい。
 とにもかくにも、こうして無事に式を全うした2人なのですが、
「いやぁ、おめでたいでござるな、それ!」
 そう言いながら、黄色の紋付き袴姿のイエロが手に持っていた米をパラランサとヤルメキスに向かってぶちまけていきます。
 おま!? ライスシャワーにはまだ早いっての!

 そんなトラブルもありながら、どうにか式も無事終わりました。
 ブーケトスもあったのですが、その花は壮絶な奪い合いの末、ハニワ馬のヴィヴィランテスが咥えて持ち去っていきました……おい、お前は雄だろう……確かにオネェではあるけどさ……

◇◇

 式を終えた一同は、そのままおもてなし酒場本店へ移動。
 そこで披露宴へと移っていきます。

 そんな中、主催ラテスさんによります極秘ミッションがスタートしました。
「あ、ごめ~んルア」(超棒読み
 そう言いながら、上半身赤いドレス姿のラテスさんが、手に持っていたお酒をルアにぶちまけました。
 頭の上からドバッとです。
 で、ご丁寧にもう片手に持っていたお酒を、その横に立っていた鎧姿のオデン六世さんにもぶちまけていきます。
 ほぼ、叩きつけていましたね、ラテスさんってば。
 で、ずぶ濡れになった2人を
「あらあら大変、すぐに着替えないと」(超棒読み
 そう言いながら、会場の2階にある控え室へと連れ込んでいきます。
 その中にはルアママであるネリメリアさんをはじめとしたオトの街の皆さんが控えていまして、控え室に入ってきた2人を即座にひんむいていき、着替えさせていきます。
「……な、なんじゃこりゃあ……」
 唖然としながら控え室から出てきたルア……はい、綺麗なウェディングドレスを着ていますねぇ。
 オデン六世さんも、白のタキシード姿になっています。
 で、そんな2人の後方に歩みよったネリメリアさんがですね、
「今日くらい親孝行しな」
 そう言いながら、2人の背に腕を回し、会場の中に2人を移動させていきます。
「……な、なんだよこれ?ひ、披露宴は、ほら、パラランサとヤルメキスが……」
「2人にも了承済みだよ、観念おし」
 ネリメリアさんは、そう言いながら2人と一緒に移動していきます。
 なんかね、すっごく嬉しそうな笑顔をしていました。

 で、まぁ、ここからはパラランサとヤルメキスに加えてオデン六世とルアの合同披露宴になっていきました。

 ヤルメキスの横に無理矢理座らされたところで、ルアも覚悟を決めたらしく
「もう、好きにしろってんだ」
 と言いながら、腕組みして胸を張っています。
 ここら辺の度胸の良さと言うか、切り替えの早さはさすがルアです。

 思えば、僕がこの世界に飛ばされてきたとき、最初に声を掛けてくれたのがこのルアだったんですよね。
 ルアがあの時あれこれ世話をやいてくれていなかったら……もっと言えば、この世界に飛ばされてきたコンビニおもてなしの前の店がルアの武具屋じゃなかったら、ひょっとしたら僕はこの世界でコンビニを営業することを諦めて冒険者か農民をしていたかも知れません。
 そうなっていれば、当然スアとも出会えていなかったでしょう。
 そう考えると、ホント僕にとっても恩人なわけです、ルアってば。

 そんな思いを込めまくって作った、僕特製のウエディングケーキが会場内に運び込まれてきました。
 もちろん、ヤルメキスのウエディングケーキには、実の娘と変わらない愛情を込めて作っています。
 セーテンが、パラランサとヤルメキスの
 ブリリアンが、オデン六世とルアの
 それぞれのウエディングケーキを会場内に運び込んできました。
 台車に乗せられたそれは、高さ3mはあります。
 それがツインタワーよろしく、新郎新婦席の前に並んでいる姿が、ホント壮観です。
「……なんだよ、泣かせるんじゃないよ」
 そう言っているルアってば、もうどうしようもないくらいに号泣しています。
 うれし泣きでナイアガラの滝状態です。
 その横では、ヤルメキスが両手で口元を覆ってケーキを見つめ続けています。
 もっともこの目は感動は感動でも
『こ、こ、こ、こんなケーキどうやって作るのでごじゃりましょうか!?』
 という、いつものヤルメキスの知的探究心的な表情ですね。
 そんな2組の新郎新婦が、揃ってケーキにナイフを入れていきます。
 すると、
「よし、新郎新婦を胴上げだ!」
 誰かがそんな事を言い出しまして、参加者の皆さんが新郎新婦に群がっていきました。

 ……で……あれ?……おい、イエロにセーテン……それにシャルンエッセンスやシルメール……それに魔王ビナスさんやララデンテさんまで、なんで僕の周囲を取り囲んでいるんだい?
「さぁ、拙者達は店長夫妻を胴上げするでござる」
「「「おー!」」」
 イエロの号令を合図に、僕は皆の手によって担ぎ上げられていきました。
 ……どうやら、計ったなイエロ……的な状況だったようです。
 まぁ、これはもう諦めるしかない……そう思い、僕は皆にされるがままに成っていたのですが、

 そんな僕の視線の先には天井がありました。

 僕の脳裏に、今月初めのおもてなし酒場2号店での悪夢が蘇りました……オルモーリのおばちゃまのあの悪夢が……
「それ、わっしょい」
「「「わっしょい!」」」
 そんな僕の体は、イエロの合図に合わせた皆のかけ声とともに放り上げられていきまして……

 はい、この時の僕は天井に見事にめりこんでいたそうです。
 完全に意識を失った僕は、この後の披露宴をスアの膝枕の上で介抱されながら過ごすことになったのですが、スアの太ももの心地よさしか記憶に残っていなかったわけで……細いけど、得も言われぬこの……

 と、まぁ、最後までドタバタしながらも、こんな感じでパラランサとヤルメキスの結婚式は無事終了していった次第です、はい。

しおり