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今日は久々のおやすみ。
駅前で蓮と待ち合わせをしている。前に輝也と約束した彼らの学園祭の日なのだ。

「あ、こっちこっち!!」

蓮に一人で行くと言ったら「じゃあ俺も」とついてきた。自分のサークルはいいのかと聞くとシフトはまた別の日なのだそうだ。驚かせようと思っていたのに残念。

「よお、久々だな。彼氏はいいのかよ?」

「別にやましい事なんかないんだからいいでしょ。」

「おまっ、昔からほんとそういう所だぞ。」

不服そうな顔をする蓮。そんなにエルのことが気になるのか。そこまで嫉妬深いたちではないと思うのだが。むしろされる方だろう。

「よりによってガブリエルなんて厄介者選ぶなんてよ。今は知らねえが俺が知ってる頃のやつの捻くれ方は普通じゃなかったぜ。」

「今もそう変わらないよ。…みんなが変わらないようにね。」

あんたの方がむしろ変わったように感じる。ハンスはそんなに人に何かと語るような人物ではなかったはずだ。まあ過去の後悔とかで意識的にそうしてるかもだし、特に触れはしないけどね。

「ここの大学は相変わらず広いね。」

「確かに、お前教室間違えてたもんな。こっちで一覧見れるぜ。」

入ってすぐの大きい掲示板には今日のイベントが出ている。輝也のいるサークルのコンサートはまだまだ先だ。

「で、アニキの出番は午後なのか。…それまでにたっぷりお前とやつの話を聞こうじゃねえか、お嬢様?」

「…わかりましたよ。」



ーーーーーーーー



「じゃあ今お前あの顔だけイケメンとお試しで付き合ってんのか!?…ぷっうける〜。一丁前に年頃の女の子じゃねえか。」

大学内のカフェで全てを話すと返ってきたのは本当に前世とはかけ離れている下品な笑い声。つけているブレスレットが蓮が笑う度にジャラジャラと音を立てる。

「うっるさいなー!だってしょうがないじゃない。今まで好きとか、全然わからなかったんだから。」

「なんだよピュアかよ〜。かっわいいなお前。」

髪の毛をくしゃくしゃにしてくる。なんなんだコイツは。

「やめてーきもいきもい!これで輝也さんと双子とか遺伝子から見直してきてほしい!」

「は?それはひどくね?でも残念でしたー俺とアニキはずっと双子だっつーの。」

前世でも今でも顔以外まったく双子要素がない。前世なんて私も二度くらいしかハンスとは会ったことなかったし。

「はあ…くそおもしれえ。でもよかったよ。なーんだお試しか。ビビらせんなっての。早くアニキにも報告してやれよ。」

少し真剣な表情で蓮は言う。そりゃあ私に良くしてくれてる大切なお兄ちゃんだもんね。相談もさせてもらったりしたし本当は真っ先に伝えなきゃなんだけど。

「誤解なく伝えるために会って話したいの。ただなかなか時間がね。」

それにかこつけて少しだけ言いづらいのもある。…なんでだろう、なんとなくだけど。

「アニキも今日まで忙しかっただろうしな。しょうがねえか。…っともうすぐ昼だろ。なんか買ってきてやるよ。何食いたい?」

「うわやさしー。じゃあカレーライスお願い。」

「やっぱ可愛げねえ。」



ーーーーーーーー




「みんな配置ついてー!…本番頼んだよ。てるるん!」

「はい!頑張ります。」

「じゃ、私も自分の位置いかなきゃだから。頑張ろね!」

本番まであと五分だ。
儚日ちゃん、来てくれてるかな。…彼氏くんも連れてくるのだろうか。

蓮と回転寿司に行ったあの日、自分でもらしくないことをしてしまったと思った。というか文化祭の時といい本当に、高校生相手に情けない。俺が彼氏だったら何だこのしゃしゃり出てくる男は、と感じるだろう。いやそもそも俺が彼氏だったらとかそんな…何考えてるんだ。違う緊張でサックスを握る手が汗ばむ。

「いっそ隙なんかないくらい、彼にぞっこんなら諦めがつくのにな。」

「なんか言ったか輝也?」

「いやなんでもないよ。」

これから吹く曲では俺の楽器アルトサックスにソロパートがある。失敗することはないだろうが、儚日ちゃんが恋人と来ていると思うとなあ。胃がそりゃあもうキリキリしますよ。何があれってソロで前の方出る演出あるからね。みんなの顔見えちゃうし、絶対キョドる自信しかない。

「それではまもなく吹奏楽サークル〝Whereabouts〟のコンサートを開始致します。」

ビーッとすごく長く感じる幕開けの音。もうやるしかない。

え、儚日ちゃん俺の真ん前じゃない?しかも隣に男連れてる、覚悟してたけど直面するとやっぱりショックだな。しかもその男はこちらを見てニンマリと笑い手を振っている。なんて煽り方の上手いやつだろう。目を凝らしてよく見てみる。

ん…あれ蓮じゃない???

蓮は口パクで〝つきそい〟と言った。うわ、死にたい。恥ずかし、早く言ってくれれば良かったのに。

もちろんソロパート含め演奏は何の失敗もなく無事終了した。最後に儚日ちゃんが満面の笑みで拍手してくれたのしか正直覚えていない(隣にいたずっとニヤニヤしている愚弟は視界からシャットアウトだ)。

こんなので喜んでくれるなら、また今度彼女の為に一曲吹いてみようかな。まあもう一人の付き添い人はあとで事情聴取するとして。

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