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三章 転換の扉(四話)

話とはなんだ、そんなことを思いながら座ると副執事長が言い始めた。
「谷野さん庇ってくれてありがとうございました。」
「お礼言われても自分でも何故庇ったのかもわからないんだ。」
谷野はお辞儀しつつそう言った。
「理由なんて簡単ですよ。谷野さんの優しさです。」
(えっ、そんなのあったっけ。)
優しさがあったと思わなかった谷野はびっくりした。谷野は外は大胆で少しチャラさがある感じだが、中身は勇気のない意気地無しだった『はず』。そう思っていた。
(いや、待てよ。)
谷野は落ち着いた様子で副執事長に言った。
「そもそも意識もなかったのに優しさなんてあるものか?」
「谷野さん、お礼に正解は関係なくて素直に受けとるべきですよ。」
(あっそうだった。俺、なんで他人を疑っていたのかな。)
そんな事を思った自分が馬鹿馬鹿しくなった。
(何回も死んで何をすればよいかがわからなくなってしまったのか。いや、今は正解を探すことよりもやるべきことがあるだろ。)
もはや苦痛で自我が壊れてしまったのだろうか、分からなかった。谷野の様子がどんどん暗くなっていた。
「谷野さん!!」
副執事長がいきなり大声で言った。
(びっくりした!?)
しかし、切り替えてくれということは伝わってきた。
(また考え込んでしまっていた。)
間違いなく谷野の悪い所だ。しかし、考える時間がなかった谷野は『鬱陶しい』と思った。そう、谷野は人の優しさも鬱陶しいと思う器の小さい男だ。しかし、
「ありがとう。」
と言った。あくまでも隠しておくということだ。それも優しさと思っている。
「あの、気分転換に近くの森を散策しに行きませんか?」
副執事長は首を傾げながらそういった。
(それは確かにいいな。)
「じゃあお言葉に甘えて行かせてもらおうか。」
「はい!!」
副執事長はにこやかに笑った。そして副執事長は部屋を出ていった。
(どうせ演技なんだろーけどな。)
谷野はもはやこんな事を思う人間不信になっていた。とりあえず準備を済まして副執事長が来ることを待っていた。まあ準備といっても何もないのだが。数十分後準備を済ました副執事長が部屋に入って来た。
(いや変わった所ないのだが。)
「行く前に、谷野さん武器持ってませんよね。片手剣貸しておくので使ってください。」
そう言って谷野に片手剣を渡した。鞘に納められていて、長さも両手合わせた位といった感じだった。
「てか攻撃力1で持てるのか?」
「攻撃力と腕力は直結しないので安心してください。」
確かに持てるということは『そういうこと』だ。そんな事を話して部屋の外に出て裏口らしき所から出発した。話すことといっても世間話もわからないのだが。

出発した谷野と副執事長は本当に気まずい様子だった。山頂に着くまで聞けたことは
「なあ、副執事長の実名って何なんだ?」
「教えませんよ。」
「ですよねー。」
これだけ。何のために出たのか。
(まだ部屋にいたときの方がマシのような気がするな。)
しばらくして山頂に着いた。山頂からの景色は緑と複数の町のある生活感のあるものだった。すると、副執事長が言った。
「ここは昼より夜の方が綺麗ですよ。」
(ならなんで来たんだよ。)
「だけどここに私の元仲間がいるんですよ。」
副執事長がそう続けて言った。
(仲間か・・・。)
・・・。
ドォン
重低音がして谷野を貫いた。そして体が動かなくなった。
『思考停止』
「谷野!?」
副執事長は辺りを見渡した。すると、
ドォン
また重低音がして今度は副執事長を貫いた。すると三人組の男がやって来て倒れている谷野を蹴った。
『思考再開』
(はっ。)
意識を取り戻したが倒れているふりをした。実は副執事長が撃たれたのも見ていたのだ。簡単にいえば、谷野は仮死状態だったが目が開いていたのである程度見えていたのだ。一人が副執事長を引きずっていき、もう二人は辺りを見渡していた。そして、ヤノはゆっくり目を開け、
『ブラインドフィールド』
を唱えた。辺りが暗闇に包まれた。しかし、ヤノには暗闇の中でも見えるのだ。三人組が混乱している内に辺りを見渡していた二人に斬りかかってあっという間に倒した。しかし、谷野の攻撃力は1のはずだ。・・・いやそこにいたのは谷野ではなくヤノだった。谷野は覚醒したのだ。すると暗闇が晴れて最後の男と一騎討ちになって、男は副執事長の首に刃物を突きつけようとしたが、
『アサヌヤード』
ヤノは消えて、男の頭上にワープして攻撃した。男は受け止められるわけもなく、
「うわぁぁぁ!?」
剣を脳天に刺されて即死した。

(はっ!?)
また起きた谷野は副執事長に駆け寄った。
「おい!!大丈夫か!」
応答はない。
「おい!!」
応答はない。
「・・・。」
(まただ。)
こうして谷野はまた失うのだ。その繰り返しだ。谷野は倒れている副執事長を抱き抱えて下山した。
「なあ、副執事。」
応答はない。谷野は裏口から入った。すると、廊下に引きずった跡のように血が付いていて、噎せかえるような臭いがした。そして広間には沢山の死体が積まれていた。
(まただ。)
よく見ると執事長の死体も積まれていた。奇襲に会ったのだろうか。谷野は副執事長の死体をそこに積んだ。その後穴を掘って、死体を焼いて、埋めた。その時に副執事長のネックレスを回収した。そのネックレスと借りた剣、キッチンにあった食べ物を倉庫にあったリュックに入れて、館を去っていった。そして谷野は涙が出なくなっていた。

続く













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