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冬の新商品ドドド…… その1

 さてさて、今日も朝から弁当作成に従事している僕ことタクラリョウイチです。
 漢字でかけば田倉良一です。

 イエロとセーテンが害獣のタテガミライオンを狩りまくってきてくれるもんですから、珍味とされるその肉を潤沢に使えています。
 おかげでタテガミライオンの肉弁当はすっかりコンビニおもてなしの名物弁当になっています。
 ただ、同じ調理方法を続けて飽きられては困りますので、

 時に焼き肉のタレで炒めて、焼き肉弁当にしたり
 時に野菜を多めに加えて野菜炒め弁当にしたりと

 あれこれ趣向をこらして販売しています。

「店長さん、今日はどうしますか?」
「そうですね、昨日が焼き肉弁当でしたから今日はシンプルに肉炒めをドンと乗せましょうか」
「では、付け合わせはいつもの千切り野菜でいいですね」
「はい、それでいきましょう」
 バイトの魔王ビナスさんと簡単な打ち合わせを済ませ、弁当作成担当の僕と魔王ビナスさんは早速作業を開始します。

 僕と魔王ビナスさんの後方では、蝸牛人のテンテンコウが、雄の姿で黙々とパンを作成しています。
 その横ではスイーツ担当のヤルメキスが、定番のカップケーキからスイーツの作成を始めています。

 ヤルメキスは先日『結婚おめでとうパーティー』を済ませたとはいえ、正式な結婚式はパルマ聖祭当日の25日ですので、まだ結婚はしていません。
 ですが、おめでとうパーティーを済ませたこともあり、すでにコンビニおもてなしの社員寮を出まして婚約者であるパラランサの家から通ってきています……ちなみに、オルモーリのおばちゃまの家です、はい。

 ヤルメキスとパラランサの結婚式と披露宴が行われます25日ですが、その披露宴の際のサプライズとしまして、ルアとオデン六世の結婚披露宴も行われることになっています。
 結婚式も披露宴もしないまま、子供を作ってしまった2人のためにと、ルアの親友であるオトの街のラテスさんが中心になってあれこれ段取りをしてくれているわけですが、どんな感じになるのか僕も今から楽しみなわけです、はい。

◇◇

 弁当作成作業が一段落すると
「後はおまかせくださいなのですよ」
 と、ウルムナギ又のルービアスが、出来上がった弁当を支店事に準備してある魔法袋へ、所定の個数ずつつめていきます。
 パンやスイーツも続々と出来上がってきますので、それも手慣れた様子で魔法袋に入れていくルービアス。
 その作業が終盤にさしかかったあたりで
「みんな、おっは~」
 と、妙に艶っぽい挨拶をしながら、ハニワ馬のヴィヴィランテスがスアの使い魔の森からやってきます。
 魔法袋をヴィヴィランテスが背に乗せているのを確認したところで、朝の業務は一段落なわけです。

 ここで僕は昨日テトテ集落から回収してきたバックリンの実を使った試作品作りに取りかかりました。

 弁当作成作業中に、すでにタクラ酒を使ってアク抜きは済ませてあります。
 寸胴一杯あるバックリンの実ですが、まずは栗ご飯ならぬバックリンご飯を作りましょう。
 業務用の炊飯器に米と水とバックリンの実を入れます。
 で、醤油、塩、酒を少々加えて炊くことしばし。
「あらあら、良い匂いですわね」
 魔王ビナスさんも思わず感動の面持ちをしています。
 皆が思わず炊飯器を凝視している中、

 ピ~

 炊飯器が炊きあがりを告げる電子音を鳴らしました。
 早速蓋を開けてみると、周囲にむわっと良い匂いが広がっていきます。
 うん、良い感じです。
 良い色に炊きあがっているご飯とバックリンをしゃもじでかき混ぜると、僕の作業を見守っていた魔王ビナス、テンテンコウ♂、ヤルメキス、ルービアス……
「……なんでお前までいるんだ?」
「いやぁねぇ、そんな良い匂いさせておいて仲間はずれはないんじゃないかしらぁ?」
 試食を食べないとテコでも動きそうにないヴィヴィランテスにも、試食用に小分けにしたバックリンご飯を渡していきました。
 で、それを口に運んでいった皆さんですが……
「あらあら、これはなかなか上品なお味ですわ」
「甘くて美味しいでごじゃりまするなぁ」
「……うん、うん……」
「いい仕事でございますねぇ」
 と、みんなの評価も上々でした。
 ……で、ヴィヴィランテス……何、空になった皿を僕の顔に押しつけてきてるのかな?
「あんたねぇ、まだそんなにあるじゃないの。さっさとおかわりをおよこし!」 
 と、まぁ、そんな具合で、ヴィヴィランテスってばしっかり4回おかわりしやがりました、はい。

 この後、コンビニおもてなし本店の2階にあります社員寮に住んでいるみんなの朝ご飯として、このバックリンご飯を出してみたのですが、
「店長様、このご飯すごく美味しゅうございますわ!」
「私、おかわりを!」
「私も!」
「私もぜひに!」
 と、2号店のシャルンエッセンスを筆頭に、みんなが競うようにおかわりをしていきまして、業務用の炊飯器いっぱいに準備してあった試食はあっと言う間になくなってしまいました。

 うん、この調子ならいけそうです。

◇◇

 この日の営業を終えた僕は、店の後片付けをブリリアンに任せてスアの使い魔の森へと移動していきました。
「おぉ、スア様の旦那様、今日はどのようなご用事ですかな?」
 森のほぼ中央にある村へと入っていくと、村の長老であるタルトス爺が笑顔で僕の元へとやってきました。
「やぁ、タルトス爺、早速なんだけどまたお願いしたことがあってさ……」
 そう言って、僕はバックリンの実の事を相談し始めました。

「……つまり、このバックリンの実の皮を剥き、タクラ酒で煮込んで渋抜きをすればよろしいのですな?」
「そうなんだ……お願い出来るかな?」
「ふむ……そうですな、手の空いている者達で作業をしてみましょう」
 タルトス爺はそう言うと、村の中の何人かに声をかけ、人を集め始めました。
「では、明日までに準備をしますので、それまでお待ちくだされ」
「助かるよ。じゃあ僕はバックリンの実の手配をしてくるから」
 タルトス爺との話を終えた僕は、スア製の転移ドアで一度コンビニおもてなし本店へ戻ると、そこから今度はテトテ集落へ移動していきました。
「あらあら店長さん、いいところに来てくださっためぇ」
 テトテ集落の、転移ドアの出口であるおもてなし商会テトテ集落店の中に出現した僕に、テトテ集落店の責任者であるリンボアさんが小走りに歩み寄って来ました。
「集落のみんなが張り切ってくれましためぇ……で、こんな状態ですめぇ」
 そう言ってリンボアさんが指さした先……おもてなし商会の裏にある空き地なんですが……でっかいズタ袋が山積みになっています。
「え? これ全部バックリンの実なのかい?」
「そうですめぇ」
 ……わずか一日の間に、これだけの量を収穫してくれたとは……
 僕は、その量を見上げながら思わず目を丸くしていました。

 なんでも、バックリンの木は、テトテ集落近隣の山の中のあちこちに群生しているそうで、ちょっと頑張ればこれぐらいすぐに集めることが出来るんだとか……
 で、このバックリンですが、最近の季節が一番実がなる時期なんだそうですが、量は若干減りますがほぼ一年中収穫出来るそうです。
 
 うん、これだけ収穫することが出来るのならなんとかなりそうです。

 僕は、みんなが収穫してくれたバックリンの実を魔法袋に詰め込んでいきました。
「あ、そうそう、よかったらあれも見ていってほしいめぇ」
 バックリンの実を魔法袋に詰め終えた僕に、リンボアさんが笑顔で声をかけました。
 そんなリンボアさんに案内されたのは、集落の中の物見櫓に近いあたりです。
 そこには、昨日僕が帰る前に作成が開始されていた巨大な小屋が出来上がっていたのですが、その小屋は、壁部分に板がなく、全開になっていましてすごく風通しがよくなっています。
 で、その中に、荒縄にくくりつけられたカルキーンの実がすごい量ぶらさがっています。
 どうやら、集落の皆さんってば、干しカルキーンを作るためにこの小屋を突貫工事で完成させてしまったようです、はい。
「あと3つ小屋を増設していますめぇ。もっとたくさん作れますめぇ、よ」
 笑顔でそう言うリンボアさん。
 どうやら、干しカルキーンも僕の想像をはるかに超えた増産体制がすでに出来上がっていたようです、はい。

 ちなみに、干しカルキーン用のカルキーンの実を山に収穫に行く人達がいたのですが、その皆さんってば揃って門の一角に向かって手を合わせています。
 はて、何があるんだろう?
 そう思った僕が歩みよってみますと、そこにはパルマ聖祭ケーキの販売促進用に作成したパラナミオのポスターが貼ってありました。
 で、皆さん、このポスターに向かって手を合わせると
「パラナミオちゃん、行ってくるからの」
 そう声をかけてから出発しているわけです、はい。

 ……ある意味、マジで女神状態です、パラナミオってば……

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