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森の恵みがあれこれと その1

 魔女魔法出版から絶賛発売中のコンビニおもてなしの本の影響で店の客足どころか、辺境小都市ガタコンベへやってくる人々の数までジワジワ増え続けている今日この頃ですが、僕達コンビニおもてなしが出来ることはひとつだけ。
 今日も元気に、皆さんのために良い品を安く提供出来るように頑張るだけなわけです。

 ちなみに、この世界には、僕が元いた世界と違って明確な季節が存在していません。
 とはいえ、若干の温度差はあります。
 この世界もトゥエの月が終わると、オネの月になり新しい年が始まります。
 つまり、今は冬にあたります。
 やはり夏とされるエイの月あたりは、気温が高めだったように思いますし、その頃と比べると今は体感温度で10度くらいは涼しいように思います。
 元の世界で8月にあたるエイの月の気温がだいたい30度くらい。
 で、元の世界で12月にあたるトゥエの月……つまり最近は20度くらいといったところでしょうか。

 その温度差による商品の売れ行きの差もやはりあるわけでして……
 一番影響を受けているのがパラナミオサイダーです。
 エイの月の売り上げ数を10とすると最近は5くらいにまで減少しています。
 その変わりにホットコーヒーやスープバーの利用者が5割増しくらいになっています。

 元いた世界ほど気温差が大きくないとはいえ。やはり商品の売れ行きに影響は出ているわけですので、そういったことも考慮しながら商品生産などの段取りをしていかないとな、と思うわけです。

 ちなみに、スアビールは気温が下がっている今現在も絶好調で売れ続けています。
 スアビールのおいしさの前では気温差などおかまいなしのようですね。

◇◇

 そう言えば先日、テトテ集落にあるおもてなし商会におもしろい木の実が持ち込まれました。

「ミミィちゃん達が見つけて来たんですめぇけど……」
 そう言って、おもてなし商会テトテ集落店の責任者をしてくれているリンボアさんが、ファラさんと一緒に店にやってきた僕に籠いっぱいの木の実を見せてくれました。

 ちなみに、このミミィっていうのは、テトテ集落の皆さんが集落の用心棒として雇っている冒険者3人組のリーダーです。

 で、その籠の中を見てみると、僕も見たことがない木の実がいっぱいです。
 リンボアさん曰く
「ミミィちゃん達がね、私達がコンビニおもてなしに卸売り出来る木の実なんかがないかって探しているのを見てね、警護の仕事の合間に見つけてくれためぇけど……私達もあまり食べない物ばかりめぇ」
 だそうなんですよね。

 リンボアさん的にも、自分達が食べないような品物を僕に見てもらうのはどうなんだろう……って葛藤されたみたいなんですけど、村のために頑張ってくれているミミィさん達の好意を無にするのもアレなのでとにかく一度僕に見てもらおうと思われたみたいなんですよ。

 で、籠の中の木の実をあれこれ確認していると、僕はある1つの木の実を見つけました。

 この木の実……ちょっと見覚えがあります。
 オレンジ色をしている握り拳程度の木の実です。
「あ、それは店長さん、渋い木の実ですめぇ」
 そう言うリンボアさんの前で、僕はその実を一口かじってみました。

 うん、渋いです。

 いえね、別にリンボアさんを疑ったわけじゃないんです。
 この渋さですけど、思っていたとおり身に覚えのある渋さです。

 これ、渋柿ですね。

 で、この実が5つ籠の中に入っていました。
 幸いなことに、枝ごと収集してありましたので、僕はヘタの上部の枝部分をT(ティー)の字になるようにカットしていきました。
 で、皮を剥いた僕は
「リンボアさん、荒縄ありますかね?」
「はぁ、あるにはありますが……店長さん、何をするおつもりめぇ?」
 リンボアさんは、僕がしようとしている事がさっぱりわからないらしく、怪訝そうな表情を浮かべながら僕に荒縄を手渡してくれました。
 僕は、その荒縄に、さっき下準備をした柿モドキ
「あ、その木の実はカルキーンと言いますめぇ」
 柿モドキ改めカルキーンのT字型に加工した木の枝部分を荒縄に差し込んでいきます。

 で、5つ全部を荒縄に突き刺した僕は、それをおもてなし商店テトテ集落の軒先にぶら下げてもらいました。
 
 で、待つこと2週間

 干してあったカルキーンは、見事にシワシワになっています。
 うん、見た感じ上出来です。
 干し上がったカルキーンを回収している僕を、リンボアさんは怪訝そうな表情で見つめています。
「あの……店長さん、まさかそんなシワシワになった変な物を食べるめぇか?」
 リンボアさんは、カルキーンを回収している僕をみながらおっかなびっくり状態です。
 まぁ、そりゃそうですよね。
 2週間干して、しっかりシワシワになったカルキーンです。
 元のオレンジ色から、今は濃いオレンジというか濃い赤色になっています。
 で、僕は、そんなおっかなびっくり状態のリンボアさんの前で、回収したカルキーンを輪切りにしていきました。

 で、その中の1つを口に入れ、モグモグモグ……

 うん、いい感じです。
 渋みがうまく抜けていて、噛めば噛むほど甘みが口の中に広がっていきます。
 まさに、僕が元いた世界でこの時期に味わっていたアレです。干し柿です。
 この世界風に言えば、干しカルキーンですね。

 で、早速リンボアさんにも、輪切りにした干しカルキーンを食べてもらいました。
 最初こそおっかなびっくりだったリンボアさんですが、意を決して一切れ口に運ぶと、
「……あら、あらあらあら」
 といった感じで、2切れ3切れと口に運んでいかれました。
「なんと言いますか、独特の甘みが癖になりますめぇ、これ」
 そう言うとリンボアさんは、台所に行って熱いお茶を準備して戻って来ました。
 リンボアさんってば、本能的にわかったんでしょうかね、干しカルキーンってお茶が合う甘さだってことに。
 で、僕とリンボアさんは、リンボアさんが準備してくれたお茶を飲みながら、干しカルキーンを味わっていきました。
 僕も、久しぶりに味わえる干し柿……じゃなかった、干しカルキーンの味を満喫出来て感無量なわけです、はい。
 この世界に来る前の僕は、この時期、店の裏に生えていた渋柿の実を使って山のように干し柿を作ってたんですよ。
 店の裏側が結構風通しがよかったもんですから、そこにズラッと柿を串刺した荒縄をならべてたわけです。
 で、適当な時に回収しては仕事の合間にモグモグ食べてたんですよねぇ。

 で、リンボアさんもすっかりお気に入りになったこの干しカルキーン。
 出来れば増産したいなと思ったので、今度ミミィ達に道案内をお願いしようかなと思いました。
 するとミミィ達ってば、ちょうど今は、遠出している村の人達の護衛のため数日出かけているそうなんですよね。

 ……まさかとは思いますけど、その遠出って、おもてなし1号が通る道を石畳で舗装しに行ってるんじゃないでしょうね?
 すでに村から相当遠くにまで石畳が延びてましたからねぇ……

 若干不安を感じながらも、リリィ達の予定を聞いてみると、
「4日後には村の皆も帰ってくる予定めぇ……ですので、その時にはリリィちゃん達も戻ってくるはずめぇ」
 そう教えてくれました。
 ちなみに、今度おもてなし1号に乗ってこのテトテ集落を訪れる予定にしていたのは5日後です。
 ……その前日に作業が終わる……ねぇ。
 
 まぁそんなわけで、ちょうどテトテ集落を訪れる予定にしていた日でもあるので、その日、ミミィ達に案内してもらってカルキーンの実を収穫に行ってみようと思っています。
 せっかくなので、パラナミオに森の散策がてらカルキーンの実を収穫させてあげたいなと思ったわけです。

 で、僕はリンボアさんに、ミミィに道案内をしてもらえるようにお願いしておいてもらうことにして、この日は転移ドアを使ってガタコンベの街へと帰宅していきました。

◇◇5日後

 僕は電気自動車のおもてなし1号にのって山道を進んでいます。
 ……うん、確実に石畳の距離が伸びています。
 しかも、見るからに最近整備したばかりです的な石畳がかなり長く続いています……なんか道の脇には作業小屋みたいなのまで出来てるし……
 なんといいますか、テトテ集落の皆さんによる歓迎ぶりが、どんどん過剰になっている気がするんですけど……ははは。

 で、そんなおもてなし1号の後部座席では、リュックサックを背負ったパラナミオが目を輝かせています。
「パパ、カルキーンの実、いっぱい取ります!パラナミオにおまかせです!」
 と、まぁそんな感じで、パラナミオってば森の中を散策してカルキーンの実を収穫しに行くのが楽しみで仕方ない様子です。
 助手席に座っているスアは、リョータを自分の膝の上に座らせて、外を見させてあげています。
 そんな僕達を乗せたおもてなし1号は、テトテ集落へ向けてどんどん進んでいきました。

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