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暗躍する人達の狂想曲 その1

 12月になりました。
 この世界ではトゥエの月といいます。
 今月25日は僕が元いた世界ではクリスマスですが、この世界ではパルマ建国を祝うパルマ聖祭にあたるそうです。
 で、それに便乗してクリスマスケーキならぬパルマ聖祭ケーキの予約販売を初めてみたところ、これが大ヒット中です。
 特殊事情により過剰人気になっているテトテ集落はおいといて、このガタコンベの周辺にありますブラコンベやララコンベで予想以上に好調な予約が入り続けています。
 いままでちょっと豪華な食事を家族皆で食べるくらいの事が当たり前だったところに、
『一緒にケーキはいかがですか?』
 って売り込んだのが想像以上に好評だったみたいです。

 ちなみに、この日は家族みんな家で過ごすのが当たり前になっているそうで、バトコンベ商店街にあるお店の大半がお休みになるそうです。
 で、コンビニおもてなしも他の店に合わせてこの日はお休みにする予定になっています。
 何しろこの日は朝からパラランサとヤルメキスの結婚式もありますからね。
 式は、パラナミオが学校として通っている教会で行われることがすでに決まっています。
 で、披露宴をおもてなし酒場を貸し切りで行うことにしていまして、その料理全般をコンビニおもてなしが準備する予定になっています。
 ある意味、もう一人の娘といっても過言じゃないヤルメキスの結婚式ですし、僕も結構気合い入ってます、はい。

 そんなコンビニおもてなしに、オトの街からラテスさんやってきました。
 今週のスポンジケーキの納品に来てくれたんですよね。
 普通なら数日かかる道のりですけど、スアが作った転移ドアのおかげでコンビニおもてなし本店とラテスさんの食堂がつながっているので、あっと言う間なわけです、はい。
「今週は予定よりも多く作れましたよぉ」
 ラテスさんが嬉しそうにそう言うもんですから、早速魔法袋の中身をウインドウ表示で確認してみますと、今週納品予定だった数量の倍近い数のスポンジケーキが入っていました。
「うわ、ラテスさんすごく頑張ってくれたんですね、ありがとうございます」
 僕がそう言いながら頭を下げると、ラテスさんは苦笑していきました、
「……実は、予定よりたくさん出来た分って、ヨーコさんが頑張ってくれたんですよ。私は予定数を焼き上げるのがやっとだったんです」
 そう言いました。
 ラテスさんの話によりますと、人狐のヨーコさんは
『私、ケーキを作るのが好きなんですよ。だからスポンジケーキを作る作業は得意なの』
 そう言っていたそうです……って、え? ちょっと待ってください、この世界のケーキっていったらカップケーキくらいしか存在していないはずですよ……なんでそんな世界の亜人さんがスポンジケーキを作るのが得意なの?

 ……や、やはりヨーコさんは、僕が元いた世界で溢れに溢れていた異世界転生ラノベみたいにあっちの世界から転移してやってきた……
 だから落ち着け! 落ちつくんだタクラリョウイチ! 
 そんなラノベみたいな話が現実にあるわけないだろう、と、何度言えばわかるんだ!

 僕は、自分で自分を必死に納得させていきました。
 で、ようやく落ちついたところでラテスさんにお礼を言いまして、また来週もよろしく、とお願いしたわけです、はい。
 
「あ、そうそう店長さん、これはネリメリアおばさまと私からの個人的なお願いなんですけど……」
 ラテスさんは、僕から今回の代金を受け取ると笑顔でそう言い始めました。
「あのですね、ルアってば結婚式まだですよね? で、こちらの店員のヤルメキスさんが今度結婚なさるそうじゃないですか……で、その披露宴の時に、ルア達も一緒に祝ってあげるわけにはいかないかな、って思いまして……」
 あぁ、なるほど……言われて見れば確かにルアとオデン六世さんってばいまだに式をあげていません。
 婚姻届ですら「そんなの柄じゃねぇし」とかいってなかなか提出していなかったんですけど、ビニーちゃんが産まれてその届け出をしなければならなくなったところでようやく提出したってぐらいに恥ずかしがり続けてるんですよ。
「なので、新郎新婦の許可が頂けたらサプライズで祝ってあげたいなって思ってるんですけど、店長さんの方からこっそり2人に確認してもらってもいいですか?」
「僕は確認するだけでいいんです?」
「えぇ、許可いただけましたら、あとは全て私達の方で準備しますので」
「わかりました、それぐらいならお安いご用ですよ」
「わぁ、ありがとうございます。じゃあよろしくお願いしますね」
 といったやりとりがありまして、僕はパラランサとヤルメキスの2人に、披露宴の際にオデン六世とルアの披露宴を一緒にやってもいいかどうかを確認する役目を仰せつかった次第です。

 ま、確認するだけなら簡単なことです。
 お昼の時間帯だけですが、パラランサとヤルメキスの2人におもてなし商会ティーケー海岸商店街店での弁当類の臨時販売員をしてもらっていますので、現地に赴くために本店の転移ドアを使いにやってきた2人にこっそり聞けばいいだけの話ですからね。

◇◇

 で、翌日。

 お昼前になりまして、いつものようにパラランサがルアの店からやってきました。
「ヤルメキスちゃん、お待たせ」
「は、は、は、はいです、行くでごじゃりまするよ、パラランサくん」
 とまぁ、結婚が決まったにもかかわらず、顔を真っ赤にしながらそんなやりとりしている初々しい2人の様子に、僕も思わずほっこりしてしまうんですけど、
「あ、そうそう2人とも、向こうに行く前にちょっといいかな?」
 僕は、早速ラテスさんの案件を確認しようと思って2人に声をかけました。

 すると

「ふぁ!?」
 って言いながら、なんかヤルメキスが飛び上がってびっくりしています。
 蛙人らしく、文字通り蛙跳びしながら天井近くまで跳ね上がりました。
 で、そんなヤルメキスなんですが、
「し、し、し、知らないでごじゃりまする……な、な、な、何も聞いてないでごじゃりまする……そ、その、ごめんなざいでごじゃりまする……な、な、な、内緒にするつもりは……」
 と、大慌てしながら僕に向かって土下座してきたんです。
「ちょ、ちょっとヤルメキス、いったいどうしたんだ?」
 僕は、わけがわかりませんので、とりあえずヤルメキスに声をかけたのですが、すると、そんな店内に、
「おっと、話はそこまででござる」
「ちょっと一緒に来てもらうキ」
 と、狩りから戻ってきたばかりらしいイエロとセーテンの2人が駆け込んできました。
 2人はヤルメキスを抱きかかえるとそのまま店の外へと連れ出してしまったんですよね。
 気がつけば、そんな2人の後をパラランサまで追いかけて行ってるし、
「……な、なんだったんだ、今のは」
 僕は唖然とするしかなかったわけです、はい。

 ……おかしい

 僕は、この一件を見るにつけそう思った訳です。
 ヤルメキスは、超がつくほど素直で正直者です。
 だから、不意に僕に声をかけられて思わず動揺したのでしょう……裏をかえせば、
『ヤルメキスは、僕に不意に声をかけられて思わず動揺してしまうような何かを秘密にしている』
 そう思えるわけですよ。

 しかも、あの様子を見るにつけ、イエロとセーテン、それにパラランサくんもその秘密の内容は知っている様子です。
「……あいつら、いったい何を考えてるんだ?」
 僕は、ちょっと心配になりました。
 娘同然に思っているヤルメキスが、あんなに動揺したわけです……しかも、イエロやセーテンが巻き込んだ可能性が高いわけです。
 なんかまたセーテンあたりが良からぬ事を企んで、それにイエロがのっかって、んでもってパラランサとヤルメキスを無理矢理巻き込んでるんじゃないだろうな……ってな具合に……
「……こりゃ、イエロかセーテンあたりに聞き出した方がいいかねぇ……」
 僕はそんな事を考えていました。
 すると、そんな僕の側にスアがテクテクと歩いてきました。
 あ、そうだ、
「スア、あのさ、ヤルメキスのことで相談が……」
 僕は、スアにそう話しかけました。
 スアなら、何か知っているかも……そう思ったからなのですが、スアはそんな僕に向かってニッコリ微笑むと、
「……心配しなくていい、よ」
 そう言いました。
「え? そうなの?」
「……うん」
「でもさ、ヤルメキスのあの様子とか、すっごい心配なんだけど」
「……大丈夫、よ」
「ホントに?」
「……スア、嘘つかない」
 と、まぁ、そんなやりとりがありまして……

 結論:ほっとく

 と、いうことにしました。
 スアの口ぶりだと、スアはヤルメキスのあの異常な状態の理由がわかっているみたいです。
 で、その上で、インド人……じゃなかった、スア、嘘つかないって言ってるわけですからね。
 スアがそう言うのなら、まぁヤルメキスに不利益が生じるような内容でもないでしょうし、なら、僕もあえて気がつかない振りをしてほっとこうと思ったわけです。
 見たところ、この悪巧みに加わっているのはヤルメキスとパラランサ、それにイエロとセーテンの4人だけみたいですしね。4人で出来ることといえば、まぁそれなりに知れてるだろうし……そう思ったわけです、はい。

 そんなことを考えていると、2号店店長のシャルンエッセンスがちょうど廊下を歩いていました。
「あ、そうだシャルンエッセンス、今度のパルマ聖祭ケーキのことなんだけどさ……」
 僕は、用事があったのを思い出しましてシャルンエッセンスに声をかけたのですが、そんな僕の目の前でシャルンエッセンスってば、いきなりビクッとしていきました。
 シャルンエッセンスは人種ですので、飛び上がり具合は平凡でしたけど、慌てふためきながら僕の方へ視線を向けたシャルンエッセンスは、
「わ、私、何も知らないのでございますわ、何も聞かされてはいないのでございますわ、ご、ごめんあそばせでございますわ……そ、その、な、内緒にするつもりは……」
 って、言いながら、何度も何度もその場でペコペコ頭を下げ始めたんですよね……
 すると、そこにシルメールをはじめとするシャルンエッセンスの元メイド達が大挙して押しかけてきまして、
「シャルンエッセンスお嬢様、お話はそこまでっすよ」
「「「私たちと一緒に来ていただきますわ」」」
 そう言いながら、シャルンエッセンスを抱きかかえながら店の外へと出て行ってしまいました。


 ……シャルンエッセンス、お前もか?……お前や、シルメール達も関わってんのか、おい……

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