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ドンタコスゥコ商会がやってきたYAーYAーYA! その3

「え~……この度はですねぇ、羽目をはずしすぎてご迷惑をおかけしたことを心の底からお詫びいたしますのです」
 そう言うと、正座しているドンタコスゥコはヤルメキスに向かって深々と頭を下げていきました。

 どこで習ったのかはわかりませんが、それはそれは見事な土下座です。
 思わずイエロから刀を借りて介錯しなきゃって気になりそうでしたからね。

 で、その後方に、ドンタコスゥコ商会の皆さんが、ずらっとならんでいまして、ドンタコスゥコ同様にその場で正座をしていまして、
「「「すいませんでしたぁ」」」
 って言いながら頭を下げていきました。

 コンビニおもてなし本店の裏手、おもてなし酒場の横の広場に呼び出されたヤルメキスは、そんな感じでドンタコスゥコとドンタコスゥコ商会の皆さんからの心からの謝罪を受けているのですが、そんなみんなの前でヤルメキスは
「ふ、ふぁあ!?」
 と、完全にテンパった状態であわあわしていました。
 まぁ、そうなりますよねぇ……今朝、イスピラミッドから救出したヤルメキスから話を聞いたところ、
「ど、ど、ど、ドンタコスゥコさんに、スアビールを口に突っ込まれたところから記憶がないでごじゃりまする……」
 って言ってたわけなんです。
 つまり、今のヤルメキスは、自分がいったい何に対して謝罪されているのかすらわかっていない状態なわけです……

 で、そんなヤルメキスに僕が事情を説明したんですけど、それでもヤルメキスは
「ふ、ふぁ!?」
 って、テンパりまくることしか出きませんでした。 
 その結局、ドンタコスゥコ達は、このあとたっぷり30分土下座したままヤルメキスが落ちつくのを待たなければならなくなったんですけど、風呂爆睡事件のこともありましたので、あえて僕は手をさしのべず、生暖かくその様子を見つめていました。

 ちなみに、ようやくヤルメキスからお許しの言葉を頂いたドンタコスゥコ商会の皆さんは、このあと宿の風呂に直行しましてしっかり掃除もしてもらいました。
 先ほど予想外に長時間正座を強いられたため、結構な数の皆さんが足が痺れてまともに動けなくなっていたのですが、これも自業自得なので、あえて僕は手をさしのべず、生暖かくその様子を見つめていましたとさ。

 ……まぁ、しっかり反省していたのは事実なので、全員にお昼ご飯をおごってあげたんですけどね。

◇◇

 さてさて、てなわけでようやくいつもどおりの状態に戻ったドンタコスゥコを前にして、僕は今月の卸売りの相談に入りました。
「あ、それで卸売りに関してなんだけど、新たに卸売り専門の部署を作ったんだ。今月からは、おもてなし商会から卸売りする形になるんでよろしくね」
 僕は、そう言いながらファラさんを紹介しました。
 ファラさんは、いつもはティーケー海岸商店街にあるおもてなし商会ティーケー海岸商店街店にいて、実質的におもてなし商会の経理全般を仕切ってもらっています……まぁ、全般っていっても、ティーケー海岸商店街店と、テトテ集落店の2つしかないんですけどね。
「ファラでございます。以後よろしくお願いいたしますわ」
 ファラさんは笑顔でそう言いながら右手を差し出し、
「ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコでございますです。以後お見知りおきくださいなのですよ」
 その手をドンタコスゥコがガッシと握り返していきました。
 傍目に見れば普通に握手、な光景なんですけど……なんて言えばいいんですかね、

「おうおう、しっかり勉強してもらいますですよ (主に仕入値的に) 」
「ふ、そうはいきませんわよ」
 
 的な視線がぶつかり合ってると言いますか、すっごいぴりぴりした空気が周囲を覆い尽くしていったわけです、はい。
 笑顔なんですけど、心は別……とでもいいますか。

 で、品物の受け渡しはいつも通り。
 前回注文を受けていた、薬品・ガラス製品・農具や武具、台所用品といった品々を、木箱に入れて準備しておいたのですが、それをドンタコスゥコがチェックしながら、部下達に荷馬車に運ばせていきます。
 で、前回相談されていた魚介類に関しては、正直何が売れるかっていうのがドンタコスゥコもよくわかっていないこともあり、種類は僕に一任ってことで木箱10箱分卸売りしました。
「さてさて、これでどれだけ収益をあげることが出来るかが、このドンタコスゥコの腕のみせどころなのですよ」
 ドンタコスゥコは、魚介類の木箱が入っている魔法袋を見つめながら笑っているのですが、その笑顔ってば、思わず
「そちも悪よのぉ」
 って言いたくなるような類いの笑顔だったんですよね……

 で、あらたかの取引が終わった頃に、ドンタコスゥコは店の壁に貼ってあるポスターを指さしました。
「この『パルマ聖祭ケーキ』って、なんなんですかねぇ?私も初めて聞くんですがね?」
 って言いながら首をかしげるドンタコスゥコ。
「あぁ、それなんだけどさ、僕が元いた世界ではパルマ聖祭にあたる日にケーキを食べる習慣があったんだ。でさ、この世界でもそういうのが流行らないかなと思ってやってみてるんだよ」
 僕は、そんな説明したんですけど、それを聞いていたドンタコスゥコは、腕組みしながら何度も頷いています。
「うむうむ、さすがはコンビニおもてなしの店長さんなのですよ、なかなか秀逸なアイデアだと私も思うのですね。今までのパルマ聖祭といえば、教会でパルマ建国を感謝し、後は家で家族みんなで過ごすだけだったのですよ。そこで「ケーキをみんなで食べよう」と売り込むというのはなかなかなアイデアだと私も思うのですよ」
 と、まぁ、そんな感じで絶賛してくれたドンタコスゥコなんですけど……その話を僕にしたあと、部下数名を手招きしてですね、あれこれボソボソ相談し始めました……うん、これ、絶対に何かやろうとしてます。
 ……とはいえ、もしここでドンタコスゥコが「ウチでもパルマ聖祭ケーキを仕入れさせてほしいのですよ」って言って来たとしても、すでにコンビニおもてなしで受注している個数を作るので精一杯の状況で、これ以上受注することは物理的に不可能なわけです、はい。
 ……ですので、今回、僕の目の前で暗躍しようとしているドンタコスゥコに関してはあえて見なかったことにしようと思います。
 まぁ、ドンタコスゥコも商売人ですから、コンビニおもてなしの名前を勝手に使ったりとか、ウチの店の不利益になるようなことをするとは思えませんしね。
「……以前、コンビニおもてなしが評判だからって、「コンビニ」って名前を勝手に使用してひどい店を開いてた人もいたけどねぇ」
 とまぁ、僕がそんなことを思い出しながら呟いていると
「そ、その節は、その……ほ、本当にご迷惑をおかけしてしまいまして、もうしわけございませんでした」
 って、なんでこのタイミングで、元コンビニごんじゃらす店長だったシャルンエッセンスがやって来てるのかなぁ……僕は、その場で土下座しようとしているシャルンエッセンスを必死に抱きかかえたわけです、はい。
 出会ってすぐの頃は、高飛車で傲慢でお~っほっほっほなシャルンエッセンスでしたけど、今はコンビニおもてなし2号店店長としても、人間としてもすごく成長してますし、僕としても今更あの頃のことを持ち出して責めようなんて気はさらさらありませんから……

 で、シャルンエッセンスにようやく土下座を思いとどまらせることに成功した僕は、
「シャルンエッセンス、僕に何か用事なのかい?」
 そうたずねたところ、
「あ、はい、そうでございます。2号店のことでちょっとご相談がございますの……」
 そう言って来ました。
 で、シャルンエッセンスの話を聞こうとしたところ、ちょうどファラとの値段交渉を終えたドンタコスゥコがやって来たので、この話はちょっと待って貰う事にしました。

 で、

 勝ち誇った笑顔のファラ
 ぐぬぬと悔しがっているドンタコスゥコ

 その2人の様子からして、どちらが優位な話合いで妥結したかは一目瞭然でした。
「じ、次回はこうはいかないのですよ」
「あら、弁舌で私に勝てるとでも? とにかく楽しみにしておりますわ」
 ドンタコスゥコは、悔しそうな表情を浮かべながらも、ファラとガッチリ握手を交わしました。
 次いで、ドンタコスゥコは僕に手を差し出しまして
「値段交渉では後れをとりましたですけど、今回も良い仕入が出来て何よりなのですよ」
 そう言いながら、いい笑顔を浮かべていました。
 ここら辺の切り替えの早さはさすが商売人だなぁ、と、感心しきりな僕は、そんなドンタコスゥコと握手を交わしました。

 で、

「では、また来月よろしくなのですよ」
 先頭の馬車に乗り込んだドンタコスゥコは、手を振りながらそう言いました。
 そんなドンタコスゥコを乗せた馬車群は、ガラガラ車輪の音を立てながらコンビニおもてなし前を通過していったのですが、その店員の皆さんってば、僕と一緒に見送りに出てきていたヤルメキスを一斉に拝んでいました。

「男が出来ますように……」
「出来ちゃったでもかまいません……」
「どうかあやかれますように……」

 とまぁ、まるでヤルメキスを恋愛と結婚の神様とばかりに、そんな言葉をブツブツつぶやきながら、懸命に拝んでいくドンタコスゥコ商会の皆さん。
 そんな皆さんの前で、ヤルメキスは
「ふ、ふぁ!?」
 っと、まぁ、びっくりしながらその場で固まっていた次第です、はい。

 ま、とにもかくにも、今月も賑やかにやってきて、そして去って行ったドンタコスゥコ商会のみんなですけど……ま、羽目を外しすぎなとこはアレですけど、面白くてどこか憎めない、そんな人達なわけです、はい。

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