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ドンタコスゥコ商会がやってきたYAーYAーYA! その1

 先日僕が悪戦苦闘しながら原稿を書き上げた『異世界コンビニおもてなし繁盛記』が無事魔女魔法出版から発売されました。
 いやぁ、やっぱ自分が書いた物が書籍になるのって感無量ですね。
 これがスアになるとさ、今までに何千冊も出版してるみたいだし慣れたもんなんだろうけど、やっぱ初めてっていうのは感動もんです、はい。
「と、言うわけでこれがお約束の献本と執筆代金ですわ」
 いつものように転移魔法で現れた魔女魔法出版のダンダリンダが笑顔で僕に小箱を手渡してくれました。
「ちなみに店長さん」
「はい?なんです?」
「スア先生が出版なされた本の数ですけど、桁が違いますわよ」
「え?……数千じゃなくて、……万?」
「……もう一声」
「……ま、マジっすか……」
 ニッコリ笑いながらそう言うダンダリンダを前にして僕は思わず目を丸くしてしまいました。

 ……やっぱ、スアすごいわ

 で、献本が10冊もらえまして、その本の上にお金の入った封筒がおかれています。
「で、こっちがスア先生の原稿料になります」
 ダンダリンダはそう言いながら魔法袋から封筒を取り出して、僕の横にやって来たスアへと手渡したんだけど……あれ?なんか僕の封筒の10倍以上分厚くない、それ?
「そりゃそうですよ。スア様は店長さんが1冊出版なさる間に8冊の書籍を出版なさっているんですもの。それらすべての原稿料が入っておりますので」
 うわ……スアってば、僕が1冊かき上げる間にそんなに……
 ちなみに、その足元には献本の詰まった大箱が置かれているんだけど、その一番上に置かれている書籍には

『魔法使いの娘の成長期記録 18巻』

 って、書いてありました。
 っていうかこれ、パラナミオの成長記録をまとめた本だよね?それがもう18巻って……
 僕がびっくりしていると、スアはニッコリ笑って言いました。
「『魔法使いの息子の成長記録』は、32巻まで出てる、よ」
 って……あぁ、なるほど……そっちがリョータの事が書かれているシリーズなのか。
 おそらくだけど、妊娠から出産、そして子育ての日々をリアルタイムにまとめてるもんだから刊行ペースが速いってことか。パラナミオはもう手がかからなくなってるし、書くことの量で言えば圧倒的にリョータの方が多いもんなぁ。
 とはいえ、

 子育てしながら、
 魔法薬を作りながら、
 魔法の研究をしながら
 家事もしながら~料理はのぞく
 で、執筆もしてる、と……

 こうして考えると、ホントにスアってすごいよな、と、つくづく思ってしまいます。
 改めて惚れ直しました。

 僕がそんな事を思っていますと、僕の隣のスアは真っ赤になりながら照れり照れりと身をくねらせていました。
 うん、その姿がまた可愛いもんだから、さらに惚れ直しましたとも、

◇◇

 と、まぁ、そんなこんなでダンダリンダから受け取る物を受け取った僕らが一息ついていると、
「店長さん、月末恒例ドンタコスゥコ商会がやってきたのですよ」
 と、店の前から大きな声が聞こえてきました。

 はいはい、わかってますって。
 
 僕が巨木の家から駆けていくと店の前に小柄な女~ドンタコスゥコ商会会長のドンタコスゥコが笑顔立っていました。

 このドンタコスゥコ商会ですけど、ガタコンベから街道を北へ行き、ブラコンベから西へと向かった先にある辺境都市ナカンコンベを本拠地にしている商会です。
 コンビニおもてなしから品物を仕入れて、西方にあるバトコンベっていう辺境都市にまで売りに行っているんだとか。
 でも、全部の品をバトコンベで売りさばいているのではなく、途中にある街や村、都市に立ち寄っては、その中の店と交渉したり、時には自分達で露店を開いて売ったりしているんだとか。
 で、このドンタコスゥコ商会って、女ばっかの商会らしく、女だけで途中に魔獣や山賊の潜んでいる街道を行き来するわけにもいかないため、当然護衛として冒険者を雇っているんです。
 で、ちょうど今、その護衛の1人が僕の前を歩いて行ったんですけど……うん、いつ見てもミッツマ○グローブにしか見えません。
 護衛をしているのは母子の冒険者でして……で、子供さんの方は実は男なんですけど、
「女性だけの商会の護衛なら、僕も女装しないといけませんね」
 と、ドンタコスゥコさんが「別にそこまでしなくてもいいんですよね」って言ってるのを完全無視して女装し、護衛の仕事についているんですよ……で、その息子さんの女装ってのがですね、どこをどう見てもミッツマング○ーブにしか見えないわけです、はい。

「……ねぇ、ドンタコスゥコさん」
「はいはいなんですか、店長さん」
「あの女装してる彼、あちこちでなんか言われたりしてないんですか?」
「……その話は、拒否させていただいてもよろしいですかね?」
 僕の言葉に、ドンタコスゥコは、どこか遠い目をしながら言葉を濁しました。
 うん、その態度ですべて察したので、これ以上聞かないことにします。

 で、早速いつもの仕入を……と思ったところ、
「いい建物が建ってますねぇ、今日はこのおもてなし酒場とやらで死ぬほど飲むのですよみんな」
 ドンタコスゥコってば、新築されて間がないおもてなし酒場の脇に荷馬車を並べながら歓喜の声をあげています。それに商会のみんなが歓声で応えています。

 ……まぁ、ドンタコスゥコ商会の皆さんって、まずは酒!なのがいつものことですからね。
 確かに、遠くバトコンベにまで往復一ヶ月近くかけて行って帰ってきたとこなんだし、今日くらい羽目をはずしたくもなる気持ちもわからないでもありません。
 僕は、苦笑しながらドンタコスゥコへ歩みよっていくと、
「じゃあ仕入作業は明日ってことで、今日はしっかり飲んでくださいね」
「はいはいご配慮痛み入りますですよ」
 ドンタコスゥコはそう言うと、ニッコリ笑顔を浮かべたかと思うと、いそいそとおもてなし酒場の入り口のドアをくぐっていきました。
 で、そんなドンタコスゥコの後を追いかけるようにして、馬車を止め終えたドンタコスゥコ商会の皆さんが我先にと酒場の中へと駆け込んでいってます。
 ただ、護衛の母子さん達は、契約がここまでだったらしく、
「じゃ、私達はこれで一度家に戻ります」
 母親の方がそう言うと、息子のミッ○マングローブがその母親を後ろから抱きかかえ、飛翔魔法で飛び去っていきました。
 ……そうだなぁ、あの化粧と、似合ってないスカート衣装を辞めてくれれば、普通のちょっとマッチョな男の子のはずなんだけどなぁ……

◇◇

 で、ドンタコスゥコ商会の皆さんを一通り見送った僕は本店の厨房へと戻っていきました。

 厨房では、いつものようにヤルメキスがケーキづくりに勤しんでいました。
 いまだに予約がはいり続けているクリスマスケーキならぬパルマ聖祭ケーキを作っているわけです、はい。
「おまたせヤルメキス。さ、僕も作業に加わるよ」
 僕は手を洗いながらヤルメキスに向かって声をかけました。
 するとヤルメキスは
「あ、あ、あ、あの、店長さん、ち、ち、ち、ちょっとお話があるのでごじゃりまする」
 そう言いながら、アタフタと僕のところへ駆けてきました。
「ん?どうしかしたのかい?」
「は、は、は、はい……あ、あ、あ、あのですね……折り入ってご相談といいますか、お願いしたいことがあるのでごじゃりまする……」
 そう言うと、ヤルメキスは頬を赤く染めながら一度大きく息を吐き出しました。
「あ、あ、あ、あのですね、パラランサくんとのけ、け、け、結婚式の際にですね、わ、わ、わ、私の父親代わりとして、ば、ば、ば、バージンロードを一緒に歩いてもらえないでしょうか?」
「あぁ、いいよ」
「そ、そ、そ、そうですよね、いきなりこんな事を言っても、少し考える時間が必要でごじゃりまするよね。はいです、待ちますので、あの、色よいお返事を頂けたらと……って……あれ?」
「だから、いいよ」
「え?」
「他ならぬヤルメキスのお願いじゃないか、断る理由なんてひとつもないよ」
 僕が笑顔でそう言うと、ヤルメキスはいきなりその場で号泣し始めました。
「はうあああああああああああ、こ、こ、こ、こんな私なんかのお願いを、快諾くださって、や、や、や、ヤルメキスは果報者でごじゃりまするぅぅぅぅぅぅ」
「まったくもう、大げさだなヤルメキスは」
 僕は、ヤルメキスの肩をポンと叩きました。
「ヤルメキスはウチの家族みたいなもんじゃないか。一緒に働いて、一緒に暮らしてるんだ。だから何の気兼ねもする必要はないんだよ」
 僕がそう言うと、ヤルメキスは、さらに号泣し始めました。
 でも、今度は笑顔で号泣しています……なんつうか、器用な泣き方をするなぁ。

 で、厨房でそんな話をしていると、
「店長さん、聞きましたのですよ、その娘さん、結婚なさるんですな。これはもう酒の肴になってもらわねばなりませんのですよ」
 と、すでにすっかり出来上がっているドンタコスゥコが厨房に乱入してきたかと思うと、ヤルメキスを連れて行ってしまいました。

 まぁ、めでたいことだし、たまには酒の肴にされるのもいいだろう……向こうにはイエロとセーテンが店員としているんだし、ま、なんとかしてくれる……と、いいなぁ……
 僕は、連行されていったヤルメキスを見送ると、ケーキづくり作業に取りかかっていきました。

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