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第5話 波紋

「お、意欲盛んだな。いいぞ、やってみろ」

 先生が新しい魔人形を生成し始めた。これは乗ったらまずい流れだ、と翔太は察知する。

「ちょ、ちょっと、ミア……? 俺、魔法とか使えないのに、勝手に……!」

「私をチンピラから助けたときに使ったじゃん。あの時の感覚を思い出してみて」

「そんな、急に言われても……」

 翔太ははミアに言われるがまま、周りの視線を集めながら、決められた立ち位置まで歩いていく。ここで何もできなかったら恥。入学できないどころか、誰からも見放され、この世界からのけ者にされるかもしれない。そんな不安が翔太の脳裏をかすめる。

 翔太のの心臓は高鳴っていた。遠くに立つ無機質な魔人形を見据えながら、彼はミアを助けたときの状況を回想した。

 彼は拳を握り、力一杯殴っただけであった。特別、筋力があるわけでもない。それでいてあのでかい図体が飛ばされるほどの力、それはやはり、あの時出た青い波紋のせい。

 翔太は頭の中で青い波紋をイメージし、拳を握る。彼にはこの攻撃が遠くまで届くのか分からなかったが、一か八かやってみるしかなかった。

 勢い良く拳を振りかぶり、当たるはずもない短い手が、魔人形めがけて強く前に出される。風を切る音だけが少し聞こえたが、何も起きない。

 キュイイィィィイイン!!

 翔太が諦めかけたその時、青い波紋が目の前に現れた。それも、大きい。以前出た波紋の規模と比べ物にならない。あの時は巨漢の腹のうちに収まるくらいだったのが、今は直径5mほどある円として現れた。

「皆、頭守って、伏せろ!」

 先生が咄嗟に生徒に叫んだ。次の瞬間、波紋の輪が、その中心へと収束し、一本の槍のような物が翔太の拳の前に突き出る。その槍は目にも止まらぬ速さで魔人形の方へと飛び、いとも容易くそれを貫いた。それだけでなく、周りを囲む壁には亀裂が入り、崩壊し始める。

「うわっ!」

 翔太は、攻撃の衝撃から起きた突風に尻もちをつかされた。まともに立っていられない。後ろを向くと、ほぼ皆が彼と同じ状態であった。その中には、立った体勢を保ちながら目を見開くギースの姿があった。

 しばらくして、魔法が止んだ。さっきまで吹いていた風は嘘のように消え、ただ砂煙だけが辺りに舞っている。魔人形の高速移動時よりも、はるかに多い量だった。

 視界が開けると、闘技場の地面はえぐられ、壁は半壊し、そこら中に瓦礫の山ができている。
 翔太はただ茫然としてその光景を眺めていた。

「すげえ!!」

 一人の生徒が声を上げる。次いで、他の人たちも声を漏らす。

「なんだこの威力……」

「私より強いわ」

「ただの見学者じゃねぇなこれ」

 皆驚いている様子だった。翔太も、自分がこれほどの魔法を出せるとは思っていなかった。

「君、それほどの魔力をどうやって……?」

 そう翔太に聞いてきたのはギース。すると矢継ぎ早に、

「俺も聞きたい!」

「逆に教えてくれ! どうやってやったんだ!?」

 と、生徒が彼の周りを取り囲んだ。翔太はただ魔法が出るイメージを頭に浮かばせていただけ。そう質問されても困るだけだった。

「ストップストップ! この人まだ魔法が使い慣れてないから! そんな質問責めしないで! 後で色々と聞いて!」

 仲介役としてミアがその間に入る。
 翔太はミアに連れられながら、その騒然とした場からなんとか離れた。

「はぁ、…………翔太くん、やっぱ君、凄いよ」

 ある廊下にてミアがそう言う。

「ほ、本当に?」

「本当に」

「でも、さっきのテストとか見てると、俺なんかより強い奴なんか一杯いそうだし、大げさなんじゃ……」

「あの壁はそうそう壊せるものじゃない」

「え……?」

「確かにあの闘技場は、今まで何回も壊されてきた歴史があるけど、技術の発展で、魔法に強いように補修されてきた。だがら、今のあの壁は傷をつけることまではできても、ヒビ割らせたり、ましてや崩すなんてことできないくらい頑丈。あなたの力は桁違いなの」

「そんなに、凄いことだったのか……」

「そう。それに……あれだけの魔法を使ったというのに、マナも全然消費していない。……どういうこと?」

「……マナって?」

「魔法を出すためのエネルギーみたいなもの。……君、想像以上だよ。今うちの学校に入れば上位、いや、トップを取れるほど……」

 褒めに褒めちぎって、ミアは翔太の手を取った。

「お願い、この学校に入ってほしい。君のことサポートして、絶対最強の魔法使いにさせるから!」

 翔太は最初、返事に困った。だが、こんなにも清々しい気持ちを彼は味わったことがない。こんなワクワクするような魔法の世界で、あのギースやら強い奴と闘えて、最強を目指せる才能を今持っている。本当にそうならば、このチャンスをみすみす見逃すのか? 前の世界よりも断然良い世界じゃないか! 

 そう考えて、翔太はミアの言葉を信じることにした。

「…………分かった。やってみるよ」

「……え? 本当? やったーーーっ!!」

 ミアは元気一杯に跳び跳ねた。心の底から喜んでいる。翔太は、おそらくこれから先、この選択に後悔はしないだろうと思った。

「それじゃあ早速、校長室行こっか! 入学許可を貰いに行くよ!」

「あっ、えっ」

 そんなにすぐ入学できるものなのか、と翔太は思ったが、スキップで校長室に向かうミアの後には付いて行くしかなかった。

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