教会の学校 その4
翌朝
いつものように、早くに起き出した僕は、
まだ寝ぼけているスアに服を着せてから店に移動した。
「おはようごじゃりまする!」
コンビニおもてなしの、レジ奥にある調理室では、いつものよう蛙人(フロッグピープル)のヤルメキスが元気満々でお菓子作りをはじめてました。
その奥では、猿人4人娘が、横一列に並んでパン生地を作成中。
この2組は、ほっといても、もうこういった作業をこなせるまでになっています。
そろそろ新商品も考えたいとこだよねぇ。
特に、ヤルメキスのお菓子は
じわじわと人気があがっています。
理由としては、やはり砂糖。
何しろ、普通だったらこの辺りではまず手に入らない上質な砂糖を使用しているため、かなり上品な味に仕上がってますから。
例のスアのプラント魔法のかかった木に、店に残ってた砂糖を突っ込んでみたところ、中が砂糖だらけの「砂糖玉」が出来上がったわけです、はい。
スアのプラントでは
この砂糖玉の他にも、味噌玉や、胡椒玉も出来ていて、店にも商品として並べていたりします。
話を戻しますが
ってなわけで、今度また市場に仕入にいって、入手可能な果物を買えるだけ買って、ヤルメキスと悩んでみることにしよう。
さてさて
そんなみんなの横で、僕もエプロンを着用したら早速店で売る弁当の作成を開始。
猿人4人娘が、パンを焼き始めたら、弁当作業に加わってくるので、それまでに米を炊き、出来るだけ多くのおかずを作成します。
コンビニおもてなしの店での手作り弁当は、基本的に
ごはん
肉料理
付け合わせの野菜
と、まぁ、シンプルイズベストで作成しています。
ただ、これも肉に使用しているタレや調味料の影響がかなり大きい。
この世界は、
素材の味をそのまま楽しむ傾向が強かったみたいで
調味料的な物って、ほとんどなかったんだよね。
そこに、僕が元の世界で慣れ親しんだ味を持ち込んだところ、この弁当が大人気となり、今に至るわけです。
そうこうしていると、
「タクラおはよ! 今日の納品分持って来たぜ」
と、向かいの金物工房の女主人、猫人ルアが、裏口からニカッと笑って顔を出した。
もとは武具屋だったルアの店なんだけど
僕があれこれ注文してたら
「タクラに頼まれた品物を作ってた方が儲かる!」
ってなわけで、
現在ルアは自分の武具屋を店じまいし、金物工房に職替え。
今では、僕の店の専属工房よろしく、僕の店からの注文だけ承るお店になっているわけです、はい。
で、いつものように、コンビニおもてなしで販売している
鉄製の武具
鉄製の農具
鉄製の鍋類
オセロ
これら販売品に加えて、
店で販売しているの弁当の入れ物として使用している、僕の元いた世界でいうところのアルミみたいな薄い金属で作成したケースをごっそりと、納品。
商品は直接店内の棚へ
弁当のケースは、調理室の脇へと、手慣れた感じで置いていったルアは、
「じゃ、納品書、レジにはさんどくな」
そう言うと、僕らの邪魔にならないように、さっさと帰って行った。
この時間帯の僕たちが戦争なのをよく知っているからこその配慮なので、本当にありがたいわけです。
そうこうしていると、店の方でごそごそ音がし始めた。
だいたいこれくらいの時間になると、スアが、自分の分体であるアナザーボディを使用して店の棚に薬品を並べに来る頃だよな、
そう思いながら、
箱詰めの終わった弁当の第一便を店の棚へ持って行くと、
案の定、薬棚のところで、スアのアナザーボディが3体、忙しそうに持って来た品物を入れていました。
開店まで、あと1時間といったあたりで、
僕は一回、スアの巨木の家に戻る。
このとき、弁当の調理をしながら作った3人分の朝食も持って。
あ、
店のみんな用のまかないも、ちゃんと作って置いてます。
で
家に入ると
「パパ、おはようございます!」
パラナミオが、満面に笑顔を浮かべながら僕にダッシュ。
おぉ! いい感触だ!
こりゃあ将来いいラグビー選手に、って、
パラナミオは女の子だっての!
ここ、異世界でっての!
などと、1人親ばかからの、1人ボケ突っ込みをかましつつ
僕・スア・パラナミオの3人で朝食。
朝が相当苦手なスアが、若干ぼ~っとしているものの、
それでも、僕と一緒に暮らすようになってからは、かなり早起きになったように思う。
あぁ、でも、
時々、どうしても起きれない時もあるか……
深くは語りませんよ、アレが激しくなりすぎて、いつもより長くやちゃった時だなんてバラしたら、また僕の頬にもみじマークが入っちゃうから。
で、
いつもならこの後、店に戻って開店準備に入るんだけど
今日は、パラナミオの体験入学の日
例の、シングリランの教会学校です。
そのため、僕は、パラナミオを連れて学校へ行かねばならないため、店の方はブリリアンに全体的な指揮をまかせて、組合の蟻人の助っ人も呼んでおいた。
以前、スアに一方的に弟子入り宣言して、隣町でやっていた病院を閉鎖して引っ越してきた彼女、
スアにいまだ弟子入りを認められていないため、ずっとコンビニおもてなしで接客してくれているんだけど、すでにもう、雇われ店長レベルの仕事が出来るほどの人材になっています、はい。
ホント、いい人が来てくれた、と、思ってるわけです、はい。
店の在庫出しとして、スアのアナザーボディもフル稼働するので
もし何かトラブルがあれば、スアが、このアナザーボディを通して確認し、僕に伝えてくれるだろう。
で
朝食を終えた、僕は
ちょうど、仕事のためにコンビニおもてなしへ入ろうとしていたブリリアンと、軽く言葉を交わした。
「では、お戻りになられるまで、しっかり代役を務めますので、ご安心ください」
そう言って笑ってくれたブリリアン。
最初の頃は、こう言いながら、開店直後に、即テンパって使い物にならなくなることしきりだったんだけど、今ではそれも懐かしい思い出な気がしてならないわけです、はい。
ブリリアンと話をしていると
「パパ、準備が出来ました!」
そう、お出かけ用の服に着替えたパラナミオが、僕に駆け寄って来た。
スアは……っと、なんか巨木の家のドアの隙間から手だけだして振ってくれてる。
対人恐怖症のスア故に、僕がブリリアンと話をしていたため、恥ずかしくて顔を出せなかったんだろう。
僕は、パラナミオと2人して、スアの手の方に向かって手を振り返し
「行ってきます」
と大きな声をかけてから、出発。
裏手から出ると、開店が近い僕の店の前には、
朝一で弁当を買いに来たお客さん達の行列が……
なんと言いますか、うれしいんだけど、申し訳ない
そんな複雑な気持ちを持ちながら、教会への道を急ぐ、僕とパラナミオ。
到着してみると、ちょうど登校してきた子供らしい子らが、僕らと一緒に教会に向かっています。
「あ、タクラ様、おはようございます」
僕に気がついた、この教会のシスターにして、学校の先生でもあるシングリランがにっこり笑って出迎えてくれました。
「パラナミオさんと、タクラ様に、気に入ってもらえる授業が出来ますように、
このシングリラン、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いしますね」
そう言うと、再度僕の顔を見て満面の笑顔を浮かべるシングリラン。
掃除を終えたシングリランと一緒に教室に案内される僕とパラナミオ。
教会の2階にある教室の中には、すでに10人近い生徒が来ていて、僕たちを案内しながら教室に入ってきたシングリランを見ると、
「シングリラン先生、おはようございます!」
そう、元気で大きな声を挨拶をしてくれます。
うん、
やっぱ大きな声の挨拶って、聞いてて気持ちがいいよね。
そんなことを思いながら、教室に入った僕とパラナミオに、シングリランは
「では、パラナミオさんは、この机に、
付き添いのお父さんは、教室の後ろで見学なさってください」
と、丁寧に説明してくれた。
うん
なんか良い雰囲気だね。
教室内を見回しながらそんなことを思っている僕の前で
教壇にたったシングリランは、改めて教室内を見回していき。
「じゃあ、授業を始めちゃおうかな、まずは出席から……」
そう言いながら、手元の手帳に視線を向けるシングリラン。
こうして、
1日体験入学がはじまったわけです。