2-7. 美少女の目的
医務塔のドアを開けると、もはや常連となったユウリの顔を認めたオットーが面倒くさそうに溜息をつく。しかし、その後ろに見慣れない女生徒が立っているのに気付き、慌てて普段通りに取り繕い、入室を促した。
「こりゃまた派手にやられたな」
おずおずと差し出されたユウリの右腕に慣れた手つきで包帯を巻きながら、オットーは呆れたように零した。彼女の訪問はほとんど日課になっているとはいえ、ここまでひどく傷つけられたのは初めてではないだろうか。
当の本人は自身の傷よりも、不思議そうに目を見張る付き添いの女生徒の方が気になって仕方ないようだが。
「こんな治療法、初めて拝見しましたわ」
「ああ、そりゃあ、まあ」
「オットー先生の発明ですか? あら、違う? まあ、その軟膏はなんです?」
興味津々な様子で質問責めにする少女に、オットーは溜息を吐く。
確かに、あまり喜ばしくない状況ではある。
ユウリの魔力については、学園長とカウンシル、そして
「ええと、そこの」
「ナディア、上級Aクラスのナディア=ベランジェと申します」
「ナディアくん、その、ここで見たことはあまり口外してくれるな」
きょとんとする少女に、オットーはどう言葉を紡ぐか思考を巡らす。だが、その沈黙は緩やかな声音によって破られた。
「ナディアさん、私、治癒魔法があんまり効かない体質なの」
「おい、ユウリくん」
咎めるように発したオットーは、ナディアの言葉に今度こそ完全に絶句する。
「知ってるわ」
にっこりを笑った少女は、何故だか頬を紅潮させながら続けた。
「わたし、ずっと貴女とお友達になりたいと思っていたの。でもいつもカウンシルの皆様がいらして、お近づきになれなくて。ただ医務塔へよく行くのを見ていたから、もしかして、と思っていたのよ」
ユウリとオットーは顔を見合わせる。
余程の重病か重症かでなければ、もっというと、ありとあらゆる不運が重なった非常事態でなければ、生徒が訪れることなどほぼない医務塔に『よく行くのを見ていた』ということは、彼女自身が学園の辺鄙な場所であるこの塔の近くにいなくては叶わない。
薄っすらと『ストーカー』という文字が二人の脳裏に浮かび上がってきそうになったのを知らずでか、ナディアはユウリの手をぎゅっと握りしめ、頬ずりしそうな勢いで捲し立てた。
「でもこんな可愛らしい腕に傷を付けられるくらいならもっと早く声を掛けていればよかったわ……!」
「はいぃぃぃ!?」
眉尻を下げたまま困惑の表情で叫んだユウリに、どうしたものかとオットーは寝癖だらけの頭を掻いた。