16話 戦う前に祭なのか?
浮遊都市、俺の部屋に戻って来た。
部屋を見渡すと、テナと夜巳がテーブルに座り無言で対面していた。夜巳の両脇には、青髪の少年ロボが、夜巳を拘束するように両脇に立っている。
「テナ、この状況はなに?」
「この子が徘徊して、施設を見て回っていたので、拘束してここで監視してます」
「いやー、冒険心がくすぐられてしまいました」
「子供かよ、いや中身はオッサンか・・・」
「オッサンじゃないです、乙女ですよ! 身も心も純情な少女です。
・・・いえ美少女です!」
夜巳はそう言って椅子から立ち上がる、そして俺に向かって歩いてきた。
目の前で立ち止まと、さらに足を少し開き手を腰にあてた。
「ついにこの時が来ましたね、そう私達が再び結ばれる日が、やってきたのです」
自信に満ちた表情の夜巳を、視界に入れない様に振返り、麻衣に話しかけた。
「麻衣行けるか? すぐに行くぞ」
「いいよー、行けるよ」
「念のためララは待機だな、瑠偉と美憂の護衛を頼む」
「了解しました、と言いたいところですが、ガイルア相手に戦えません120%負けます」
「わ、わかってるよ、念のためにだ・・・」
120%とかそんなに強く否定しなくてもいいのに・・・
その時「わああぁぁぁ」と言う声が聞こえ、夜巳が小走りで俺の横を通過していき、美憂に向かって行った。
「おねーちゃーん、ダーリンが無視するよー!」
夜巳は体勢を低くして、美憂の下半身に照準を定め近づく、しかし美憂は、直前で膝を曲げ夜巳の顔の位置に繰り出した。「ぐげぇ」と言う声と共に、夜巳はそのまま床に倒れこんだ。
「いいかげんに、セクハラは止めろ」
「容赦ねーな美憂・・・中身はオッサンだが一応子供だぞ。
瑠偉介抱しとけよ、って、なんだよその嫌そうな顔は・・・」
「え? 顔に出てましたか?」
ああ、おもいっきり出てたよ、そして今作り笑顔に変えたぞ。
たった十数時間しか一緒にいないのに仲悪すぎだな、しかたない夜巳の料理技術を捨てるのは惜しいが、戦いが終わったら中条に身柄を押し付けよう。
では直接テレポートで現地に向かうとするか、俺はそのまま麻衣のアゴを何時ものようにつかむ。
「だから、アゴはやめてって何度も言ってるでしょ!」
「なら、次から太ももな!」
俺は麻衣と共にアフリカへテレポートした。
……
…
世界政府のトップの中条、その一室で中条は事務机に座り何やら考え込んでいた。
中条は座っている椅子を回転させ振り向く、そして自身の後方に浮かんでいる銀の球体に触れながら語りかけた。
「ララさんや、少し話をしたいのじゃが?」
『可能な範囲でお答えしましょう』
「率直に聞きたい、織田はガイルアとやらに勝てるのか?」
『私の予想では100%負けます。あれは破壊不可能です』
「予知では今日居なくなる、はずなのじゃが?」
『仮にマスターが勝てたとしましょう、そうなれば宇宙全体で、マスターが最大の脅威となるでしょう』
「ご機嫌を伺いながら暮らせ、と言う事か?」
『昔、塩田剛三と言う神とまで崇められた武道家が居ました。
彼は弟子から「一番強い技はなんですか?」と聞かれ「それは自分を殺しに来た相手と友達になることさ」と答えたといいます』
「地球に来てから日も浅いのに詳しいな・・・
話は変わるが、政界政府のサーバーに不正アクセスが見つかったのじゃが・・・
しかも儂の教えた漫画喫茶からアクセスがあった、と言う事はお主じゃろ?」
『あのようなローテクノロジーでログを取っていたとは不覚でした、次からは痕跡は残しませんので安心してください』
「安心してくれと言われてもなぁー、今度は痕跡すら残さずアクセスするんじゃろ? あまり派手に行動をとってほしくないのじゃが・・・」
『その件に関しては、お答え致しかねます』
「答えないという事は織田の命令か?」
『お答えできません』
「まぁよい、それだけで十分わかる」
『それでは、私の質問に入ります』
「儂も可能な範囲で答えよう」
『マスターの能力値を100とすると、中条さんの能力値はどの程度でしょう?』
「20ぐらいかの・・・いや全力の織田を見たことないし何とも言えんな。
しかし、それを聞くと言う事は儂らと戦う準備かの?」
『次の質問です』
「素晴らしいスルーじゃの・・・本当に人工知能なのか?」
それから中条とララの会話は、4時間ほど続くのであった。
……
…
俺と麻衣は、辺り一面砂に覆われた大地に降り立った、俗にいうサハラ砂漠だ。
周りを見渡したが砂の大地が地平線まで伸びている、360度同じ景色だ。
「あっつ、砂漠だよ」
「アフリカと言えば砂漠だろ? もちょっと笑えるコメントを頼む」
「私、お笑いタレントじゃないんだけど・・・」
プルルルルル、プルルルルル・・・
朝のはずなのに暑い暑いぞ、40度は越えてるな、空を見ると雲一つない、そして温まった砂からつき上がる熱気・・・早く片づけて帰らないとな。
「兼次ちゃん、電話鳴ってるよ!」
麻衣の言葉で、電話が鳴っていることに気づいた。暑すぎで頭が回ってないな。
スマホを取り出し画面を見ると<着信 ララちゃん>となっている、今さらだが何故ちゃん付けなのかが謎だ。
「俺だ」
「ララです。お知らせがあります」
「手短に頼む」
「麻衣様のブログが炎上しております」
「ララ、ちょっと待ってろ」
俺はスマホを顔から離し麻衣を見る、なにか
「麻衣、ブログが炎上してるらしいが何がやったのか?」
「いやー、ちょっと46年前から来ました、って飛行機の写真とか、色々・・・」
そうか、やってしまったか・・・
折角46年の歳月を感じさせずに、元の生活に戻してやろうとしていた時に、事件を起こしたか。注意をしておかなかった俺も悪い、いや、行動が読めなかったな。ちょっと麻衣を甘く見過ぎていた。
「麻衣、瑠偉や美憂の顔写真は出したのか?」
「私だけだよ」
「一気に有名人だな」
「いやー、照れますねー・・・えへへ有名人かぁー」
麻衣は、目を閉じ何やら考え込んでニヤニヤしている。これは反省すらしてないな。
お仕置きは夜に取っておくとして、気分を切り替え討伐の準備に取り掛かろう。
ララに麻衣のブログの削除を依頼し、俺は臨戦態勢を整えた。