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幸一の初対決、それは?

 
幸一です、今日はこれから自分のテストマッチがあるそうです。相手は誰かな? どんな戦いになるのかな? 楽しみです。え──?






「この貝には録音機能があるんですーー」

 そう言ってボタンを今度は時計回りに回してみる、すると貝からサラの声で「こんにちは」との声が聞こえた。さらにボタンを反時計回りに押していくとその音が消えていく、さらに他にも機能があるらしい。

 幸一は興味津々になりそのメモワール・ダイヤルをじっと見つめて購入を決める。

 武器の購入に使った金額は銀十一枚に銅六枚、なので残りの所持金は銀八枚に銅四枚であった。

 大分荷物が多くなってしまったのでサラから手提げかばんを借りて買った物をカバンにしまっていく。
 荷物をしまった瞬間幸一の背後から声が聞こえた。

「サラちゃん、遅れてごめんね」

「あ、イレーナちゃん」

 イレーナだった。彼女がサラに手を振ってこっちにやってくる。どうやら用事が済んだようでイレーナも二人の行動に加わっていった。

 幸一を警戒しているのは相変わらず出会ったが──。


 次に三人が向かっていったのはギルドだった。そこで行うのは幸一のギルドへの登録である。


 歩いて10分ほどでギルドに到着。そこには剣や槍をもった冒険者らしき人物たちが出入りしているのが確認できそこそこのにぎわいをみせていた。

 三人はその中に入りカウンターへと向かう。
 そこには案内役のお姉さんがいた。金髪でロングヘア、大人の雰囲気を持つ女性ブルターニュであった。

「すいません、今日はギルド登録をしてほしい方がいるんですけれども」

 サラがブルターニュに話しかける。サラが自分とイレーナはすでに登録しているので幸一をギルドに登録してほしいと頼む。

 ブルターニュは了解しましたと言って奥の事務所さまざまな書類を3枚ほどもってきてそれを幸一が記入する。記入が終わると幸一がその紙をブルターニュに渡し、手続きに入る。

「それでは簡単に登録の説明をさせていただきますがよろしいでしょうか?」

 幸一が首を縦に振ると彼女が説明を始めた。

 ここのギルドの役目は仲介料をいただきながら依頼者の仕事を紹介する役目を持っている。

 ブルターニュが説明を始める。

 依頼を完了する事が出来れば報奨金がもらえる。しかしもし失敗した場合違約料が請求されることがある。だから金が欲しいからと言って報奨金が高い仕事を選べばよいということではなく自分にあった仕事をよく考える必要があるのだ。

 受付のお姉さんが白い何も書いていないカードを奥から持ってきて、呪文のような指示通りにカードの右側に触れるとそのカードが紫色に変色し始め左側には自分の名前がこの世界の言語で記されていく。


「これはギルドラベルと言います。偽造防止のためこのように他人が触れると色が黒くなるようになっています。紛失や破損をした場合は速やかに近くのギルドに再発行を行ってください」


「次はランクの説明です。私たち冒険者には能力や貢献度に応じてランクがあるんです。 そしてクエストにもランクがあり低い方から順に紫、青、水色、緑、黄色、オレンジ、赤の順番です。 カードはその人のランクの色になるんです。
 ギルドの規定により紫のランクの人と緑のランクの人が同時にクエストが受ける場合2人とも緑までのクエストを受ける事が出来ます」


「仕事依頼はそこの掲示板に表示しておりますのでそこで自分に合った報酬や難易度をご確認の上その仕事を受け付けに申請してください」

 掲示板を見ると店の手伝いなどの普通の仕事から郊外の森での魔道をまとったグリズリーの退治などいろいろな仕事内容が貼り紙として出されていて冒険者の格好をした女の子たちがその貼り紙をじっと見ていた。
 するとサラが突然話しかける。

「今日はここを出ましょう、それよりやってほしいことがあるんです」

 何でも幸一のテストマッチがしたいらしく一対一で決闘をするという事であった。

「とりあえず魔獣と戦う前にテストマッチをしたいってことかな?」

「まあ……そんなところです、それでその相手と言うのが──」

 すると隣にいたイレーナが自信に満ちあふれた表情で会話に入る。

「その相手は私がする、いいね幸一君」

 幸一からすれば魔王軍と戦う前に自分の魔術がどのようなものかを知るいい機会になるし同時にイレーナの魔術を知ること、イレーナにとっても共に行動する幸一の強さを知ることもでき二人が模擬戦を行うのは合理的であった。

 そして三人がその場所まで移動する、二十分ほどすると公園のような場所がありそこには広めの原っぱが広がっていた。

 そこで先頭を歩いていたイレーナが足を止めて後ろを振り向き幸一を指差して叫ぶ。

「とりあえずここでテストマットをしよう、いいね?」

「いいねって途中、二人で模擬戦ができそうな広場や公園がいくつかあった。でもお前はその場所に目もくれずにここまで来た。つまり最初っからこの場所で戦う事を想定していたんだろ」

 幸一が淡々と推理をしてイレーナの作戦を見破る、イレーナははっと心の中で驚く。そして両手を腰にあてて言葉を返し始めた。

「幸君意外と賢いね、よくわかったじゃん。ここはね、私がよくトレーニングを行う広場なの。だから友達だって多いしみんな私の知り合い。だからこうなるのよ!!」

 イレーナがドヤ顔でそう叫ぶと周りがはやし立てるように二人に向かって叫ぶ。

「頑張れイレーナちゃんーー」

「あんな覗き魔の変態なんてやっつけちゃえ!!」

 周りの冒険者の女の子たちがみんなイレーナを一斉に応援していた。
 イレーナが狙っていたのはこれだった。

「この変態を、私が成敗するんだから」

 彼女が周りに宣言するように叫ぶ、するとその周りに女性冒険者たちがわらわらと集まってくる。それも見せものを見ているように興味津々でイレーナのショーを楽しんでいるようであった。

 そんな異様な光景の幸一は隣にいたサラに問いかけてみた。

「これはどういう事なんだ?」

 その言葉にサラが反応する、これにはこの世界の歴史が関係しているのだと。

 そしてこれは恐らくはイレーナの作戦だろうと──。

 この国には昔から職業、出身地、男女などでカースト制度のような細かい身分わけがなされていた。亜人は一種類ごとに優劣が定められていて、万人恐怖とまで言われる時代が200年近く続いていた。


 圧政が繰り広げられ破った者は拷問やひどければ極寒の地で強制労働が待ち受けていて人々はそれに対し苦しめられていた。
 今は国王が変わって緩和されてきているがそれでも国民たちの中でわだかまりは抜けておらず互いに不信感、そしてカーストへの意識が根強く残っていた。

 その中で登場したのが魔法だった。
 五年前のクリスマス、突然人間達は魔法と呼ばれる力が使えるようになった。
 各地に出現した大聖堂にその力の源があり、それまでの騎馬や大砲、槍や剣に頼っていた戦争の概念を一瞬で覆し、それらの存在を無にしたほどの新兵器となった。

 登場以来、外交、戦争、商工を含めその言葉なしでは語れないほどになってる。
 しかしその原理や構造は分かっておらず世界中で激しく調査や競争が行われていた。

 さらにその適合者の80%が女性だということも判明し、それが今までのカースト社会への新しい影響になってきていた。
 それが力のない女性にとってはこの世界に根付いていた差別感情に立ち向かう象徴になっている。

 また今まで身分が低い者にも魔法を使える者が現れそれが新たな社会への刺激となっていた。


 その中でも人気、実力ともに5本の指に入る魔法を使える冒険者の1人がこのイレーナ・ミッテランであった。

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