第四話
一方道路側の金魚すくい箱の金魚は、周りの騒ぎで、群集心理なのか、隅っこに避難していた。結果、大きなからだの大黒天のパンツが箱の水面に投影されてしまった。
「きゃあああ!」
悲鳴をあげたのはパンツを見られた大黒天ではなく、見たくもないものを見せつけられた福禄寿の方。大黒天は何を思ったか、目線の下で腰を曲げている福禄寿の背中を優しくさすった。
「おふくちゃん。よく考えるどす。今、げぼーって、突き上げるものがあるどすか?」
「うん。気持ち悪い感じはないようなぁ。」
「おふくちゃん。何か思い出さないどすか?」
「むぅ。たしかに、前はダイコクちゃんのパンツを見ることが日課だったようなぁ?そんな気がするぅ。でもそんなはずないぃ!」
「ドドドド。火事だ!」
福禄寿たちの前を人間たちが必死の形相で走り去っていく、火の粉を伴いながら。それが隣のひもくじ露店にも飛び火した。そこでは寿老人がくじにチャレンジしようと腕まくりしていた。
「あちちち。」
ひもくじのひもが燃えて、暑さのあまり、寿老人は思い切り引っ張り、屋台は倒れてしまった。寿老人の浴衣の裾がめでたくご開帳となった。
『スルスルスル。』
世界初お目見えとなったひもパン。暗がりの中で、福禄寿には少し見えた程度。
「これが見たかった!・・・げぼー。」
「福禄寿。なんじゃ、その汚物扱いの反応は!この世の最高美の最前列を走る下着を見た後には思えぬぞ。」
「美ポジションとしてはビミョーな表現に見えることはおいといて、婆ちゃんのひもパン見たら、フツーなリアクションじゃねぇ?・・・婆ちゃん?ロリっ娘のコトブキちゃんが?待てよぉ。コトブキちゃんの名前って、寿老人だよねぇ。老人。ロリじゃなく老人。そ、そうだよ、老人だよぉ。介護が必要な婆ちゃんなんだよぉ!」
「そこまで、このババは老いぼれじゃないわ!でも、このババ・・・。いやこの一人称表現には意味があるぞ。そ、そうじゃ。このババは年上なんじゃ。」
「それを言うなら年増が正解だよぉ。この世界は間違ってるんだよぉ。」
「そうどす。おふくちゃんは、ウチのパンツ視姦するのが趣味だったはずどす。」
「視姦なんかするかぁ!とにかく狂った時計の歯車を修理しないと。でもどうすればいいのか、わからないよぉ。」
「ウチもさっぱりわからないどす。力以外はウチの守備範囲ではないどす。」
「「じーっ。」」
福禄寿と大黒天は、指を咥えて物欲しげに寿老人を見つめている。
「し、仕方ないのう。情報はこのババの専門分野じゃ。どうしてもって言うなら、解決策を出さないでもないが。情報は値段を付けられないものじゃから、タダではいかんのう。」
寿老人は福禄寿と眼を合わせた後、くっついた視線をゆっくりとそのまま、自分の浴衣の腰の部分までトレースした。