第一話
「ツンデレ神社でお祭りがあるなんて、知らなかったでござる。ここならたくさんの人がいて、神頼みをする奇特な人が現れるかもしれないでござる。拾得の字。」
「そんな神頼みを、コミケで一冊も売れない無駄な努力系同人誌扱いするなんて、神セブンの発言として、大いに問題があるんじゃないの?」
「同人誌作りに一生懸命頑張ってる人を冒涜するコメントは、集中砲火を浴びるでござるぞ。こういう場所に来る人たちは、リア充であったり、暖かい家族や友達に囲まれているのが大半でござるが、一部には、落ちてもいないロマンスのかけらを拾おうと躍起になっている輩が一定の確率で存在するものでござる。それが大数の法則の字。」
「そうですわ。さすがに神セブンですわ。人間界を十分に観察していることがよくわかりますわ。」
「じーっ。」
「ちょっと、布袋様、いや衣好花様。観察対象はオレの胸ではありませんわよ。」
「そこに詰めまくった夢があるから、ガン見するのでござる。視姦の字。」
「山登りと同一視しないでですわ!」
浴衣着の大悟、楡浬、衣好花の三人はツンデレ神社で行われているお祭りに来ている。狭い境内ではたくさんの露店を吸収できず、大半の露店は道路に出店されている。
大悟は金色生地に五本の指が蠢く不気味なデザイン、楡浬はソッポを向いたウサミミキャラ、衣好花はフード付きで、どろろというキャラが描かれた浴衣である。
「よくそんなキモイ浴衣着れるわね。」
「これはマッサージ家元に代々伝わる浴衣ですわ。これを着ると指が鳴りますわ。」
「あんたにぴったりサイズの浴衣がよくあったものね?」
「うっ。オレのこの状態は過去から予期されていたのでしょうか?」
意気揚々だった大悟に急に黒い雲がかかった。
「そんなこと、知るわけないでしょ。それより、神頼みをしそうな人を探さないと。」
狭い境内を睥睨するが、それらしい人間は見つからない。不特定多数の中で、さらに特定できないものを探すというのは、非常に困難なことである。初めから偶然を期待するという虫のいい話には、害虫すら寄り付かないものである。