第二十話
「神が人殺していいんですの~?黒轢死という死に方はかなり嫌ですわ~。」
大悟は飛ばされながらも反抗の意思を示していた。
「女の子が女の子を打つなんて、ちょっとはしたなくない?でも、『えすか』にもやってほしいかもしんない。願打の字~。」
衣好花はそれまでの忍者モードとは打って変わり、目尻を下げて指を咥えて、腰をもじもじとよじっている。手に持つ筆がサインペンとなり、額の二文字も黒から金色に変わっている。会話のイントネーションはいわゆる女子高生風の語尾アップ型である。
「衣好花。ちょっと、キャラ変わったんじゃない?」
「このフードはァ、えすかの本能を抑えるためのものなんだしィ。でもフード取っちゃった方が超気持ちいい。もう何でもしてって感じィ。特にその御幣とか、御幣とか、御幣とかァ。撃欲の字~。」
衣好花は涎を少々流しながら、楡浬が手にしている御幣をつんつんとつついている。
「そう。その意気だわ。それならアタシが、びしびしビシビシBISHIBISHIやってやるわ。ひひひ。」
先ほどから、楡浬の中にある何かが開花宣言をしている。磁石のS極とN極が引き合うように、ふたりの間にキケンな絆が構築されつつある。
「早くゥ。えすか、超待ってんだけどォ。待侘の字~。」
「よ~し。リクエストに応えて、軽~く一発いっとくわね。ビシッ!」
「かあああああああ~!」
楡浬の軽めの御幣スイングを受けて、感激のあまり?地面に腰を付けた衣好花。呼吸が熱く乱れている。
「はあはあはあ。やっと戻って来れましたわ。しかし、この大きな状況変化は何でしょう?」
大悟は目を白黒させて、変わり果てたっぽい楡浬と衣好花を交互に見ている。
「せっかくいいところだったのに、とんだ邪魔が入ったわ。」
「もっとォ。打って、打って、打ちまくってくんない?打激の字~。」
「やめてくださいまし!アイドルになるという『アイドルなう』の神頼みを成し遂げるのが目的でしょうが。」
「えェ?やめないでよォ。『アイドルなう』より、『害ドルなう』の方がよくない?換合の字~。」
「『害ドル』ですと?言い得て妙な気がします。これはどうしようもない輩を相手にすることになりましたわ。」
「まあいいじゃないの。少々厳しく当たってもへこたれないんだから、やりがいがあるわよ。ひひひ。」
「楡浬様。あなたもキャラ変してませんこと?」
「そんなことないわよ。アタシの熱血指導を受けたいという信者の誕生なんだから、お祝いしたいくらいだわ。ひひひ。」
「仕方ありませんわ。とりあえず、神頼みエントリーは終わりましたから、害ドル、いやアイドルになるためにはどうすればいいかを考えないといけません。ならば、特訓は明日からにしましょう。その忍者服はアイドルらしくありませんわ。他の服を用意して来てくださいな。」
「わかったよォ。JKらしい服装で来るよォ。明日も責めてくんない?痛望の字~。」
不安という血流が脳内を猛スピードで循環するのを感じる大悟であった。