第十八話
「仕方ないでしょ。神頼みは、苦痛が伴う儀式なのよ。特に叶える側に厳しいのよ。呪文を唱えたら、アイコンが空中に出て来るから、あとは画面に従って、好きにお願いすればいいわ。神頼みは超カンタンなのを選択するのが鉄則だからね。誰もが通れる易き道を進むという安定志向が、人間界の末世を滅亡に導くのよ。」
「滅亡してはダメですわ。」
「人類なんて、何度も滅亡してる種族なんだから問題ないわ。今この瞬間も間滅期にあることを誰も気づいてないわ。」
「間氷期みたいで、もっと悪いですわ。それなら早く人間を啓蒙しないと。」
「いくら説明しても人間は本能的に現状を肯定するのよ。滅亡の未来が不可避だなんて、知らぬがホットケーキなのよ。」
「説得力HPが急下降線を描きましたわ。」
「馬嫁下女は余計なツッコミを入れる権利を剥奪されてるんだから、沈思黙考してなさい。それじゃあ、衣好花。神頼みプログラム開始よ。」
衣好花は自分の胸を見て、心を痛めながら、呪文を唱えた。
「では、後生だから膨らんでください、貧乳!」
『イタイキモチ、ウケトリマシタ。』
カードから電子音声が流れて、空中に38インチの半透明ディスプレイが浮かんだ。
「ほら、ポイントカードを開くには、この痛い気持ちがカギなのよ。」
「非貧乳系女子は、適用除外ではないですか?」
「少なくともアタシの心が痛めば大丈夫なの。願った本人の気持ちがひどく傷つけば、成功した時のポイントが倍増することもあるわ。」
「なんともイヤなポイント付与の仕方ですわ。」
そうしている内に、画面は展開。
『アナタノ神頼ミヲ音声入力シテクダサイ。』
「拙者は国民的アイドルになりたいでござる。熱望の字。」
『続イテ、オ賽銭ヲ投入シテクダサイ。』
カードのディスプレイに小さな賽銭箱を象った映像が浮かんで、衣好花は銀行ATM入金のように小銭を数枚入れた。
『ゴッツァンデス。神頼ミ、登録サレマシタ。受託者ハ、実現行動ヲ開始シテクダサイ。』
社の小さな格子戸が開いて、大悟と楡浬が収集車から排出されるゴミのように飛び出した。ふたりともメイド服姿である。楡浬はいつもの灰色、大悟は赤いものを身に纏っており、ヘッドドレスも同色である。大悟のメイド服は桃羅が作ったコスプレ用である。
「いたたたた。」
腰をさすりながら、楡浬が衣好花に目をやる。
「衣好花、あんた、アイドルなんかになりたいの?」