第十六話
それから数日、神社に来た人間を半ば脅迫しつつ、小さく神楽天ポイントを稼ごうと目論んでいた楡浬と大悟。しかし、同じ手口ではポイントは獲得できなかった。
「どうしてポイントがつかないのかしら。強制型ではダメなのかもね。これではなかなか先が見えてこないわ。明日は一歩踏み込んでやるわ。」
「ちょっと、あまり過激なことをしても成果は期待できませんわよ。亀の子作戦でいいのではありませんか。」
「いいのよ。馬嫁下女だって、早く下女から脱皮したいでしょ。アタシも神様の地位がこんなままじゃいやだわ。狂った時計のネジを巻き戻して、神の尊厳を回復するのよ。進化するエネルギーは、現状を変えたいという強い意欲から発せられるものなんだから。現状維持という門番は、未来へのカギを奪うことが仕事なのよ。それに巨乳復活という大いなる野望も成し遂げてやるわ。」
「巨乳は虚乳という真実に到達しているのではありませんこと?」
「いちいちうるさいわね。神痛力が上がれば、嘘も既成事実にすることが可能なんだから。」
「それは違うと思いますけど。」
次の日のホームルーム。突然、灰色メイド服の楡浬が廊下から教室に入ってきて、無作法に大きな足音で教壇を軋ませた。
「アタシは神様なのよ。なんでもいいから神頼みしなさいよ。キャンペーン中だから、お賽銭マイナス9割引で叶えて上げるわ。」
唐突な珍客に一瞬、教室全体が凍り付いた。
「変質者じゃないの?」「ちょっと一体何が起こったの」「神様牛のエサが切れたのかしら」「マイナス9割引って、どれだけふんだくるつもりなの。」「お賽銭のぼったくりバーだわ。」
至極当然なクラスメートの反応である。
「あちゃ。これはかなりまずいですわ。またイジメの種を蒔いてしまいましたわ。」
顔を覆った大悟。机に顔をぶつけている。乙女らしからぬ仕草であるが、これが実態男子ということの証左である。
「神頼み、信じてるでござる。神様にお願いがあるでござる!拙者には長年見てきた大きな夢がござる。大願の字。」
黄金色セーラー服に不釣り合いのフードを被る少女は、筆で自分の額に二文字を書いた。
「また始まったわよ」「土井さんの忍者ごっこね」「懲りないわね」「忍者になるのが夢らしいよ」「どうして」「さあ知らないわ」「いつもフードを被っていて、何を考えているのかわかないわ。」
クラスの騒ぎをよそに、楡浬は嬉しさをこらえきれず、頬の筋肉がひきつっている。
「し、仕方ないわね。そこまで言うなら、神頼みを聞いてやらないでもないわ。」
「あれ、あの子、この前ぶつかってきた女子ですわ。クラスメイトだったのですか。でもあまりに影が薄くてわからなかったですわ。」
「願いを聞いて頂ける。土井衣好花(どいえすか)、嬉しさのあまり、快感の字。」
衣好花は、立ったまま、からだを左右に捩って、喜びを表現している。