第十四話
明治神宮の隣に隠れるように、ひっそりと佇む寂れた神社。参拝客がひとりもいない神社。
通称、ツンデレ神社である。名前の由来は不明である。ここの小さな社の中から、話し声が聞こえる。
「楡浬様。こんな狭いところに押し込められていろいろとキツイんですが。」
「贅沢言わないでよ。アタシのカード階級じゃ、これが普通なんだから。」
ぎゅうぎゅう詰めらしく、社は小刻みに揺れている。
丸いメガネをかけたソバカス顔の気弱そうな中学生男子が、社の中を不安気に見ている。社の中から女子の高い声が聞こえ、戸がガタンと乱暴に開かれた。
「神様であるアタシには、神頼みを叶えたら獲得できる神楽天ポイントが必要なの。さっさとアタシに神頼みしなさいよ。」
「ちょっと楡浬様。そんないきなり飛び出したら、相手がビックカメラするだけですわ。」
「どこのカメラ屋さんよ。その店は大型家電量販店じゃないの。元々は小さなカメラ屋だったらしいけど。」
灰色メイド服姿の楡浬は、白いヘッドドレスを太陽光で輝かせながら、胸をそり上げて男子を睨みつけているが、平面図では少年煩悩に対する破壊力に乏しい。メガネ男子の反応もそれに比例して薄い。
「そんな急に神様だと言われても、メイド牛でしょう。それに神頼みって、全然信じられないし。」
「なんと不信心な輩ねえ。神頼みが叶うことは圧倒的絶対、絶対可憐、絶体絶命な真実なんだから。」
「絶対って言葉は大抵ごまかしとまやかしにまみれてて、ひどく嘘っぽいんですけど。それに絶命するって、自爆フラグ立ってるし。」
「ごたくはいいから、なんでも、いや、なるべくカンタン、いやいやとっておきの超カンタンな神頼みをね。」
「さらに胡散臭いんですけど。まあいいです。ならば、か、彼女ほしいです。」
顔をあからさまに赤らめるメガネ男子。
「そんなのダメに決まってるでしょ。百万光年早いわよ。あんた、自分の立場、容姿、魔力を考えなさいよ。」
「魔力は関係ないと思いますけど。」
「オオアリクイよ。オオアリクイは南米に広く分布する哺乳類なんだからね。そ、そんなことより、もっとイージーミスな神頼みをしなさいよ。」
「頼んでもすぐにミスしそうなんですけど。」
「何か言った?その口を永遠に開かないアマチュアの岩戸にしてもいいんだけど。」
「さらに怪しげな言語ですけど、こわそうなので控えます。じゃあ至極容易な願いを言います。そこに置いてある僕のカバンを持ってきて下さい。」
楡浬は空中に四角形を描いた。すると、そこに半透明なディスプレイが浮かんだ。