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第十話

乱痴気騒ぎはピラミッド全体の神様牛たちの眼を強く刺激して、それまでの張りつめていたものが『プチン』と音を立てて切れた。

 ピラミッドは自動車が壁に衝突する実験再現スローモーションビデオのように、上からゆっくりと崩壊していった。真鍮球や付属の針で神様牛たちは傷つき、夥しい流血のプールとなった床面。こうなる事態は想定済で、人間たちには来ないように床には溝があった。

「ここまでしなくちゃいけないんですの。なんか変ですわよ。でもこんな風景を見たような、見なかったような。よくわかりませんわ。」

「そうね。神様って、もっと尊大な立場なはずなような気がするけど。」

「あれ?楡浬様はどうしてこっちにいらっしゃるの。」

「さあ?美術の授業が終わった後に、寿老人から職員室への用事を頼まれて、ここに来たらもう組体操は始まっていたわ。」

「寿老人が?いったいどういうことでしょう。」

「あ~終わっちゃったね。この中に平原神が見当たらないけど。下で沈んでいるのかな。それよりも、この血の池地獄をそのままにしておいたら、校長先生に叱られるからね。後片付けが大変だよ。って、そうでもないかもね。」

 教師桃羅が視線を向けた空では雨が上がって、黒い雲がどんどん流されて日差しが戻っていた。
雲がきれいに掃除してくれた空には数十体の四角くて薄い物体が浮かんでいる。二本の黒い布をぶら下げた凧で、それには二本の角を生やした鬼、つまり魔冥途が乗っている。

『ウウウウウウ~!』
けたたましいサイレンと共に、傷だらけの神様牛たちが痛みをこらえながら体育館から出てきた。教師桃羅も腕をだらんと下げて、いかにもやる気なさげについていった。

「魔冥途が来たか。みんなすぐに校舎に戻るんだよ。」
 神様牛たちは、無言で凧が降りてくる方向に走り出す。傷から血しぶきが迸り、見ているだけでも痛々しい。
 魔冥途たちは凧から降りて、身構えている。

「魔冥途が来たよぉ。よ~し。ちゃんと捕まえてやるからねぇ。」
 ピラミッドの上から2段目にいて、ケガの少ない福禄寿が先頭に立っている。

 魔冥途たちは神様牛たちの集団を見てから、動き出す方向を見定めたのか、全員が一斉に走り出した。

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『がああああああああああ~!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 砂塵をもうもうと上げながら神様牛に猪突猛進する魔冥途集団。手には小さいが金属のようなものを持っている。それを迎え撃つ神様牛たち。
 まさに関ケ原の激突!!!

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