第二十五話
「オレはどうなる。お前の神痛力とやらで、あっさりと元に戻せるという、お決まりなエンディングを迎える心の準備をしてるんだけど。」
楡浬は小さな白目部分を拡大してから、桜色のほっぺたを緩めた。
「アタシのWikipediaには、そんな神痛力が掲載されてないの。てへぺろ。」
「女神の笑顔で、残酷な最後通牒を発行するんじゃねえ!」
大悟は胸を触ったあと、おそるおそる下腹部に手を伸ばす。
「上はあった、下はない・・・。」
言うや否や、膝から崩れ落ちた大悟の顔面は蒼白。大悟の胸部ははちきれそうに膨張し、シャツの化学繊維が圧力に耐えかねている。
「もうジタバタしても無駄よ。過去という油絵は、どんなに塗り替えても最初の絵具が残ってしまうのよ。もう観念して諦めなさい。」
「チクショウ。これからオレ、いやあたしはいったいどうしたらいい。いや、どうしたらいいの?よよよ。」
「中の人は男の子なんだから、そんなキモイ言葉使いはやめなさい。アタシだって、せっかく苦労して作り上げたお宝が、振り出しに戻ってるんだからね。泣きたいのはこっちよ。」
「責任取ってくれよ。楡浬は神様なんだから、神頼みでも何でもするぞ。」
「やっと神様扱いしてくれたわね。責任取るのは、馬嫁なんだけど、どうしてもって言うならアタシも協力してやらないでもないわ。」
「その上から目線、超ムカつくんだけど、背に腹は代えられない。男子のからだを取り戻すまでは、欲しがりません。」
「太平洋戦争ばりの覚悟はよろしいわ。アタシのポイントが再び貯まって、カードランクがシルバーに上がれば、神痛力レベルも上昇して、男子馬嫁復活を成し遂げることができるわ。・・・たぶん。」
「あのう、楡浬さん。最後の三文字をデリートしてもいいでしょうか。」
「考えとくわ。」
「不安しかないんですけど。」
「男の子なんだから、ドンと構えなさい。」
「かよわい見かけ女子をいじめるな~!」
楡浬は大悟の言葉を聞き流してから、いったん目を閉じて、何かを思いついたように、大悟に話しかけた。
「これからアタシのポイント稼ぎに、大悟が馬嫁、いや馬嫁下女として付き合うことが決定したわけだけど。」
「誰が馬嫁下女だ!名前長過ぎるだろ。・・・しかし、この起伏は。」
改めて胸を触り、落ち込む大悟。トラウマはすでに形成されていた。その仕草を見て、眉根を寄せる楡浬。
「アタシの神痛力が切れたままで、この胸の失地回復ができないわ。そのムダな贅肉をよこしなさいよ。」