第二十一話
「お風呂に入る前の儀式をやるわよ。」
楡浬が何もないところで入力するような仕草を取ると、音楽が流れてきた。
『♪チャンチャチャンチャン、チャンチャチャンチャン、チャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャン。大きく腕を上げて~。』
いかにも筋肉モリモリ系のオジサン声が聞こえてきた。さわやかで大きな太い声だ。
「これは神聖なるラジオ体操よ。それは神が人間に教えた、と聞いてるわ。」
「本当か?テレビショッピングのオーバーリアクションみたいだが。」
こうして狭い脱衣場で、大悟は楡浬にぶつかっては怒られるというピストン運動をリフレインした。
「じゃ、じゃあ、浴室に入るから。ぜったい、ぜったい、目を開けちゃダメだからね。」
「いや、アイマスクしてるんだけど。」
「馬嫁の目より百万倍キレイなアイマスクの下にある、ガイコツの窪みに巣喰ってるピータンも閉じておくんだからねっ!」
「オレの目玉、うまそ。」
「余計なこと言わないで、さっさと目潰ししなさい!」
「ついにオレから未来という光を奪ったか。」
「馬嫁は暗黒という次元の狭間が住処と決まってるわ。」
ブツブツ言いながら、服を脱いでいく楡浬。
目を瞑っているせいで、大悟の聴覚は普段以上に鋭敏になっている。
「今、服が落ちたな。・・・ホックを外した音のようだ。・・・ドキドキ。」
大悟の心臓は異常な動き方をして、様々な音を出し、オーケストラを構成していた。やがて大悟は骨を抜いたイカのようになっていた。
「ほ、ほ、ほら。浴室に入るわよ。」
さらに心臓を圧迫する楡浬の殺人的フレーズ。
溢れ出てくる湯気が冷や汗とブレンドされて、濃厚な味わいとなっていく。いい塩加減である。
『シャー』というシャワーの音が入浴開始の鐘となり、大悟を妄想の暖かい泉に誘う。
「お、奥の院は見せないものなんだけど、特別拝観料を取って開いてあげるんだから感謝しなさいよね。」
「入場料を取るだと?マスクがあって見えないし、第一ここはオレの家だ。」
「生意気言うんじゃないわよ。馬嫁には轡が必要なのかしら。」
「これ以上、美少年顔の露出面積を狭めないでくれ!色男協会からもったいない宣言が出されるぞ。」