第十話
「しょうがないなぁ。神のみんなぁ。軽い運動してよねぇ。体育の時間だから、からだを動かすのにはちょうどいいんじゃないかなぁ。」
福禄寿がこういうと、面倒くさそうに神たちがテントから出てきた。馬女子がいないので、足がなく、肩をゆすりながらとぼとぼと歩き、いかにもダルそうな様子である。
「おふくちゃん。こんな時に出動命令なんて、ルール違反どす。それに何か、ほかの女子とチョメチョメとかいう空気を感じたどすけど。」
「ダイコクちゃん。それはただの空耳だよぉ。テントの中で大きな声を出したり、出させたりするから、そんな幻聴に惑わされるんだよぉ。ダイコクちゃんの浮気者ぉ!」
「そのセリフ、ひどく信憑性に欠ける気がするどす。天につばするようどす。でもそんなことより、この状況をなんとかするよう要請があったんどすな?」
「そうそう。みんな一斉に掃除しなきゃ。そうでないと、テントが、・・・いや、お賽銭を出す人間が減っちゃって困るからねぇ。」
「今、少々怪しげなフレーズが垣間見えたのは気のせいどすな?」
「その通りだよ、ダイコクちゃん。さあさあ、ちゃっちゃとやっちゃって。」
神たちはグラウンド中央に向かっていく。それを見ていた魔冥途たちは捕まえていた人間を放して、無言のままで敵意むき出しの視線を神に向ける。
「あああ。そういう目、吊り上がった眉根、いいねぇ。テントの中とはまったく異質な欲情を掻き立てられるねぇ。どちらにしても、抵抗される方がやりがいがあるんだねぇ。人間に七つの大罪を与えたのは神だけど、それは神が元々持っていたものを原始時代に無発展だった人間を憐れんで、与えたんだよねぇ。それから人間は石器時代を迎えて予想以上の進化を遂げたんだけど。一方、神は七つの大罪を捨てて、完璧になったはずなんだけど、生物には欲望というものは憑き物なんだろうかねぇ。欲望は生きる意味の一つだけど、それは神には不要なものぉ。欲望に駆られているのは、おふくだけじゃないから、またどこかに廃棄しなきゃいけないからこれから大変だよぉ。」
福禄寿が喋っているうちに、魔冥途集団は剣や刀、斧、チェーンソーなどの凶器を手にして、神の方に走ってくる。降り出した大雨でぬかるんだ土を、除雪車のように蹴散らしており、馬女子によりきれいに整備されていたグラウンドは、荒地になってしまった。
「よおし。このテント小さ過ぎて、丸まっていたどすから、少し背を伸ばしたりしてみるどす。神痛力、どすこい。」
五百円玉を咥えた大黒天が相撲のシコを踏むと、ほかの神たちは千円札を口にして、一気に魔冥途に向かった。武器は手にしていないが、手や足が異様に肥大し、黄金のブレザーやスカートが裂けてしまい、そこから隆々たる筋肉が露出している。神たちは魔冥途たちの武器による反撃を素手・素足・胸・背中でまともに受けてもものともせず、魔冥途をぶっ飛ばしている。神と魔冥途の力量さは明白である。