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第2話 ノーブル

語り手…わたくし…ぼく…おれ…うーん…【僕】でいいか。

0歳

父上の話だと生まれたばかり僕は全く泣かなくて、心配した母上が元気に泣いたらしい。なんでだ…

赤子の時の記憶は流石にない…兄上は僕の象さんを引っ張っり伸ばして遊んでいたとかなんとか言っていた。いつかプルー湖にいる魔物か魔獣のエサにしてやろうと思う。

1歳

この年の記憶はない、自分から紹介しといてだが赤子の記憶って残ってるものなんだろうか。

そういえば指輪やネックレスといった装飾品をよく掴んで眺めていたと母上から聞いた。光りものは今でも好きだし、その頃の自分を容易に想像出来たが母上が大切にしてた指輪の幾つかが無くなったのは僕のせいらしい。

今では笑って話してくれているが当時は泣きながら庭を歩き回っていたと兄上から聞いた。

ゴメンナサイ…うう…最低だよ1歳の僕…

2歳

思い出せる記憶は雲のない夏の青空の下で初めてプルー湖を見せてもらった日の光景だ。

美しい青と緑のグラデーションが太陽の光を映し輝き宝石の海のようで目を奪われた。母上が「お昼よ〜」と言っていたがガン無視、しばらくすると「【水神】様と【太陽神】様が私の息子奪ったぁああ!」とか叫んで泣いていた。

海と繋がってるプルー湖南部から離れてる北部は西部の樹海に住んでる【妖精族】と東部の山岳に住んでいる【獣人族】にとってちょっとしたリゾート地となっているそうだ。

比較的安全で船も出せるが、その時は大型の水蛇に丸飲みされたため討伐されるまで禁止だった…安全って何だろう?

船着場の橋に腰掛けパシャパシャと水面を足で蹴って遊んでたら、兄上が背中を押した勢いで見事に落っこちた。

生まれて初めて水中に全身を浸かった。落とされた衝撃に驚かされ、服に染み込んだ水が身体の芯まで冷やす。

音も無く、美しい翡翠色の光の帯がユラユラ揺れる世界、何かが足りなかった気がするけど心地良かった。

ふと視界の端に映った小さな輝きを僕は何気無く掴んだ。それは青く輝く綺麗な石だった。

その輝きを眺めていると、突然の爆音と共に大きな腕に抱き締められた。僕は水中から解放され暖かい日の光を浴びた。

目の前には心配そうに見つめる父上の顔が目の前にあったた。慌てて飛び込んだのだろうか普段は落ち着いた雰囲気の父との違いに面白く笑った。

笑いながら父上の腕の温かさに胸がポカポカして泣いた。父上は「安心したら泣くのかい?」と苦笑した。

僕が湖に落ちた際の音と匂いにつられたのか、大型の水蛇が現れた。母上が船着場から飛び上がって水蛇の首を一刀両断した。

美しい水面が水蛇の血に染まった光景はしばらく僕のトラウマとして心に刻まれた。

ちなみに兄上はこの後、滅茶苦茶怒られた。

3歳

兄上は王都の貴族学校に入学し寮生活を始めた。
父上は僕が湖に落ちた時に拾った石が相当ヤバい物だったらしく屋敷に帰った後から、その石の調査で父上が屋敷に遅くまで帰らない日が続いた。

この年から南部辺境全体が慌ただしくなり、屋敷に帰ることすら難しくなった父上は僕と会えない日が続き、食事を共にするのも難しかった。

代わりと言っては失礼だが母上は毎日一緒に遊んでくれた。屋敷の書斎にある多くの絵本を読んでもらい、簡単な文字を覚え、この頃から自分の名前を意識し書けるように頑張った。

父上は忙しいのに母上は遊んでて良いのだろうかと考えたことがある。

ある日、メイド長が「夜会や茶会のお誘いが来てますよー」と母上の頭上に手紙の束を放り投げると、近くのあったペーパーナイフがブレた、同時に空中の手紙の束が紙吹雪となって窓から外へ舞っていった。

メイド長含む周りのメイドたちも拍手喝采し、母上がドヤ顔していた。

どうやら母上は婦人の集まりが苦手で僕を言い訳に断るのが常套手段だったらしい。おかげで僕は世間では【病弱な男子】と広まっていたそうだ。

舞い散る紙吹雪を眺めながら「これって本当はダメなんだろうなぁ…」と考えられる程度には「ものごころ」というものがついただろう。

4歳

この頃には僕は自分の【存在】を自覚した。
ノーブル=ロッソ=ハーディス。それが僕の名前。
そしてハーディス家。歴史ある一族に生まれたこと。

500年前にプルー湖が海と繋がった頃、【海神を祀る魔王】が湖を渡ってガルダ王国を襲った。

その際、王国の危機を救ったのが【ハーディス】と呼ばれる湖に住む一族がご先祖様らしく、その時の報酬として南部辺境の地を与えられ、時と共に爵位を与えられたそうだ。

そして500年、ここまで時間をかけてもプルー湖【北部】【東部】【西部】の開拓が少し進んだ程度で【中央】【南部】は全くと言って良い程に手が付けられていない現在。

ガルーダ王国南部は【海神を祀る魔王】が住まう海と繋がったプルー湖がある為か【魔物や魔獣】が他の【危険地域】と比べても圧倒的に多い。

在住する領民も土地の広さの割に少なく。【田舎領地筆頭】と王都の貴族学校の生徒内では呼ばれているそうだ。

兄上に至っては入学早々に「流石は田舎筆頭!体臭が生臭いな!」と馬鹿にした生徒をブン殴るという問題を起こした。この件は最終的に喧嘩両成敗ということに落ち着き、お互い共に家で謹慎食らったそうだ。

そんな問題児を多く輩出すると言われるハーディス家。

父上、グリス=ロッソ=ハーディス31歳

ハーディス家の現当主である。 ハーディス家の祖父母は僕も兄上も生まれる前に亡くなっている。若い内から苦労しているのか年以上に老けて見える。

母上、ノルベ=ロッソ=ハーディス28歳

実家のブロッカート男爵家は代々王国騎士を務める家系なのだとか、母も元々女騎士だったらしいのだが、あの泣き虫っぷり見ていると全く信じられない。

改まって両親のことに考えると以外と何も知らない。今度、聞いてみるのもいいかも知れない。

長男、ジャンテ=ロッソ=ハーディス12歳

長男の兄上は去年、貴族学校を入学、15歳で行われる成人の儀を終えて学校卒業したら、南部辺境に戻り父の元で領地経営の仕事を手伝うらしい。

貴族学校では知り合った女生徒と婚約前提にお付き合いを始めたらしい。この年の夏休みに領地へ迎えて会わせたいと2回目の謹慎食らった時に自慢していた。

そして次男である【僕】ノーブル

兄上は問題児ではあるものの内面は真面目でハーディス家の長子として領主を継ぐことに積極的である。

つまり、次男の僕は万が一でも無い限り領主となる事はない。兄上を補佐する立場になるのだろうが、まだ先の話。

しばらくは抑圧のない悠々自適な生活を過ごしていくものだと僕だけでなく周囲も思っていた。

結局は無理だったが。

【あの事件】の原因は何なのか。

【僕】が【あの子】を見つけなかったら、

【僕】が【あの子】を抱きしめなかったら、

【僕】が【あの子】を認められなかったら、

【僕】は静かに暮らせたのだろうか?

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