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序章 5

      序章 5
「あ……気を悪くされたならすいません、私の呼び出しが無作法だったのは謝ります。
大打さん機嫌直してこちらの現場に向かって下さい。今、刑事課の捜査官が鑑識待たせてますから」
「俺は後で署の鑑識に回る。おまえの方で現場をまとめとけ。その位は任せても良いだろう。いつまでも見習いに胡坐をかくなよ」
 桜木巡査は慌てた。
「大打さん……」
 大打は、そんな彼女の反応にはお構いなしに携帯をブタ切った。
 
 ブタ切ったと言う表現は一般的には聞かない表現なのだが、それほど容赦のない切り方をしたと言う意味だ。
「せっかくこの研究室の入り口の鍵までぶっ壊して入り込んだのに……。何もしないで退散と言うのもしゃくだが……何か面白い物でもないかな……?
こういった教授みたいな職業の人間は意外と面白いコレクションを持っているもんだ……」
 大打は一人言をぶつぶつ言いながら、研究室を物色し始めた。
「バックアップファイルか……こう言うのにエロDVDとかしまってるのよね、チョンチョンのチョンチョンが……(広川太一郎風に)Fのファイルをいただいておこうかな」
 大打はそこで一瞬躊躇した。FかSのファイルどちらにするかでだ。Fはファック、Sならセックスだ。教授は知的階級の職業だから学生相手の趣味のハメ取りをデータで保存するにも、直接的表現は避けると思ったのだ。
 それがFのファイルを選んだ理由だ。どっちでも同じだが……。 

 そうこうして大打が下鴨教授の研究室を後にするのに、20分程を要した。
 大打は教授の室内を振り返って呟いた。視線の先にはエジプトのミイラの遺体が飾られていた。
「まあ、こっちの死体が相手じゃなくて良かったな、こっちが相手じゃ並大抵の捜査では済まないところだった。犯人は時の彼方だ」
 大学のキャンパスは朝の通学の学生達で賑わっていた。その中を学生たちの流れに逆らい、大打は署に向かって、大学の門を出て行った。

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