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第21話 ステータス更新

龍の姿となったレイラの母親を改めてみるが、小学校の校舎くらいありそうだ。
こんなん戦える訳がない。

どうやって逃げるか考えているとアルスとセニアが動き出す。

「母様!!どうしたの!?元に戻ってよ!!」

「レイラ!!こっちへ!!!」

「いやぁぁぁああ!放して!!!母様を助けないと!!!!」ガシッボコッ

暴れるレイラを抱え距離を取るアルス。
助けるも何もピンチはこっち側だと思うんだが……。

「魔炎龍よ私が相手だ!!!」

恐らく俺に被害が出ないようにしているのだろう、龍を挟んで俺の反対側に向かい距離を取って龍を挑発するセニア。

「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」

それまで俺と正対していた龍は瞬時に身体の向きを変えて一瞬でセニアの正面に現れる。

(あの体格で何てスピードだ!!逃げ回ることも出来ないじゃないか…)

「はちべえ、力を発散しきるまでどれくらい時間が必要なんだ?」

「ここまで無理して力を溜め込んだ症状は前例がありませんが、どんなに長くても30分は掛からないと思います。」

この化け物相手に30分は流石に無理ゲーではないでしょうか。
あの体格で攻撃力がとんでもなく低かったら助かるんだけどなー。

「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!」ドガーーーーーンッ

当然そんなことなかった。
身の丈以上ある長い尻尾を足の様に使い、あびせ蹴りのようにセニアの身体に打ち付けると、とんでもない勢いでセニアが飛んでいき、岩に打ち付けられそのまま動かなくなった。

「せ、セニア!!??」

「魔王様、あ奴の命に別条はありません。気絶しているだけです。」

はちべえは気絶しているだけと言うが、あの勢いで吹っ飛んで気絶だけとか本当かよ…
流石元神童セニア。

「魔王様、来た道を全力でお戻り下さい。後ほど合流しましょう。」

もう一人の神童アルスが戻ってきて龍と俺の間に立つ。
かなり離れた位置で暴れていたレイラが横たわっているのだが、恐らくアルスが落ち着かせるために何かしらの方法で気絶させたのだろう。

「アルスさんはどうするんですか?」

「龍の討伐は魔族の誉。私に活躍の場をいただきたいと思います。」

自分たちで魔族たちが無謀な挑戦をしないように、ギルドに依頼をしたくせにそれを言い訳に使うのは流石に無理がある。

「嫌です。アルスさんとセニアさんを見捨てて自分だけ逃げるような男にはなりたくありません。」

普段だったら絶対に『はぅっ』とかふざけそうな俺の発言なのに、本気で困っている表情を浮かべるアルスが、事の重大性を表している。

「魔王様、私は以前一度だけ龍と手合わせしたことがあるのですが、恐らく私とセニアでは太刀打ちできません、ですのでせめて魔お

その矢先セニアを打ち付けた尻尾がアルスを襲う。
セニアよりも華奢なその痩せこけた身体は更に凄い勢いでアルスの方に吹っ飛ばされる。

(あ、良かった。セニアの肉がクッションになってる…)

まぁあれなら、怪我はしていても死にはしないだろう。
今回ばかりは肉肉しいセニアの身体が役に立ったな。

さて困った。
龍の標的はもう俺しかいない訳だが、アルスとセニアと比べて二回り以上小さい俺の身体は、あの尻尾攻撃をもろにくらったらどうなってしまうんだろう。
想像もつかないぞ。下手しなくても死ぬかもしれん。

なんてことを考えていたらいよいよ俺の番。
勢い付いた尻尾が俺の眼前まで迫る。妙にゆっくりだ。
あーなるほど、これが走馬灯ってやつか…ってまだ数日しか経ってないわw

今生も彼女出来なかったなー。
来世に期待するか!!

俺はゆっくりと目を閉じた。

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ん?



どうした?攻撃するのやめたか??

恐る恐る俺はゆっくりと目を開けると、

「うわぁぁぁあああ!!!」

目の前で龍が俺に向かって大きな口を開き、今まさに噛みつく瞬間だった。
すぐに目を閉じる。





ん?
思わずまた目を閉じたが中々痛みが訪れない。
まさかもう死んでる状態じゃないだろうな……
再度ゆっくりと目を開ける俺。

目の前には牙や手、尻尾や踏みつけ、あらゆる手段で俺に対し攻撃をしかける龍が暴れている。
なんだ?どういうことだ??

「魔王様、成体になられてからステータスを確認されていないようですが、現時点で自然現象含め、魔王様に傷をつける手段は存在しません。」

俺の後ろで寝そべり落ち着いているはちべえが伝えて来る。
そういや最初からやけに落ち着いていたな。

はちべえ、俺のステータスを。

「はい、承知しました。」

頭の中に浮かびあがる俺のステータスは…

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【名前】佐藤一郎
【種族】魔神族(成体)
【状態】良好
Lv1/?????
HP:∞/∞
MP:∞/∞
攻撃力:7800000
防御力:6200000
魔法力:12000000
素早さ:30500000
【加護】
魔神の加護:周囲に恐怖と絶望をまき散らす(制限中)
【パッシブ】
絶望の共振:周囲の人間の恐怖や絶望など負の感情をオートで吸収。恐怖の分だけ所持者のステータスをアップする。
絶対服従:圧倒的な支配力を持つ。魔王の命令は絶対。不可避。
【スキル】
断罪の刃:魔王以外生きる事自体が……
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あ、もう大丈夫です、ありがとうございます。

「魔王様申し訳ありません。当初の私の予想を遥かに超えるステータスになっていました。」

はちべえが犬の姿で欠伸しながら伝えて来る。
全然痛くないけどビビったわ。

「はちべえ、次からはもっと早く言ってくれ……」

「ワンっ!」

都合悪い時だけ犬になりやがって…。

そうして俺はレイラの母親が満足するまで無抵抗で立ち尽くし攻撃を喰らい続けた。


レイラ自宅寝室-

あれからはちべえの言う通り30分もしないうちにレイラの母親は落ち着きを取り戻し、人間の姿に戻って寝息を立て始めた。

その頃にはアルスもセニアも意識を取り戻し、最初に俺を見た瞬間は驚愕の表情を浮かべ俺を助けようと動きかけたが、何が起きているかを理解するとドン引きしていた。

この2人にドン引きされるのは心外だ。まぁ気持ちはわからんでもないけど。

その後、自室までレイラの母親を運び現在に至る。
一連の出来事でようやく自分が人外(魔族外?)の存在の中でも更に異端ということを認識した。

だからといって元々の性格が変わっているわけではないので、争いごとは好きじゃない。世界一強い男を目指している訳ではないのでとんだ宝の持ち腐れだわこれ。

「しかし流石魔王様ですわ。まさかあの攻撃をまるでそよ風を受けるかのごとく受け止められてw」

「あれは凄かったな!最初自分の目を疑ったわw」

アルスとセニアが先程の俺の姿を思い出し笑いあっているが笑い事ではない。
この2人、改めて鍛え直したらさっきのレイラの母親と戦えるのかな?

なんて考えているとレイラの母親が目を覚ました。

「ん、んん、う~ん。」

「か、母様!?大丈夫!?」

「あら、レイラ。どうしたのそんな心配そう…な顔し……て……」

レイラに話し掛けながら、俺の存在に気付くと少しずつ顔を青くしていく。どうやら狂龍病の間の記憶はしっかり残るらしい。

「た、大変申し訳ありません。お、おおおお怪我、お怪我は大丈夫でしょうか!?」

落ち着け、俺は大丈夫だから落ち着け。

「ご無事そうで何よりです。私も運よく軽い傷で済みました。もしかしたら無意識に手加減して頂いたのかもしれませんね。」

レイラの母親、改めエレナさんが気にし過ぎないように自分の無事を俺の口から伝える。

「しかし、何故あんな状態になるまで『力の発散』をしなかったのですか?」

「実は、最後に龍型に戻った時、運悪く魔族の冒険者に発見されてしまい、それからしばらく名声や力試しなどを目的に、頻繁に冒険者が訪れるようになってしまいました。ただ、その後娘が生れた為、また冒険者に襲われて娘に危険が及ばないよう、それ以降龍型への変身をしないよう決めたんです。」

なるほどねー。でもそれまでの発散はどうしてたんだろう。

「それまでは定期的に魔王様のお城にお邪魔させていただいて、魔王様に発散させていただいていました。」

「「!?」」

サラっと飛んでもない話が飛び出て、アルスとセニアが驚愕の表情を浮かべる。

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100年前、魔王城中庭-

「エレナー、準備は出来てるよ!いつでも掛かっておいで!!」

「いつもありがとう魔王ちゃん!じゃあ今回も遠慮なくいかせてもらうわね!!!…Grrrrrrrrrrrr」

レイラの母親エレナは、先代魔王が一人旅をしていた際に偶然知り合ってからの付き合いで、数年に一度、狂龍病が発症する前のタイミングで、毎回こうして『力の発散』を先代魔王に付き合ってもらっていた。

魔王城の広大な土地、魔王の防御魔法による結界と周囲からの遮断、一目を避け発散していたエレナにとって、これほど都合の良い場所はなかった。

しかし、そんなエレナにとっての恵まれた環境は突然終焉を迎えるのだった。


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