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第7話 魔族たちの日常

ナイトクリーク。
工業都市として有名なブラッドレイブンの南に位置する都市。
工業といっても作られているのは筋トレに使用される器具や部品だけ。
それもただただ筋肉に負荷を掛ける事だけを目的にした無骨なデザインのみ。
もうここまで一貫していると尊敬の念すら湧いてくるわ。

ちなみに、俺の身体は小学1年生くらいの外見になった。
これが成体って…。美形なら何でも良い訳じゃねーぞあの糞魔神め。
冷静に自分の姿を見るとあの魔神の面影を感じるからもしかしたら悪気はないのかもしれない。

はちべえに聞いたところ、長寿の魔族は自身の能力が一番高い姿で成長が止まるのが常識であり、外見上の年齢は誰も気にしてないらしい。
そういえばガイアなんて完全におっさんだったけど、アルスとかと同級生って話だからな。

アルスとセニアの反応は昨日と同じなので割愛。
自分の身を守るために一発くらい殴っても許される気がする。
頬ずりすんなし。

「それにしても素晴らしい施設ばかりですねーーー(棒読み)」

「流石は魔王様、お目が高い」フフン

アルスの顔が腹立たしい。
魔族もドヤ顔するらしい、嫌味は理解できないみたいだけど。

「ナイトクリークは御覧の通り工業が盛んです。元々は各都市に輸送する予定でしたが配達員が我慢できずその場で皆トレーニングを始めてしまう為、必然的にナイトクリークのトレーニングジムが発展しました。」

老若男女問わず利用者は多いようだ。
見ていると結構小さい子供魔族もいるが、日本でいう塾に通わせるような感覚なのかな。
大人みたいに追い込むトレーニングになっていなければいいんだが。
しかし…

「うーん、それにしても…」

「魔王様いかがなさいましたか?」

唸る俺にそれまで寝そべっていたはちべえがむくりと起き上がり反応する。
相変わらず見た目だけは愛くるしい。

「いやー、今までの都市でもそうだったけど、俺の前の世界となんも変わらんのよね。」

前の世界では犬は言葉を話さないがそこはもう気にしないことにする。
そもそもこの姿にしちゃったの俺だしね。

「失礼ながら個体分析の際に前世の記憶も拝見させていただきましたが、その際に見た魔王様の前世の世界とは圧倒的に文明レベルで遅れているようですが…」

勿論それはそうなんだがそういうことではない。

「当たり前といえば当たり前なんだけど、男性がいて女性がいて、子供がいて老人がいる。笑っている魔族もいるし怒っている魔族もいる…うまく表現できないけど、姿形の話ではなくて日本の日常と何も変わらないなーってね。」

「大変申し訳ございませんが私には魔王様が何を言っているのかがわかりません…」

「いやいや。気にしないでくれ。変なこと言っているのは俺の方だから」

まだ全ての都市を確認した訳ではないからもしかしたらこの先考えが変わるかもしれないけど、今のどころ日本のゲームやアニメで見てきたような『魔族=極悪』という印象は全くない。
人間と比べると、中には角や尻尾が生えている魔族もいるけど、見た目もそこまで大きな違いはないし、戦うことは好きそうだけどそれを理由に人間と戦争している訳ではない。
種族的に筋肉大好きな部分さえ除けば人間と変わらないではないか。

あからさまに極悪であれば気にせず人間側に与するけど、こんな人間臭い部分ばかり見せられては放っておけないだろうよ。くそ。

自分の事だけでいえば与えられた能力だけで然生きていけるんだろうけど、それは最終手段かな。
偽善かもしれないけど、現代日本で集団生活に馴染んでしまった俺にはきっと全てを見捨てることは出来ないだろうことは容易に予想が付く。
ましてや、良かったのか悪かったのか、今は何とかするだけの力を持ってしまっている。
ついでに横で今も筋肉について熱く語っている2人のこともなんだかんだで捨て置けない。
まぁなるようになるだろう。
とりあえず今考えても仕方ないから思考を放棄することにした。

「魔王様はどこが好きですか?」

「魔王様は大胸筋に決まっているでしょう?あなたは相変わらず馬鹿ね。」

どうやら二人は好きな筋肉の部位の話で熱くなっているらしい。
超どうでもいいので俺を巻き込むのはやめて欲しい。

「黙れアルスよ。お前は全然わかっていない。やはり男なら僧帽筋ですよね!?」

前言撤回。やっぱりこのガリポチャコンビはどうでも良いや。

「肛門括約筋です」

「こ、肛門…活躍??」

「そんなことよりもジムを確認することはできますか?」

「勿論です魔王様!!」

別に俺は特別筋肉が好きなわけではない。
サラリーマン時代に少しお腹周りの肉が気になってから、運動不足解消の為に軽く筋トレしてたくらいだ。
その時にトレーニング好きの友人から勧められてベンチプレスを少しやってみたが死ぬかと思った記憶がある。
魔族がどんなトレーニングをしているのか少し気になる。

ジム内--

「……………」

なんだろうこの違和感は。
トレーニングの内容や器具などは、素人目にはそんな違いはわからない。
ただ、壁際に腕や足を抑えて泡を吹きながら意識を失っているであろう魔族たちが溢れかえっている。
日本ではこんな光景見たことない。

詳しいことはよく分からないが、恐らく全員追い込みすぎではなかろうか。
例えばあそこでバーベルをもってスクワットをしている男性魔族がいるが、明らかに限界を超えているだろう。
足がプルプルいっている。
ほら言わんこっちゃない。
暫く様子を見ていたが、案の定スクワットの最中に力尽きたようで両手でバーベルを支えた状態で前のめりに顔から倒れたもんだからバーベルと地面で顔が潰れてすごく痛そう。

「トレーナー的な人はいないんですか?」

「トレーナー……ですか?」

横でトレーニング風景を羨ましそうにそわそわしているアルスが不思議そうに答える。

「はい、トレーニングをサポートしたり、万が一事故が起きそうになった時にすぐ助けてあげられる役割の人です。」

「ま、魔王様…大変恐縮ですがそんな役割を担ってしまえば自分がトレーニングできなくなってしまうのではないでしょうか…」

「あーうん、それはそうなんですが…そっちの方がトレーニングも捗ると思うんですがね…」

アルスとセニアが心底理解できなさそうな顔をしている。
きっとこいつらはトレーニングしたらその分だけ筋肉が付くとでも思っているんだろうな。
プロテインもそうだったが俺の育った世界と比べると、トレーニングに対する考え方が大分遅れているようだ。
魔族の人間性?自体、周囲への気遣いよりも自分のことが最優先になっている節がある。
もう少し協調性を持たせる事ができないもんかね。
今後の課題だな。

ジム見学はここまでにして、そろそろゼファの所に向かおう。

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