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第3話 ちょっと何言ってるのかわかりません

商業都市シャドウヴェイル
かつて人間の商人が訪れ魔族と交流を持った事がきっかけで商業が発展したとされる都市。
人間でありながら魔族に偏見なく接したその商人は、それも一つの強さの形と魔族からも受け入れられたと伝えられている。
その商人は特に薬学に詳しく、当時疫病に苦しんでいた魔族を多く救い慕われたという。
商人は人間領に戻ると、魔族との親交を理由に裏切り者と処刑され、ますます魔族と人間の溝は広がっていった。
以降、魔族と人間の交流は戦争以外ではないらしい。そんな交流ならない方が良いんだが。

ちなみに、ここに来るまでの間に魔王の加護の効果を少し制御できる様になった。
俺が敵意を向けない限り、すれ違う人たちに対する影響は全くない。
アルスとセニアの俺に対する恐怖がようやく緩和され、少しだけ対応が普通になったのには正直助かる。
俺としては敬語すら使わないで欲しいがそこまでは贅沢だろう。
不敬罪とかでまた死のうとされても面倒臭いし。

変わったことがもう一点。
頭の中で会話していたはちべえを具現化した。頭の中で会話するより周囲にも認識して貰った方が色々話が早い。
見た目は『はちべえ』の名前の由来でもある小さいころから一緒に暮らしていた豆柴にしてみた。
醤油顔が愛らしすぎる。もうこれ以上チートは使わない。
生命に関与するのは色々まずいだろう。

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ふーむ……
商業都市という割にはなんというか…空気が殺伐とし過ぎている気がする。

町の作りは中世ヨーロッパ風というか非常に統一感があって美しさすら感じる。
初めて見る魔族の都市だが人間のそれと殆ど変わらない。角があったりなかったり尻尾があったりなかったり、肌の色が肌色だったり青かったりなど…
容姿の違いはあるが基本人間と同じだ。
ちょっと人間と人間と比べると筋肉の主張が凄い気がするけど。

なんというかものすごい剣呑とした雰囲気に包まれている。
道行く人々の目が血走りまくり怒号や罵声に溢れ、すぐにでも喧嘩が始まりそうだ。
というよりそこら中で喧嘩が起きてるわ……。

「この都市は……か、活気に溢れていますね…」

「ここは別名『魔族の病院』と呼ばれている都市です。人間の商人によって広がった交易拠点でして、多くの魔族が治療を目的に集まります。」

アルスが俺の問いに答える。

「皆さん治療を求めてこちらに?」

「ええ、薬から始まって、今では医療の中心地となっています」

「…その割には何故か皆さん血の気が多いような……」

「薬を求めて、というよりどちらかといったら『戦いの為』が正解ですわ」

「え?」

この人急に何言ってるの?どういうこと?

「怪我してもすぐ治療できるので安心ですw」

「…どういうことですか?」

「魔族は生まれた時から死ぬまでずっと戦士です。そこに性別や年齢は関係ありません。」

「どうしよう会話が成立しない」

「私たちは怪我は恐れませんが、怪我の影響で一時的にでもトレーニングが出来なくなったり戦えなくなることを恐れます。その為に医療が発展したといっても過言ではありません。」

好きなもん好きなだけ食べる為のダイエットみたいなもんかな…?
全然わからんけど。

「なる…ほど……?」

「まあそうは言っても腕の一本や二本もげても魔族は戦うことやめませんけどねww」

「我らは大して強くないけどなw」

「駄目だこの脳みそ筋肉集団……何言ってるのかわからない。」

「「テレテレ//」」

「褒めてないからね!?」

「ではそろそろ、この地を収める魔王軍四天王の一角、『深海の支配者』アクアスに会いに行きましょう魔王様」

「(…中二病が過ぎる)」

「アクアスに会うのも久しぶりだな」

「あの、お2人は四天王の方々と面識は……?」

「もちろんありますわ。というより魔学校の同期なんです。」

「へー魔族も学校があるんですね……」

「はい。全ての魔族が通う、次世代の魔王軍を育てる学校です」

「へー機会があれば行ってみたいですね」

そんなこんなで2人と雑談しながら町を歩くことしばらく……。
そこそこ大きめの神殿のような大きな建物に到着。
建物の周りを屈強な男たちが常に巡回しており、下手に侵入すれば殺されるだろうと思わせる迫力がある。
2人によると水の神殿と呼ばれるこの都市の中心地らしい。
中に入ると先ほどよりも多くの魔族が歩き回っている。
とりあえず最初に目に入った二人組の魔族に声をかけてみる。


「すみません……」

話し掛けた魔族は一瞬ギョっとする。
いきなり宙に浮かぶ赤ん坊に話し掛けられたらそりゃそうか。

衛兵A「ッ!ここはガキ、というか赤子が入っていい場所じゃないぞ!!さっさと帰れ!!」

衛兵B「お、おい!幻視の結界はどうなってる??」

スタスタスタスタ ガシッ
「……あなた方誰に向かって口をきいているかわかっているの?」ワナワナワナ

衛兵A「な、なんだ貴様は!?」

「ちょっ、アルスさん!セニアさんも止めて下さい!!」

セニアの方に視線を送る。

「魔王様に対する不敬…死をもってしても償いきれんぞこのゴミどもが…」

同じように衛兵の胸倉を掴んでいた。
こいつに期待した俺が愚かだったわ。

「いや、死んで償うとか大げさでしょ……」

「返事はどうしたのかしらぁ……?」ニチャァ

衛兵A「………なんだこいつら?」

衛兵B「お、応援呼ぶぞ!」

これ以上騒ぎが大きくならないうちになんとかしないと。
……仕方ない、加護の制御を一旦解除して2人に俺の言うことを無理やり利かせよう。

「「「「!!??」」」」ビクッ

それまで抑え込んでいた恐怖のオーラが溢れ出す。
無関係の2人も巻き込まれてるのは仕方ない。
ごめんね。

「……アルスさん?……セニアさん?」

「「はははははいぃぃぃぃぃいい」」ビクビク

2人とも脂汗まみれとなり歯をガチガチ鳴らしながら瞬時に正座して震えている。

「とりあえず、一旦落ち着いて話しましょう。全然俺は気にしてませんから。いいですね?」

2人を見つめながらしっかり念押しする。

「「もももも勿論ですぅぅ!!」」コクコクコク

衛兵A「な……なん…という威…げ………」ガクッ バタンッ

衛兵の二人は泡を吹いて倒れてしまった。
何それそれはいくらなんでも大袈裟でしょ…

「え?ちょ、マジ??さすがにそれは失礼じゃない!?人の顔見て気絶したの??」

ザワザワガヤガヤ
2人の傍に移動して肩を揺するが返事がない。
ちょっとそこの二人嬉しそうに笑ってないでこの状況なんとかしろよ。

衛兵C「おい!何を…騒いで……い……」ヒイィィイ

衛兵D「お前ら…ここ…が……ど…こだ…」バタンッ

「…………」

もうやだこれ、カオス過ぎるだろ。
どこいっても魔神の加護の制御は外せないな。ハーレムに支障がでるわ。

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