229 論功行賞②
階段を上り、開いた扉を通り抜ける。
そこは天井の高い、広い空間だった。
さまざまな彩飾が施された壁。細部に至るまで、職人の手が入り込んだ、見るも豪華な内装は圧巻の2文字だった。
天井の丸屋根からは陽の光が差し込み、青と黄色のステンドグラスに反射して、それが広間に降り注ぐ。
――ザァ~!
光とともに、拍手の雨が、入ってきたウテナに、皆に降り注いだ。
見れば、メロの国を代表する公爵の面々をはじめ、国の有力者多数、その子息、また近隣諸国の代表まで居合わせて、所狭しと陳列している。
皆、白装束に身をまとい、頭にはそれぞれ色や模様の違う布を頭に巻き、黒いロープでとめるクーフィーヤを被っていた。
「えっ!?こんなに豪華なの!?」
「他国のお偉いさんまでいるなんてね……」
内装の豪華さはともかく、予想を上回る人の多さとそのメンツぶりに、ライラとフィオナは驚いて顔を見合わせた。
「えっ?……えっ?」
ウテナに至っては、もはや、パニック状態。
後ろを振り向き、フィオナに目線で語りかける。
……あっ、あたし、ダメかも~!
ウテナの顔を見たフィオナは、力強い目線で返した。
……がんばって、ウテナ!
……ひぇ~!
「へっ!」
オルハンだけ、大して面白くなさそうな顔をしていた。
「功労者!前へ!」
拍手の中、よく通る声が響いた。
キャラバン、護衛の代表が、歩を進める。
「……護衛隊長」
フェンが、護衛隊長に声をかけた。
「どうした、宮殿内に入ると、私語は禁止だぞ。拍手が鳴り止む前に言いたまえ」
目線は前を向いたまま、護衛隊長は言った。
「いつもこんな感じなのか?論功行賞というものは。隊長は過去にも出たことはあるんだろう?」
メロの論功行賞は、ワイルドグリフィン、デザートランスコーピオンなどの獰猛種の生物、またジンなどといった驚異から国を守ったという功績を称える催しであり、護衛達の祭典という認識が、皆の認識だった。
「……」
フェンに言葉を急かした割に、護衛隊長は少し答えるのに時間がかかっている様子だった。
「護衛隊長?」
「いや……」
護衛隊長は、ようやく口を開いた。
「正直、驚いている。こんなに人が多いのは、おそらく、私がこれまで参加した行賞の中で、初めてだ」
「ほう」
「もっと、身内感のある、和気あいあいとした雰囲気の中で、行賞は行われる。私も少し、事態が飲み込めていない」
「なるほど」
「行賞に、他国の有識者を呼ぶなんてことは、まずない。公爵も、全員が出席しているのを、いま、初めて見た」
「……どうして、こんなことに?」
「私が知るよしもない。ただ……」
「ただ?」
「一つだけ、言えることは、今回の行賞には、これまでと違う部分が、明確にある」
「それは?」
「君たち、キャラバンがいるということだ」
「……」
「……」
フェンも護衛隊長も、自然と話すのを止めた。拍手が、止んできたからだ。
静かになったところで、皆が見えるように一段高く設けられた即席のステージ上に、一人の男が立った。
……あの男は……!
フェンはステージの上に立った男を凝視した。
「皆さま!この度はお集まりいただき、誠にありがとうございます!」
赤いチェック柄のクーフィーヤを被り、中年にしては若々しい声と、全身から気迫を感じさせる人物だった。
「メロ共和国公爵、アブドでございます!」