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第33話 作戦決行③

 俺は階段を駆け上がる。
 なんか……やたら兵士がいるのだが、既に30人以上倒しているような気がする。
 まさかと思うが、サクラが何かやっているんじゃないだろうな。

 銃撃が止んだので、兵士はほぼ壊滅したと思う。
 念のため死角も確認してみたが、隠れている者が見当たらないのでサクラと合流することにした。

 サクラがいる会議室のドアを開けると、ゴディと10人程の兵士が待ち構えていた。
 サクラは俺の顔を見るとゆっくり立ち上がり、目の前の机をゴディに向かって蹴り飛ばした。

「紗倉……貴様!」

 ゴディが真っ赤な顔で怒鳴る。

「あんた達みたいなバカどもに従う訳ないじゃん。捕虜は全て救出したし、あんた達はここで全滅するんだよ。ざまあみやがれ、バーカバーカ!」

 サクラ、相変わらず口が悪いな……。
 というか、子供か?

「ぐぬぬ、こいつらを皆殺しにしろ!」

 ゴディがそう命令した瞬間、サクラの姿が消えて親衛隊員2人が宙を舞っていた。
 俺も親衛隊員1人を仕留める。

 それを見たゴディはこちらに何かを放り投げた。
 サクラは瞬間的に背中を向けたが、俺はうっかりその軌跡を目で追ってしまった。
 だが、それは閃光玉だった。

 俺は目が見えなくなり、無防備な姿を晒すことになってしまったのだ。
 ゴディはその隙を逃さず、俺に向かって銃を向けた。

「カトー!」

 サクラの声と銃声が同時に聞こえた……。
 俺の体は無事だ……。
 だが、俺の体に何かが被さっていることに気付く。甘くいい匂い……サクラだ。

「サクラ!サクラ!」

「カトー……油断するんじゃねえよ……大丈夫だ、まだなんとか体は動く……。気配だ……気配を感じて戦うんだ。お前ならやれるはずだ……」

 サクラの重さが感じられなくなると同時に打撃音が聞こえてくる。
 サクラが戦っている……。

 俺はサクラに言われた通り、気配を読んで銃を撃つ。手応えは分からない……。
 打撃音とサクラの叫び声がまだ聞こえる。サクラは無事なのだろう。

 少しずつ視力が回復してくる。
 ぼんりやりとサクラがゴディと戦っている姿が見える。
 他の親衛隊員は全て倒されているようだ。

 サクラ……血まみれじゃないか……。
 特に頭から大量に出血しており、その出血で恐らく目が見えていない。目をつぶったままで戦っているのだ。
 俺は慌てて援護射撃をするが、ゴディには当たらない……。

 やがて、ゴディの蹴りがサクラの頭部に直撃する。
 サクラの細い体が宙を舞い、俺の目の前にゴロリと転がった。

「くそう、お前らは一体何者だ。特にこの女……頭を撃ち抜いたはずなのに何故戦えるんだ……」

「サクラああああ!」

 俺は激しい怒りを感じていた。
 ゴディに飛びかかり、何度も蹴りを叩き込む。
 ゴディはサクラとの死闘で負傷しており、疲労もピークに達していたようだ。
 次第に俺の攻撃が当たるようになり、ついにトドメを刺すことができた。

「ボス!敵を全滅させましたが、サクラが頭部を撃ち抜かれる重傷を負いました。今から転送するのでナカマツを準備させてくれ!」

 俺はサクラを転送させた。
 一緒に帰還したかったが、俺にはまだやるべき仕事が残っている。エディとともにこの戦艦を破壊することだ。

 ――

 カトーの報告を聞き、私とナカマツは転送されてきたサクラの元へ駆けつけた。
 サクラは全身血まみれで、誰が見ても重傷と分かる状態だった。

「これはマズイ……心肺が停止しています。すぐに蘇生処置を開始しますが、ハカセ君は治療装置の準備をしてください」

 私は治療装置の電源を入れ、治療液の注入を開始した。

 ナカマツは蘇生装置を使用しながら、頭部の傷を確認している。
 銃弾が頭部を貫通していたため、銃弾を取り除く必要がないようだ。
 傷を軽く縫い合わせると、治療装置に蘇生装置ごとサクラを繋いだ。

「サクラは大丈夫だよね……?」

 私は泣きそうになるのを堪えながら、ナカマツに尋ねる。
 ナカマツは黙ったままサクラの容態を確認し、静かに首を振った。

「蘇生装置で心臓マッサージを行っていますが、まだ心拍が戻りません……出血量も多すぎますし、頭部のダメージも極めて大きいです……」

「そんな……ナカマツ!なんとかして!サクラも目を覚まして!私を美人にしてくれるんでしょ!約束を……守ってよ……」

 泣き崩れる私の頭をナカマツがそっと撫でてくれる。
 そういえば、私が泣いているとき、いつだってサクラが頭を撫でてくれたんだ……。変わり者だけど優しいお姉ちゃん……それがサクラだった。

 ボス、カトー、エディの3人が駆けつけてきた。
 どうやら全ての目標が達成されたらしい。

「サクラの状態はどうだ?」

 ボスがナカマツに尋ねる。

「見ての通り、まだ心肺停止状態です……この状態ではまず助からないですが、サクラ君の回復力や生命力なら奇跡が起こるかもしれません。できることはやりましたので……あとは祈るだけです」

「俺のせいだ……俺が油断したばかりに、サクラをこんな目に……サクラは俺を庇って撃たれたんだ。サクラが庇ってくれなければ俺がこうなっていたんだ……」

「カトー、自分を責めてはいかんよ。責任は全て私が負うと言ったはずだ」

「サクラ……あいつ凄いんだよ……頭を撃ち抜かれたのに、敵の兵士を何人も倒した上にゴディと互角の戦いをしたんだ……。そんな凄いやつがこんなところで死ぬもんか!」

 だが、サクラの心音は聞こえてこない。
 私達はただ黙ってサクラが帰ってくることを祈り続けていた。

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