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【三十一】三日月の夜


 今宵は、三日月が覗いている。俺が窓際でそれを眺めていると、後ろからそっとロイが俺を抱きしめた。

「ジーク、お前が欲しい」
「俺も」
「――今夜は、三日月が綺麗だな」
「うん」
「俺の子供を産んでもいいと思ってくれるか?」
「うん、うん。ロイ……俺、ロイと家族になりたい」
「もうとっくに俺は、家族のつもりだ。だが、お前との愛の結晶が欲しい」

 ロイはそういうと、俺の顎に触れ、顔を傾けキスをした。
 そのままロイは俺の腕を引き、寝台へと押し倒した。

 ――結婚式が、迫ってきたのは、その翌週の事である。
 俺は日中、準備に追われた。だが、ロイは素知らぬ顔で、その日も俺を寝台へといざなった。俺はロイに抱き着き、下から貫かれながら、乳首をかまれてポロポロと涙を零す。気持ち良すぎて、何度も首を振り、許してくれとお願いしたけれど、ロイはさらなる快楽を俺に叩き込むのに熱心だった。

「好きだ、ジーク。愛している」

 俺はロイの事しか考えられず、無我夢中でキスをねだった。

 そのようにして、俺達は結婚式当日を迎えた。師匠の事も、フォードの事も、ラキやユースの事も招いた。魔王軍の四天王だとか、俺がまだあった事の無い、ロイの友人達もいる。

 俺達は、祝福されて、結婚した。
 誓いのキスをしながら、俺達は見つめあい、そしてほぼ同時に両頬を持ち上げた。

 ――こうして、初夜が訪れた。
 今までも体を重ねていたのだが、結婚してからは初めての夜だ。俺は、入浴後、ベッドに座っていた。するとロイもお風呂からあがって、顔を出した。ロイは、俺の隣に腰かけて、俺の肩を抱き寄せる。

「ジーク、俺と結婚してくれて、本当にありがとう」
「俺の方こそ……ありがとうな、ロイ。んン」

 俺の唇を、ロイが奪う。濃厚な口づけに、既に快楽を覚えさせられた俺の体は、すぐに熱を孕んだ。そのまま、ロイが俺を押し倒した。俺はロイを見上げて、嬉しくて涙ぐむ。ロイの事が大好きでたまらない。

 ロイに愛されている実感で、胸が満たされている。
 ロイの愛情が、自分に注がれているのが分かって、それがどうしようもなく嬉しかった。

「ロイ、愛してる」
「俺もだ。ジーク、ずっと共に、生きよう」

 この夜の俺達は、何度も啄むように口づけをしながら、穏やかに抱き合った。

 ――俺の懐妊が判明したのは、その二ヶ月後の事である。実感がわかなくて目を丸くしていた俺を、医師から説明を一緒に受けたロイが抱きしめた。その知らせは、すぐに魔王城……いいや、魔王国中を駆け巡った。

 お祝いムード一色に染まった魔王国の王都を、俺は城から眺めていた。
 時に腹部に手をあてがい、ここにロイとの愛の結晶がいるのかと不思議な気持ちになる。魔力によっての妊娠であるから、腹部が胎児により膨らむなどの現象はない。それは神話の中に存在する女性神のみが持つ特徴で、一般的な俺達男は、生まれてくるまで、特に見た目には変化がない。だから全然、実感もわかないというのに、周囲、そして特にロイが、俺の体を気遣った。

 ただ、俺も無事に生まれてほしいと祈っていたから、周囲の気遣いは、温かく優しく思えた。

 魔族の子供は、二年かけて生まれてくる。人間よりも一年長い。その代わり、人間よりも成長が早く、人間でいう一歳に、生後三か月程度で成長するのだという。俺とロイの子供であるから、次の魔王は、半魔となる。

「名前、どうしような?」
「そうだな。ジークは、好きな石は?」
「ん? 石? 俺は、そうだな……アメジストが好きだ」

 なにせ、ロイの瞳と同じ色だ。するとロイが頷いた。

「では、メジスとしよう」
「へ?」
「アメジストからとって」
「あ、ああ。いいのか? それで?」
「ジークの好きなものが名前に入っていたら、きっと子供も喜ぶだろう。俺は今から怖いことがある。子供とだけは、ジークの取り合いをしたくないものだな」

 そう言って俺を抱きしめたロイの表情は、明るくて眩しかった。嬉しくなって、俺はロイに抱き着き、額をその胸板に押し付けた。

 それから――二年後。俺は三十一歳になったが、外見は変わらないままだ。
 人間の各国と、魔王国の和平条約は、大半が締結した。
 今、大陸は安定しつつある。

 魔物の討伐一つとっても、魔物が魔族と違うという理解が広まり、魔族と人間が共同で討伐する事も増えた。俺はそんな大陸新聞の記事を見ながら、生後半年になる我が子を抱いている。成長が早いから、人間でいうところの、一歳くらいに見える。つむじの向きは、ロイにそっくりだ。手伝ってくれる家庭教師もいるのだが、俺はついつい可愛くて、自分で育児をしてしまっている。魔王であるロイの、後継者の出生に、魔王国はもうずっとお祝いムードだ。メジスと名付けた黒髪で茶色い瞳をしているこの子は……一見した限り、非常に愛くるしいので、多分俺ではなくて、ロイに似たのだと思う。目の色だけが、俺に似ている。

「ジーク」

 そこへロイがやってきた。俺がメジスを抱いたまま顔を上げると、歩み寄ってきたロイが優しい顔をしてから、俺の頬にキスをした。

「俺にも抱かせてくれ」
「うん」
「――ジークごと」

 ロイは片腕でメジスを抱き、もう一方の手で俺の腰を抱いた。それが嬉しくて、笑ってから俺は、ロイの頬に自分からキスをする。俺は現在も、ロイに溺愛されている。

 今後、俺はどんな困難があろうとも、ロイと、そして愛息子のメジスと、家族みんなで乗り越えていきたいと思う。今、俺は幸せだ。俺に幸せをもたらしてくれたロイを、俺は生涯愛するだろう。




 ―― 完 ――

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