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【二十】ミミルネ山脈へ


 冒険者ギルドの宿の部屋で、俺は寝台に寝っ転がり、天井を見上げた。
 ギルドごとに室内の造りは異なる。

「次は何処に行こうかな」

 ぼんやりしながら、俺は呟いた。目を伏せ、横になったままで首を傾げる。

「国境があるんだったな」

 目を開けて、俺は外国について考えた。この王国と、隣のアーゼアナ連邦は、同盟国だと聞いたことがある。勇者の旅路も支援してくれると、俺が神託を受けた直後に、聞かされた記憶がある。魔王国にも隣接しているという。

「まだハロルド達は、王国から出ていないみたいだよな。十一年も王国で何してたんだろうな。レベルを上げていたのか? その割に、新聞の情報だと、俺よりもレベルは低いんだよな……」

 唸ってみたが、よく分からない。
 この日はゆっくりと休み、翌朝俺は階下に降りた。そして依頼書を見る。
 ここにはやはり、アーゼアナ連邦関連の依頼も多数あった。

 俺は、過去には、外国に行くなんて、一度も考えた事はなかった。ただ、旅を始めた今、興味がないといえば嘘になる。言語は、大陸共通語だから、王国と同じだ。これはどの国も、この大陸では同一だ。時間や暦も、大陸では統一されている。

「……」

 俺はクエストボードの隣に貼り付けられていた、大陸地図を見た。
 アーゼアナ連邦に行くには、ミミルネ山脈を越える必要がある。非常に険しい山で、一番上は万年凍土なのだという。ずっと雪と氷があるそうだ。もう一度依頼書を見ると、ミミルネ山脈の頂上に、食糧を届けるという依頼があった。

「どうせアーゼアナ連邦に行くんだから、ついでだしな」

 俺は一人頷いて、その依頼を引き受けた。
 その後街で旅支度を整えてから、俺は登山を開始した。人生で初めての登山だ。進むにつれて道は細く険しくなっていく。どんどん寒くなっていった。明るい内に出発したのだが、中腹につく頃には、既に月が傾き始めていた。そこにあった洞窟で一夜を過ごし、翌日も俺は山を進む。何度か途中で野宿をし、目的の山頂についたのは、五日目の事だった。雪と氷に覆われた山小屋が、そこにはある。俺は扉をノックしてから、静かに開けた。

「おお、冒険者さんかい。食糧は、助かるねぇ。ありがとうよ」

 ずっと山小屋で暮らしているのだという番人のお爺さんが、笑顔で俺から食糧を受け取った。この日は、そこで休ませてもらう事になった。俺の他にも旅人の姿がある。

「今日は三日月の夜だなぁ」

 旅人の一人が、そう呟いた。俺は何気なくそちらを見る。すると目が合って、壮年の旅人が、俺に笑いかけた。

「知ってるかい? にいちゃん。三日月の夜は、魔王の力が弱まるんだとさ」
「そうなのか?」
「ああ。倒すなら、三日月の夜だな。もっとも、俺は冒険者稼業は引退したから、今は気ままなただの旅人だがなぁ」
「ふぅん?」
「にいちゃんは、冒険者だろ?」
「ああ、そうだ」
「下る道に、難攻不落のダンジョンがあるの、知ってるか?」
「え?」
「なんでもレベル999のSSSランクじゃねぇと入れないんだとさ。そんなもん、魔王くらいしかいないだろうになぁ、この世界には」
「……そ、そっかぁ」

 俺は笑顔で濁した。少なくとも、俺もそうだし、ロイもそうだ。魔王以外にも、そのレベルとランクを保持している者は、全然存在している。

 そんな雑談をしてから、俺は毛布にくるまって眠った。
 そして翌日別れを告げて、下山を開始した。ただ旅人のおっさんの話が気になっていたから、途中でダンジョンの気配を探った。すると、雪で造られたトンネルがあって、氷で舗装されているかのような道が続いていた。奥から魔力の気配がする。俺はそちらに進むことにした。

 中にはモンスターがいた。多くは、スライムだった。スライムならば、俺の得意な敵だから、お手の物である。スライムを倒しながら、俺は進んでいき、最深部でボスを視界にとらえた。頭が二つある巨大な犬型のボスだった。属性は、水のようだ。俺は火属性の魔術を放ち、ボスを倒した。するとその場に、煌めく球体が現れた。

「ん?」

 既視感がある。俺が手を伸ばすと、それは手のひらサイズになった。

「これ、ジャネスがくれた宝玉にそっくりだな?」

 不思議に思いつつも、俺は二つ目の宝玉を、カバンにしまった。
 それで満足したので、その後はまっすぐ、下山した。

 そうして、俺は初めての外国――アーゼアナ連邦へと入国した。冒険者証が身分を保証してくれるので、冒険者は自由に大陸を移動可能だ。足を踏み入れたのは、連邦の西地区だった。獣人集落があるそうで、人間と獣人が半々くらい通行していた。獣人は、基本的に人間と類似した姿なのだが、頭部に獣のような耳があったり、尻尾があったりする。俺は早速猫獣人や兎獣人を見かけた。

 なお、冒険者ギルドは各国の各街全てに存在する。例外は、魔王国のみだ。
 魔王国には、存在しないと聞いたことがある。

 俺は街路を歩いて、少ししてから、カフェに目を止めた。まだ今日は一食も食べていないから、少し口にしたい。そう考えて中へと入り、俺はミルクティーとホットサンドを注文した。そして二人掛けの席に座る。

 手を拭いてから、俺はホットサンドを一口食べた。
 そうしながら考える。
 ロイは、この国にいるだろうか? 会いたい。




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