【五十三】アプリのゲームとコンビニ
青波さんが手渡したタブレット端末を見て、山縣は険しい顔をしている。
「青波」
「やっぱりこの依頼は引き受けられないか?」
「――いいや、俺が個人的に追いかけていた。絶対に許すつもりがなかったからな。三つ路地を先に行ったところコンビニで、毎日唐揚げ弁当を買う、イフェナンスっていうアプリゲームを開発している会社の代表取締役社長の家にいけ。そこに、十六夜がいる」
「!」
青波さんが驚愕したように目を丸くしてから、無言で立ち上がった。
そして僕が珈琲を振る舞う前に、足早に帰っていった。
十六夜という名前に、僕はカップを置いてから、息を飲む。
すると立ち上がった山縣が、僕をじっと見据えた。
「安心しろ、危険はない。俺がついてる」
「……山縣……」
「春日居は、結局、今後も推理をするという条件で、無期懲役にはなっているが、死刑囚と同じで、身体拘束をされている。危険はねぇよ」
「ねぇ」
「ん?」
「僕は……もう、大丈夫だよ?」
僕が努めて笑顔で述べると、山縣がどこか辛そうな笑みを浮かべた。
「俺が、大丈夫じゃねぇんだよ」
――それから少しして、僕の誕生日が訪れた。
この日山縣は、ソファに座って僕を見ると、優しい笑顔を浮かべていた。
「やっと俺も、素直に祝えるようになった」
「え?」
「俺も大人になったんだよ」
僕は、それからキッチンの方を見る。
そこには、山縣が用意してくれた料理やケーキが並んでいる。
一見しただけでも、やはり僕の作る品とはクオリティが著しく違う。
たとえば僕の用意したケーキとは異なり、山縣が作ったものは、どう見ても、専門のお店でパティシエさんが作ってくれたようなできであり、輝いて見えた。
料理は、ここ最近は、僕達はほぼ日替わりで作っている。
山縣は、僕の手料理を食べたいと言ってくれるので、僕も気合を入れるのだが、半分は山縣がやるようになった。
「朝倉に、食べさせたいんだよ」
そう言われると、僕は言葉が出てこなくなる。
気を抜くと、他の家事も、全て山縣がやっている。
まるで過去に戻ったかのようだ。
ピシっとアイロンがかけられたシャツ、チリ一つない部屋、的確に分別されたゴミ、なにもかも、やっぱり山縣は、完璧だ。
「僕にもやらせてね?」
「おう。頼りにしてる」
「うん」
「ただ、今のお前は、俺の助手の仕事があるだろ? 昔とはもう違う。俺は、お前がいねぇと推理もできないし、お前がいるから頑張れるんだよ」
山縣の言葉に、僕の胸は満ちる。