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第十七話 【王国】


 私は、連合国近くの城塞都市に、店舗を構える商人だ。
 行商から初めて、城塞都市に店舗を持つ事ができた。商才は、それほど持っていない。自分のことなので、よくわかっている。一つの店舗を回すだけで精一杯だ。店舗を持てたのも、運が良かったに過ぎない。

 行商は続けている。
 王国に属している城塞都市だが、食料が絶対的に足りていない地域が多い。
 慈善事業ではないが、やはり感謝されると嬉しく思える。行商の醍醐味の一つだと言える。

 そんな私が、店舗を持てたのは、嫁の言葉と獣人のおかげだ。

 王国は、獣人を奴隷として使いつぶす事で国としての基礎を維持してきた。
 しかし、噂レベルの話として、奴隷狩りを専門にしていた奴隷商が奴隷狩りに失敗している。らしい。

 私の店では、獣人は奴隷として使っていない。
 人族と同じ契約で、従業員として雇い入れている。嫁の言葉で”奴隷として使いつぶすよりも、人として接して、信頼関係を築いたほうが、何倍も能力を発揮してくれる”と言われて、試しに獣人の家族を雇った。
 最初は、獣人も私も戸惑ったが、話をするようになってから、変わった。

 獣人たちは、護衛としての役割を持たせたのだが、子供は流石に護衛として雇うことは出来なかった。子供には、文字を教えて、簡単な計算を教えた。食事を与えることを条件に出したら、喜んでくれた。

 行商に出る時に、嫁の護衛として獣人の女性を雇った。

 護衛としては、前は奴隷を使っていたが、奴隷として使うよりも、必要な経費は増えた。しかし、安心を感じるようになった。
 嫁がいう様に、信頼関係を構築するように行動した。その結果、夜は獣人だけで野営を行っても問題にはならなくなった。それだけではなく、元奴隷で野盗に落ちた者たちとの交渉が可能になり、私は行商で安全なルートが確立できた。

 獣人の子供たちを、安全な場所で嫁が文字と計算を教える。
 それだけで、獣人たちは、私と嫁を信頼して命を預けてくれる。

 護衛の最中に命を落した獣人が居た時には、自然と涙が流れ出た。
 今まで、考えられなかったが、獣人の村への行商を行うようにした。これが、また私に(うん)を運んできた。

 王国の王都を中心にしていたが、獣人を使う行商を嫌う者も多い。
 また、従業員である獣人たちを下賤な目で見る者たちに我慢が出来なかった。

 嫁にも相談をした。連合国の国境近くにある城塞都市に移動した。

 城塞都市にあったギルドは、連合国のギルドの改革で、獣人よりのギルドマスターが支配するようになった。
 もともと、城塞都市には獣人との融和を考える者たちが多かった。

 そうでなくては、獣人を戦力と考える場合に、奴隷として扱うのが王国では一般的だ。しかし、傭兵として契約を行ったほうが、戦力として効率がよかった。城塞都市では一部の守備隊は獣人族で構成されていた。

 嫁の助言に従って、城塞都市を中心に行商を行っていた。

 城塞都市の周りには、隠れた獣人族の集落があった。
 私の従業員が根気よく集落を訪れて交渉を行った結果、取引が可能になった。

 それからは、早かった。
 爆発的に売り上げが上がったのは、文字と計算を教えた子供たちを、獣人族の集落に向かわせて、数日だけの露天を開かせてからだ。

 獣人族は子供を大事にする。
 私の店で働いている子供たちが、自分の意思で働いているのは見れば解る。それで、信頼を得て、集落での商売が許可された。

 それから、ほどなくして新生ギルドから連絡が入って、城塞都市で店舗を持たないか?という連絡だった。条件は、ありえないほどに優遇された物だ。まず、店舗はギルドの近く。寮として使える建物まで付いていた。

 新生ギルドは、店舗を提供する条件を提示してきた。

「旦那様?」

「ギルドの話は受けようと思う」

「しかし・・・」

 従業員として契約して熊族の若者だ。
 初期メンバーで、私の護衛を主に担当している。商売も覚えて、私の代わりに行商を仕切ることもある。

「大丈夫だ・・・。噂を聞いた限りでは、魔王ルブランは獣人族との融和を推し進めている」

「しかし・・・」

 彼が心配するのも理解できる。
 魔王ルブランの領域に辿り着ければ問題がないのは解っている。しかし、魔王ルブランの領域に至る経路が、神聖国を通るか、連合国を通るか、”不帰(かえらず)の洞窟”を通り抜けるのかになってしまう。”不帰(かえらず)の洞窟”は、ダンジョンの一つなので、通り抜けるだけなら問題にはならないが、ダンジョンにアタックできない半端者たちがたむろして行商を襲う可能性がある。
 荷物が奪われるだけなら、まだましで、従業員を殺される可能性があるのなら、考慮すらしたくなかった。

 何度か、新生ギルドと話し合いをしていた。
 そこに、信じられない話が飛び込んできた。

「”不帰(かえらず)の洞窟”の魔王が、魔王ルブランの配下になった?」

「えぇ今朝がた、カプレカ城塞街にある新生ギルド本部から通達が届きました」

「それなら!」

「そうです。”不帰(かえらず)の洞窟”の魔王。今は、魔王カミドネと名乗っているようですが、カミドネの街を使えば、魔王ルブランの支配する地域に安全に迎えます」

「一度、魔王カミドネの街に向かってから、その先を判断したいのですが?」

「それは、任せる?受けてくれるのか?」

「はい。店舗も魅力的ですが、それ以上に従業員の寮がついてくるのがいいですね。魔王ルブランの支配領域にも興味があります。私の所に居る従業員の家族が住んでいる可能性がある」

 店舗を持てるのは魅力的だ。
 従業員の寮も凄く嬉しい。それだけではなく、魔王ルブランの支配領域に興味があるのは、私の所に居る従業員の少なくない者たちが、噂話として魔王ルブランの支配領域に家族や知り合いが居るらしい。
 新生ギルドから得られた名簿に名前が乗っている者や、名前を持たない者でも出身(奴隷になった場所)などが、酷似している者が多い。

 魔王ルブランの支配領域である。カプレカ島でギルドの仕事を手伝っているようだ。

 新生ギルドから戻ると、護衛たちが準備をしていた。

「おまえら?どうした?今日は・・・」

 ”休み”という言葉を飲み込んだ。

「旦那様。水臭いですよ。魔王ルブランの所に行くのですよね?」

「どうして?」

「奥様が、旦那様なら1人で行こうとするだろうとおっしゃって・・・。それで、俺たちは、旦那様の護衛です。置いて行かれないように準備をしていました」

「しかし、魔王カミドネが魔王ルブランの配下になったからと言って安全ではないぞ?」

「旦那様。それなら、余計に俺たちを連れて行かないと・・・。旦那様は、俺たちの希望です。旦那様のおかげで俺たちは、こうして尊厳を持って生きていられます。子供たちも、集落で必要だと言ってもらえています。旦那様。お願いです。俺たちを連れて行ってください」

 周りを見回すと、護衛以外にも集まってきている。

「わかった。ただ、こちらにも残って店舗の準備や嫁の護衛を頼みたい」

『はい!』

 周りに居た20名近い者たちが声を揃えて返事をする。

 それからの行動は早かった。
 私が指示を出すまでもなく、自ら考えて護衛を分ける。店舗の準備に残る者も選別する。

 私は、確認と少しの修正を行うだけで、準備が終わってしまった。

 これが、嫁が言っていた信頼関係を築いた結果だ。

 護衛を5人に絞った。
 魔王ルブランの支配領域に知り合いが居る可能性がある者たちだ。

 魔王カミドネの支配領域に入るまでに、連合国に属すると思われる者たちに襲撃を受けたが、士気が低いのか最初の攻撃で、逃げてしまった。獣人だけだと思って甘く見ていたのだろう。3回の襲撃もけが人さえも出さないで撃退した。
 あれだけ恐れていた連合国の者たちだが、怖いと思えなかった。甘く見るつもりはないが、これなら行商で訪れるのも可能だろう。

 魔王カミドネの支配領域も獣人族との融和政策が進んでいる。
 人族は殆ど存在しない。獣人族の街だと言ってもいいだろう。そこで、魔王ルブランの支配領域であるカプレカ島の話を聞いた。

 魔王ルブランの支配領域までは、魔王カミドネの街で雇った護衛が一緒に行くことになった。

 カプレカ島までは、王国を渡り歩くよりも安全なくらいだ。カプレカ島まで整備された道が通っていた。

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