k-119
18:00
冒険者ギルドを出た俺は、解体屋に寄った。
解体屋では、丁度サーペントの解体が完了したところだった。
サーペントは鱗、肉、牙、毒腺に分けられていた。
鱗はスケイルメイルなど防具の素材としてかなりの需要があるらしい。マルゴの店に寄って直接売ることにしよう。
肉は美味いのかもしれないけど、俺はちょっとノーサンキューかな。解体屋にサーペントの肉を金貨八枚で売却した。
なぜ、こんなに高い金額がするのか俺にはわからなかったが、あのウネウネとした気持ちの悪い姿を見ているだけに、食べる気にはサラサラなれない。
牙、毒腺は何かに使えるかもしれないので、受け取っておいた。
19:00
マルゴの武器防具店のドアを開けると、マルゴとサラサが濃厚なキスをしていた。キスに夢中で、俺には全く気がつかない様子だ。
お熱いことで。
――俺は、思わず開いたドアをパタンと閉めた。
さ、アッシュ。邪魔者は帰ろうな。
死んだ魚の目になった俺をアッシュが見上げて、もの悲しげに「クーン」と鳴いた。俺の癒しはお前だけだよ、アッシュ……。
アッシュの可愛さに癒されていると、マルゴがあわてて頭をかきながらドアを開けてきた。
俺は、サーペントの鱗を中に運び入れる。
そして、サラサの出してくれた紙に『サーペントの鱗』と書いてから、指をくるくると回し、取引のジェスチャーをした。
すると、サラサの目が一瞬にして商人のそれになった。
マルゴと何やら言い争っている様子だ。夫婦なのだから別に争わないでも良いだろうに。
俺は、せっかくお熱いところに水を差すのも嫌だったので、金はとらずにサーペントの鱗を二人にプレゼントすることにした。
紙に「やはり結婚祝いだ」と書いて二人に見せだ。これで、一件落着。
マルゴに「飲んでいかないか?」と誘われたが、今二人は蜜月。
新婚夫婦を邪魔するほど、俺は野暮ではない。「カエル」とランカスタ語で伝えた。
サラサがせめてもと、結婚式の時に出してくれた、高級蒸留酒をもっていってくれと言ってくれた。
サーペントの鱗の価値が如何ほどのものかは不明だが、俺は、ありがたく頂戴することにした。
20:00
鍛冶小屋にサーペントの牙と毒腺を収納した。
これらの実験は、また今度にしよう。毒を舐める元気はない。
今日は色々と疲れたからな。
俺は、シカの干し肉と野菜で簡単な炒め物を作った。
炒め物を酒の肴に、サラサから頂いた高級蒸留主をチビチビとやりながら、焚き火に当たる。
俺は、ふうと息をつく。
「疲れたな……」
人間、一息ついたところで、自分が疲れていることに気がつくものだ。
高級蒸留酒が五臓六腑に染み渡る。パチパチと焚き火がはぜる音、虫の音。久しぶりの静かな夜だ。
――俺はしばらくボーっとした。
良い感じに酔えてきたので、眠ることにした。体を濡れタオルでふき、ついでにアッシュもふいてやった。
歯もしっかりと磨く。
布団に入り、ホッと一息つく。アッシュは早くも、スピースピーと足元で寝息を立てている。
俺は、ランタンから魔核を抜き取り明かりを落とした後、布団にもぐりこむ。
しばらくアッシュの温もりを感じて頬の筋肉を緩めていると、いつの間にか意識を手放していた。
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