エピローグ、その後
--三ヶ月後。
--帝都ハーヴェルベルク 皇宮 謁見の間
皇宮の謁見の間に帝国の重鎮達が居並ぶ。
ラインハルト皇帝夫妻、帝国四魔将、中央軍司令などの帝国軍高官の他、帝国政府高官、皇帝に謁見を許されている上流貴族達である。
ラインハルトが座る玉座の前にジカイラ達五人は礼装で並んでいた。
港湾自治都市群の探索とカスパニア王国軍撃退の戦功叙勲式が始まる。
皇帝ラインハルトが直々にジカイラ、ヒナ、ケニー、ティナ、ルナの順に帝国騎士十字章を胸に付け、握手していく。
ジカイラは、今回の任務の成功で二階級特進し、帝国軍中佐に昇進。
ヒナも帝国軍大尉に昇進。
帝国軍と帝国政府の偉い人々の長い話しが続く。
戦功叙勲式が終わり、解散となった時、ある事件が起こった。
レッドカーペットを歩いて退席していく帝国四魔将達にケニーが駆け寄る。
ケニーは、エリシスの前に跪き、両手を床に着けて懇願する。
「エリシス・クロフォード伯爵! お願いがあります! ルナちゃんを僕に下さい!!」
玉座の間に居る全員が驚き、エリシスとケニーに注目する。
ルナが跪くケニーを見て呟く。
「ケニーたん・・・」
ルナは軍属ではなく、エリシスのメイドであるため、今回の旅が終わったらエリシスの居城である帝室の地下墳墓にエリシスと一緒に帰らねばならなかった。
エリシスは、自分も跪き左手でケニーの手を取ると、その顔を見詰める。
エリシスとケニーの目線が合う。
ウットリとした表情でエリシスが尋ねる。
「目を見れば判るわ・・・。貴方、ルナの事を愛しているのね」
「はい!!」
ケニーは、真剣そのものであった。
エリシスはケニーから目線を移し、チラッとラインハルトの方を伺う。
ラインハルトは、エリシスに無言で頷く。
エリシスは、左手で取ったケニーの手の上に、自分の右手を重ねて微笑んで答える。
「判ったわ。ルナの事をよろしくお願いね」
「はい! ありがとうございます!!」
ケニーは、エリシスに深々と頭を下げる。
エリシスは、ケニーから手を離すと、ケニーの側で事の成り行きを見守っていたルナに話し掛ける。
「ルナ。幸せにね」
「ありがとうございます!」
ルナもエリシスに深く頭を下げる。
エリシスは、ケニーとルナに微笑み返すと、副官のリリーを伴い、レッドカーペットの上を去っていった。
ケニーは、立ち上がってルナと抱き合って喜んでいると、ジカイラ達が2人に歩み寄り話し掛ける。
ジカイラが口を開く。
「やるじゃないか! ケニー! 男だぜ!!」
ヒナもケニーを褒める
「ケニーたん、カッコ良かったよ!!」
ティナが冷やかす。
「お二人さん、やりますねぇ!!」
ケニーはルナと腕を組んだまま、照れくさそうに苦笑いしていた。
--帝都ハーヴェルベルク 皇宮 皇帝の私室
戦功叙勲式が終わり、ジカイラ達五人とラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、クリシュナが皇帝の私室に集まる。
かつてのユニコーン小隊にルナを加えたメンバーと言ったほうが判りやすいかもしれない。
ナナイ、クリシュナ、ヒナ、ティナ、ルナの女性五人とケニーは、円卓の席に付き、ケーキを食べながらお茶を飲んで談笑している。
ラインハルト、ジカイラは、立ったままで立ち話をしている。
ハリッシュは、落ち着かない様子でエプロン姿で給仕をしていた。
ハリッシュがクリシュナの傍に行き、その身を気遣う。
「クリシュナ。大丈夫ですか? 何か必要なものはありませんか?」
クリシュナは妊娠四ヶ月のため、そのお腹はかなり大きくなっていた。
「ハリッシュ、心配し過ぎよ!! 私は大丈夫だから!!」
身重の妻クリシュナを気遣い、足繁くそそくさと世話を焼くハリッシュの微笑ましい姿に皆が微笑む。
ラインハルトが口を開く。
「ハリッシュ。家政婦を雇ったらどうだ? 何も帝国魔法科学省長官の君が、エプロン姿で給仕などしなくても。何なら、此処の侍従を一人、貸そうか?」
ハリッシュが答える。
「そういう訳にもいかないでしょう! 生まれてくるのは、私とクリシュナの子供ですよ!?」
ジカイラも苦笑いしながら口を開く。
「まだ四ヶ月だろ? 別に今すぐ生まれてくる訳じゃないんだから、お前、少し落ち着けよ」
ハリッシュは、2人の讒言など耳に入らない様子であった。
「・・・これが落ち着いていられますか!」
ジカイラとラインハルトは苦笑いしながら話す。
「やれやれ・・・。先が思いやられるな」
「まったく・・・」
冷やかされていたハリッシュが口を開く。
「・・・しかし、ユニコーン小隊は、おめでたラッシュですね! ナナイに子供が生まれたと思ったら、次はクリシュナ、そうこうしているうちに、ヒナとティナもおめでたとは!! まるで小隊の女性陣で示し合わせたようですね!!」
ハリッシュの言葉にヒナとティナが照れて赤くなる。
ヒナはジカイラの子供を、ティナはラインハルトの子供を孕んでいた。
ヒナが口を開く。
「私は、男の子でも女の子でも良い。健康で元気に生まれてきてくれれば」
ティナも口を開く。
「次はケニーとルナの番ね!!」
ティナの言葉に、2人は照れくさそうにしていた。
ジカイラとラインハルトの2人は、皇帝の私室からテラスに出る。
ジカイラがラインハルトに尋ねる。
「結局、港湾自治都市群や麻薬組織はどうなったんだ?」
ラインハルトが答える。
「港湾自治都市群の中核都市3つは直轄都市にした。その他の自治がしたい街は、そのままにしておくよ。麻薬組織は壊滅状態だ。国内で
ジカイラが続ける。
「カスパニアが裏で手引していたようだな」
ラインハルトが答える。
「ああ。しかし、今度の一件で懲りただろう。王太子と護衛の騎士は密入国で逮捕され、越境した軍は戦わずに敗退。軍を率いた将軍と宮廷魔導師は、一騎打ちで敗れて捕虜だ。カスパニア国王が密入国と越境を謝罪して、4人の身代金を払ったよ」
ジカイラが苦笑いする。
「・・・そりゃ、列強国のメンツ丸潰れだな」
ラインハルトも苦笑いする。
「だろ? これ以上、追い込みを掛けることはしない」
ジカイラが続ける。
「革命党と秘密警察、ダークエルフのその後は? 」
ラインハルトが答える。
「情報は無いな。奴等は恐らく新大陸だろう」
ジカイラが呟く。
「新大陸か・・・」
ラインハルトが続ける。
「新大陸に遠征する準備を行いつつ、まず情報収集だろう。未知の領域や種族、生物など情報が無さ過ぎる。当面は
「そうだな・・・」
ジカイラがラインハルトに告げる。
「お前が新大陸に遠征する時は、オレにも声を掛けろよ。一緒に行くからな」
ラインハルトが呆れたという素振りを見せる。
「おいおい」
ジカイラは真剣な表情で語る。
「オレに遠慮するな。オレは『抜身の剣』、お前は『剣の主』だ」
ジカイラはそう言うと、右手の掌を上にしてラインハルトに差し出す。
ラインハルトは右手でジカイラの掌を叩くと、右手の掌を上にしてジカイラに差し出す。
ジカイラは右手でラインハルトの掌を叩くと、拳を作る。
ラインハルトが拳を作り、ジカイラの拳と合わせる。
ラインハルトは、ジカイラの目を見て微笑むと口を開く。
「生まれてくる子供の顔を見るまで帝都に居ろ。皇帝の勅命だ」
ジカイラはラインハルトと肩を組むと苦笑いして答える。
「そう言うと思ったぜ!!」
ジカイラ中佐とヒナ大尉は、皇帝ラインハルトの勅命により、帝国中央軍特務部隊から転属、士官学校教官に任ぜられた。
ケニー中尉は、新設された帝国情報局に転属。ルナは、ケニーの副官として帝国情報局に採用された。
ティナはお腹の子供について、ラインハルトに地位や金銭を要求することは無かった。
また、ティナの子供の父親を知っているのは、ユニコーン小隊とルナ、帝国四魔将だけであり、ティナ自身も含めて誰も口外することはなかった。